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4月の観劇記録とオリヴィエアワード

4月の新学期のバタバタも落ち着いて、4月はちょっとだけ観劇してきたのでここに残しておこうと思います。


マシュー・ボーンの「ロミオ+ジュリエット」

日本でも大人気なマシュー・ボーンですが、古典的なクラシックバレエと比べるとモダンなマシュー・ボーン作品は設定もわかりやすいし、カジュアルに観劇できるので好きです。

私自身、バレエは幼少期から中学受験までは習い事としてやっていたので、クラシックバレエのジャンルや演目などある程度は分かります。
しかしながら、生粋のミュージカル好きなので、歌やセリフがないバレエ作品には余白を感じてしまい、その余白に作品の世界観や没入間、演出の方に意識を向けて観劇してしまう癖があります。

今回の「ロミオ+ジュリエット」は従来のヴェローナの街ではなく、近未来の矯正施設。
描かれる主軸は矯正施設で出会うロミオとジュリエットの愛と看守のティボルトと若者たちの対立。

大幅に変わっていますが、個人的には14世紀のイタリアの街よりはイメージしやすいし、キャピュレットとモンタギューの対立の代わりに大人と子供という対比の方が感情移入しやすいと感じました。
数々のプロットも変わっており、ティボルトの殺害は仲間であるマキューシオを殺された矯正施設の若者たち全員によるもの。(とはいえ、看守に発見された時の状況証拠が揃っていたロミオが犯人扱い)
ロミオの死もティボルトによる虐待がトラウマになったジュリエットによる精神倒錯でロミオがティボルトに見えてしまい隠し持っていたナイフで殺害。

原作や来月上演のミュージカル版と比べると、ジュリエットの表象が超現代的かつすごく掘り下げられているように感じました。
また、マキューシオ一味の人数が多いなと思ったら、マキューシオの彼氏バルサザーがいて、マキューシオの死には友人の死だけではなく、恋人たちの別れも描かれていて、マキューシオの死がより奥深いシーンになっていました。

今回はあくまでカジュアルな観劇だったので、感想はさらっとしていますが、シェイクスピア研究の視点で観劇するのも楽しいかなと思いました。
同じ「ロミオとジュリエット」でも時代設定や背景設定が違うからこそ、元々のプロットをどこまで活かせるか、はたまたどこまでアレンジできるかの共通項や差異を改めて分析することで新たな一面が見てきそうだなと感じました。

ちなみにバタバタしていたので、ギリギリで適当にチケットサイト見たら、、、チケットがまぁ残っていること。
おかげさまで割といい席で見られたのですが、こんな良作でシアターオーブという大きな劇場を使っているのにこのガラガラっぷりは問題。

駅のホームなどでちらほら広告を見た気がしますが、なんでこんな事態になったのでしょうか。
偶然劇場で遭遇した友人と休憩時間にその話をしていたのですが、友人曰く「バレエ好きにとっては有名人やスターが出ているわけでもないし、演劇好きにとってはセリフが歌唱があるわけではないし、マシュー・ボーン作品はストライクゾーンの層が少ない」とのこと。

私はなんでも見る派なので、考えても見なかったのですが、確かに熱狂的なファンとかは見ないかも、、、。

とはいえ、マシュー・ボーンの作品って、本人が幼少期からバレエを習っていないのもあってか、古典的な発想に縛られない柔軟な演出が印象的で、事前知識がそんなになくても楽しめるから、初心者を取り込みやすいジャンルな気がするんだけどな。
そこを逆手に取って、普段舞台鑑賞しない層に訴えかけるプロモーションや学生向けの芸術鑑賞教室など、やり方はいろいろあった気がします。
せっかく見応えがあるし、なんだかもったいないな。と。

ミュージカル「VIOLET」

梅田芸術劇場とチャリングクロス劇場との共同企画「VIOLET」
今をときめく実力派キャストと読売演劇賞を受賞したばかりの藤田俊太郎さん演出の注目作!

周りの友達もみんな絶賛していたし、観劇済みの母からおすすめされて見に行ったのですが、びっくりするほどハマらなかった。

楽曲はトニー賞を2回も受賞しているJeanine Tesoriなので、耳に残る魅力的な楽曲だし、演出は藤田俊太郎さんらしい洗練された見やすい演出、キャストも実力派ばかりで聞き応えも見応えもバッチリ、、、。なのに脚本が全く共感できなかった。

多分、時間的に予想するに今回の公演は内容がショート版だったのかな?
そもそも冒頭に公民権運動や黒人差別に関する描写があったから、どうなるかと思いきや黒人差別を全然掘り下げられず、ちょっとセリフがあるだけ。
そこがなんだか浅く感じてしまって苦手意識から抜けきれず。

※ここから政治的な話になりますので、苦手な方は次の段落までスルーしてください。
ついでに言うと、2024年大統領選に向けたトランプ前大統領の人気に恐れ慄いている中で、今後の行く末に決してポジティブになれない中でこの作品を見るのがメンタル的にきつかったと言うのもあります。
個人的な希望としては、1960年代のアメリカの設定ならもっと生々しく、差別に対する怒りや失望が描けるはずだし、差別撤廃や平等な社会に向けた気持ちを声高々に宣言して、希望を持ちたかった。
でもそれはただの希望、私のわがまま。だからこれはただの感想です。

