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約1年でeNPS(従業員満足度)を+70pts上昇したアクション、すべて語ります

昨年9月に執行役員兼本部長に昇格して以来、とある経緯で「私の仕事の6割は組織作りに費やす!」と決めて早1年強経ちました。

従業員満足度でemployees net promotor scoreというのがあります。「あなたはこの会社を薦めますか」という質問で「Yes」と答えた人の割合から「no」と答えた人割合の差分を出すものです。

これが、なんと、1年で約70ptsも上がりました!!(-10から+58へ)1年前は「非推奨者」の方が多かったのに、今年は「推奨者が約6割」「批判者ゼロ」という結果です!

組織の特徴として、「個の尊重」「上司のサポート」「仕事の裁量」が平均よりも高いという特徴も出てます。

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なんというか・・・やればできる・・・という感想。

1年間、硬軟合わせていろんな施策をやりました。が、ここまでの結果を出すには、やはり「執行役員 or 本部長権限」が絶対に必要だったと確信しています。(部長だったら、ここまではできなかった・・!)

これを読むと、「今の私のポジションでは無理・・」と思う方が大量に出てきそうではありますが、「ここまでやらない上司が悪い」とあきらめるのではなく、「組織の長の権限をうまく使うとここまでできる」という解釈をしていただきたいと思ってます。出世を望まない人が多い中、私自身は「組織をよくするために、他でもない自分が上に上がる」と決めて、そういう動機の自分がどれだけやれるか証明するつもりできました。「踊る大捜査線」の室井さんじゃないですけど、上に上がって組織を変えると決意しても、立場が変わると組織政治の複雑さで変節する人も多いなか、そうじゃない事例を見せたかったし、できることを証明したかったんですよね。そんな勝手な使命感を持ちつつ、この1年間、見えないところでたくさんのアクションに取り組みました。

長いですが、隠し立てせずにすべて語っていこうと思います。

メンバーの悪い所を引き出す組織から、良い所を引き出す組織へ

まず、マインドセットです。組織内の小競り合いがあったり、へそを曲げる人、感情的になる人・・・人手不足でプレッシャーの高い環境で、様々なネガティブな反応をする人がいます。ここで出てくるのは、「そういう人は良い組織を作るために排除すべきなのか?」という問い。私はNoと思います。なぜなら、そもそも責任感や善意が根っこにあるから、そういう強い反応がでるのです。過去に善意でやった取り組みが上司に踏みにじられたり、「やってもらって当たり前」みたいな周囲の反応で感謝されなかったり・・そういった、人の善意と業務の余裕のなさのはざまで踏みにじられた感情が噴出しているだけなのです。

実は、自分自身がそういうリアクションをするタイプで、挙句の果てに社長からエグゼクティブコーチをつけさせられ、問題行動を矯正するコーチングを受けました。そこで気づいたのは、「人の行動は組織の枠組みに強烈な影響を受ける」ということ。人の良い所を引き出す組織があるならば、人の悪い所を引き出す組織もあるはず。人は誰でもはじめはやる気をもって入社してくるのですが、どこかでやる気をくじかれたり、善意を踏みにじられた経験をします。なので、人のふるまいを評価するときに、まず「この人の問題行動を引き起こしている組織のひずみは何か?」という視点を持ち、個人の属性を責めないことを自分に約束しました。

部門の職務範囲の整理と管理職の兼務をなくす。チームの人数を適正化する。

組織の中での嫌な状態・・・。仕事のおしつけあい、リソースの取り合い、それを放置する管理職と、そのせいで疲弊するチームメンバー・・・。そんな光景をよく目にしました。

それがなぜ起こっているのか、というと、そもそも、各部門の役割の定義が、変化する業務内容に対してきちんと更新されていない。その結果、境界線上にあるグレーゾーンが広くなってしまう。それに、それを調整する管理職がいなかったり、プレイングマネージャーになっていて気が付かない、ということがあります。特に、管理職の兼務を連発する組織は最悪です。

