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【作品レビュー】知里幸恵の短い生涯と『アイヌ神謡集』誕生までを描いた絵本

こんにちは!江森奈々です。

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ユキエとくま (山烋のえほん)

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「ユキエとくま」
アリーチェ・ケッレル/作
はせがわまき/絵
関口 英子/訳
工学図書
2023年年5月29日刊

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様々な動物たちの声を聞き、自然に対する畏敬の念とともに暮らしてきた文字を持たないアイヌの人々。その精神を受け継ぐ祖母と一緒に暮らした幸恵が、後に『アイヌ神謡集』を生み出すまでを描いた物語。

幸恵が生まれたのは1900年初め。当時はアイヌに対する差別が残る時代でした。とても優秀だった幸恵は、アイヌ人であるというだけでいじめられ、進学においても差別の壁が立ちはだかりました。

そんな悲しみや悔しさの中で学校生活を送る幸恵の元に、ある日一人の男性が訪ねてきます。それは言語学者の金田一京助氏でした。

それから幸恵は金田一氏のいる東京に出向き、『アイヌ神謡集』の校正作業に携わります。祖母が様々な動物たちの声色で歌を歌うのを聞いて育った幸恵は、その歌ものがたりをローマ字で記録し、日本語に訳すという偉業を成し遂げます。そして編集し終えたのと同時に19歳という短い生涯を閉じます。

まるで失われかけていたアイヌ文化を、言葉にして後世に残すという使命に生きた人生でした。厳しい境遇の中でも使命を全うしたその生き様に心打たれ、敬意を抱かずにはいられません。また、誰しも人生にはお役目というものがあるのかもしれない、そんな心境にもなります。

本作品はイタリア人の作家、アリーチェ・ケッレル氏によるもので、絵はイタリア在住の画家、はせがわまきさんが手がけています。淡く優しいタッチのイラストが幻想的なアイヌの持つ世界観によく合っています。

元々イタリア語で出版されていた原書を、知里幸恵生誕120年を記念し日本語訳として刊行されたものになります。原書がイタリアで出版された背景には、アイヌ研究の第一人者として知られるフォスコ・マライーニ氏がイタリア人であったことが関係しています。イタリアにおいてアイヌ文化にいち早く関心が向けられ、大切にされていたことを知り、思わず感激してしまいました。アイヌ文化の持つ価値は人類共通の財産であるということを示しているようです。

日本人である私たちも、アイヌ文化の崇高さに触れてみることで、忘れかけていた本当に大切なものを思い出させてもらえるのではないでしょうか。この絵本がアイヌ文化に目を向けるきっかけになればと思います。

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