このような作品があることは全く問題じゃない、いろんな表現者がいて、いろんな作品があるのだから。
でも無自覚や無意識下での人種差別や民族差別が横行していて、その事実から目を背けている日本で上演するのには不向きではないかと思いました。
こんなさらっとじゃなんの啓蒙にもならない。
もちろん元々の脚本を変えることはできないのだから、なぜこの作品を選んだんだろうと言う疑問が残りました。

また、この作品においては主人公にも共感できなかった、、。
彼女の容姿におけるコンプレックスや自己肯定感の低さがちょっと無理で、作品を通して受け入れるまでの過程がスローすぎるし、彼女の宗教観にはどうしても共感しずらくて、観劇中は「その傷を唯一無二の個性として受け入れればいいのに」とばかり思っていました。
全然共感できなかったのは私の修行が足りないからだとは思うのですが、なんだかなぁといった感じです。


ミュージカル「CROSS ROAD」

再演された「CROSS ROAD」
実はミュージカル版の初演も観劇していたのですが、中川晃教さんの悪魔的な超絶技巧の歌唱を浴びたくてまた観劇してきました。

出演者とテーマが被っていると言う点でミュージカル「DEVIL」と比較しながら観劇してしまった節があるのですが、改めて見るともう少しブラッシュアップしてもよかったのでは?と思いました。

特に気になったのは出てくる歌詞やセリフの言い回し。
単純な単語しか出てこなくてどうしても稚拙で子供っぽく聞こえてしまうので、いまいち世界観に入り込めない。
ニコロの母とコスタ先生の才能の歌とか、せっかくリズム感が面白い楽曲なんだから、才能才能繰り返すんじゃなくて言葉遊びを入れるとか、もっと粋な歌詞や遊び心を入れてもよかったし。
エリザに対するアムドゥスキアスのファムファタルの歌もそんな繰り返さなくてもわかるって!ってなるし。
また、あんなにギャンブルがキーならギャンブルの歌が一個あってもよかったよなと思ったし。

描きたいものが多すぎた故なのか、最終的なテーマの終着点は「母の愛」みたいになっていて、内心ずっこけました。
「ニコロ・パガニーニ」と「悪魔」といくらでも深掘りできる魅力的なテーマなんだから、調理する余地はいくらでもあったような気がするのに。

あくまで予想ですが、元々音楽朗読劇だったと言うことを考えると、個々の役者や役の活躍が重視されて、各々の比重が均等に分配されているように感じました。
役者の活躍の場としてはいいけど、それをミュージカル作品としてみるといまいちまとまりが感じられず、満足度が今ひとつなのかなと。
あと正直、執事の役はなくてもよかったような気がします。
彼の解説が入ることでミュージカルの没入感や臨場感を打ち消し、作品全体がフラットなトーンになって漫画っぽく見えてしまって非常にもったいなかった。

「ミュージカル好き」としては、題材もプロットも十分面白いのだから。
ニコロ・パガニーニを描くミュージカルという主軸は外れずに、「異端者」としてのニコロとアーシャの絆。才能(アムドゥスキアス)との葛藤と戦い。激しく燃え上がり激しく燃え散るエリザとの悲恋。全てを包み込む母への愛。ベルリオーズ等次世代へのバトン渡し等を壮大な楽曲とともにドラマチックで印象的に描いていれば後世に残る名作になっていたのは間違いなかったはず。

さらに楽曲はいい意味でミュージカルっぽくないし、オケや歌詞ももっと遊び心を入れてもっとインテリジェンスな作品として仕上がっていれば、いつでも海外に輸出可能な面白い作品になったのにと惜しい気持ちになりました。

小娘が生意気につらつらと書いてきましたが、あくまで一個人の意見だと思って読んでいただけると幸いです。


 LAURENCE OLIVIER AWARD 2024

4月開催のオリヴィエ賞。
Youtubeに全編上がっているのでかいつまんでパフォーマンスだけ見ました。

今年の目玉はなんといっても「サンセット大通り」でしたね。
実はこれロンドン滞在時に見る気満々だったのですが、チケット手配のタイミングをミスって泣く泣く諦めた公演なんですよね。間違いなく今年1番の後悔はこの作品。それでも秋にNYに上陸するのが心の救い。NYで見られることを祈っています。

この公演は照明やセットが革新的なだけでなく、役者の評価もとっても高くて、新時代のミュージカルといった感じ。今回のパフォーマンスも白黒のフィルターを通して作品の世界観を表現。いやー見たかったなぁ、、、。笑

そして個人的には観劇できた「GUYS&DOLLS」にはテンション上がりました。
まさかの「Take Back Your Mink」でびっくりしたけど、日本のガイズにはなかった絶妙な下品さとコメディ感が海外ならではよかったですね。
観劇した時はイマーシブ型という特性から、その世界観についていくので必死なので、改めて見ると派手な仕掛けや演出がないのに、ショーガール!って感じが満載で役者の力量を実感。

あとはHannah Waddinghamのオープニング。
ピアノ一台でJazzyで洒落たAnything Goesがしっとりとはじまったと思ったら、大規模なコーラスとオーケストラが華を添えていくという構成がまさにこれから開演するミュージカルのワクワク感といった感じでゾクゾクしましたね。
去年のオープニングも様々な作品の共演といった感じが派手でワクワクするし面白かったけど。今年はひたすらに粋。
シンプルさで勝負!って感じがまたイギリスらしくてとっても好きでした。

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