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ショートショート:『チャリンチャリン太郎』400文字x2編


久々に書かせていただきます:)

今週のお題は「チャリンチャリン太郎」。
ということで、2編書いてみました。
優しいバージョンと 面白いバージョン。
貴方はどちらが好みですか?ふふふ。

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【優しいバージョン】‐(408文字)


チャリーン

薄汚れた街角で響き渡る希望の音。
この町に住む全ての者が心の何処かで この音を夢みていた。

キーマスター 通称『チャリンチャリン太郎』が自分の元で足を止める事を…。

彼は ありとあらゆる鍵をぶら下げ町を歩き回っては
一人また一人と扉の向こう側へと連れてゆく。

重く重なり合った鍵の中から そっと一つの鍵を差し出された者達。
雪の中で埋もれる少女
視覚を失った老人
時には道端に傷だらけで倒れる子猫にも。

彼の扉が開かれると素晴らしい花々の香りが漂うという。


今宵 太郎の鍵音は一つの扉の前でそのを止めた。
それは一昨日 傷ついた子猫を導いた扉。

太郎はそっと扉に手を翳し、ゆっくりと扉に耳を当てた。

「にゃおぉ~ん」

甘く放たれる微かな声に
柔らかな笑みを浮かべる。

胸にぶら下がる鍵の中から小さな鍵を手に取って
ふぅーっと息を吹きかけると
スゥーっと鍵は消えてなくなった。

『 達者でな 』


今夜もチャリンと幸せの鐘が
薄汚れた夜の町に溶けて行った。


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【面白いバージョン】‐(410文字)


チャリーン

金物が響き合うあの重く冷たい音。
アイツだ。
アイツが来る。

野田警部は真っ暗な薄汚れた街角の影で息を殺す。


ここ数か月、野田は自分の生活を全て放り投げ
アイツを検挙する為だけに生きてきた。

通称 チャリンチャリン太郎

この時代の凶悪犯罪者。
『キーマスター』と呼ばれる奴は ありとあらゆる鍵をぶら下げ
どんな扉でも簡単に開けてしまう。
銀行金庫、美術品倉庫、機密書類棚…
盗み入った扉は数知れない。

小走りに近づく影と共に、妙な明かりが放たれる。

そうだ、『あの鍵』を使え!

太郎の首元で煌々と光を放つ鍵。
野田がやっとの思いでたどり着いた
盗品があるであろう黄金の鍵。

そっと光が、ある扉の前で翳される。
キィーと扉が開くと同時に 野田は一挙に踏み出した!

「太郎!お前もこれで終わりだぁ!!」


「あ゛っ…」

放たれた扉の中には

綺麗に磨かれた

便器がポツンとあった…。


『あ゛っ…あ゛ぁぁぁ!』

濡れ行くズボンにガクリと太郎が呟いた。

『おっ…終わった…』


・・・・・・・・・・

おしまい。(笑)


書いていて…どちらのバージョンも長めのショートショートもしくは小説として描いてみたいなと、ちょっぴりそんなことを思っている私です。
面白いほうは、皆様のこの企画で 沢山のクスクスを頂いているので、自分も挑戦してみたものです:)
うまく「おち」というものを描けたといいです:)


七田 苗子

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