こういう状態を極力減らすために、部門の枠組みを変えました。本部内の部署を2部門から3部門へ。部長と課長の人数も増やして、それぞれの部に8~10名、チームは4~5人という風に整えました。部課長の枠を増やして採用や異動で埋めるのは半年がかりですが、本部長が入れ替わった時にこれをやるのはスタンダードな取り組みなので、社内では最も通しやすいです。この機会にずっと温めていた組織図に塗り替えました。

さらに、硬直化を防ぐために課を廃止しました。課長というタイトルの人は置きますが、課という箱を無くすということです。課長を長とするチーム制にして、将来の状況の変化にも対応しやすくしました。(課の新設・廃止はいろんな承認が必要なため)。

人員の補充については、本部長になるといろいろ手があるので、持てる力すべて使って調整する

従業員満足度を上げるには、やはり「人手不足」の問題は避けて通れません。実は、部長時代は「何をすれば人手を増やせるのか」というカラクリは全くブラックボックスで、不可侵な領域かと思っていました。しかしながら、本部長レベルになると、いろんな情報が見えてきますし、その組織でどのような理屈で人手を増やしたり減らしたりするのか透けて見えてきます。というか、ここがネットワーク力の見せ所で、人事担当役員や、同僚の執行役員に「どうやって(やれば)人手を増やしたのか」という情報を全力で収集しました。そして会社の風向きを見てタイミングを見計らって人員の補充を申請する。もちろん外部環境などで人員追加が絶対に認められない局面もあるのですが、そうではない時期もあるのです。そのタイミングの見極めと折衝に私自身の持てるスキルをすべて投入した、といっても過言ではありません。今でもこの点の情報収集は最優先で取り組んでいます。

メンバーのサラリーを適正化する

ここも避けて通れないポイントです。仕事はできる人に集中するのに、報酬は必ずしもそうなっていません。これが常態化するとハイパフォーマーが競合他社に転職する・・なんてことが起こってしまうわけです。本部長になると全員のサラリーと過去の評価もわかりますし、貢献と報酬に大きなギャップがある方が誰なのかわかります。報酬が多くて貢献が小さい方には半年~1年がかりで評価を適正化して、職位や報酬を是正します。これが一番痛みを伴うものですが、これをやらないと前に進まないので、個人の意思の尊重をしながらもドライに取り組んできました。長期的にみると、期待値に満たない仕事を長期で取り組むのは本人も辛いと思います。ですので、報酬と貢献のバランスを是正することと引き換えに、組織内の居場所づくりやその人が貢献できる立ち位置をきちんと作ってきました。趣旨をご理解いただき、新たな職責で周りから感謝される働きをしてくれる方も複数でてきています。

それ以外にも、採用枠の年収を多めに申請しておいて、採用した方の年収とのギャップの枠を他の人に振り分けるなど、かなりきめ細かい調整を積み重ねたおかげて、百万円単位で報酬を挙げた人も複数存在しています。例えば、夏に年次昇給とは関係ないタイミングで昇格・昇給を断行しましたが、それも、たまたま社内のルールが簡素化されたので、人事の方々と協力してすかさず実行したという経緯です。こういったことも本部長の権限があれば可能なわけなのです。もちろん、この案件に普段から目配りをして隙あらば実行する、というマインドセットも重要なのですが。

ここまでが組織のハード面に関する取り組みです。やってみて思うのが、やはりここは手を付けないと、ここまでの大幅なリフトアップは難しかったのではないか、ということ。逆にいうと、こういった組織のハード面を変えられるのは権限を持っている私しかいないわけです。その仕事をせずに部下にばかり押し付けるのは不条理だと思って、陰で汗をかいてきました。そのあたりは、少なくとも、直属の部下である部長さんたちには伝わっていると思います。

次はソフト面のお話をしていきます。

どんな組織文化にしたいのか、明確に、事例ともに宣言する

本部長に着任して、いの一番にやったことは、私がどんな組織文化にしたいのかをマネージャーの皆さんに説明する、ということでした。「組織は戦略に従う」なんて言葉もありますが、今の事業環境や会社として作りたい競合優位性やそれを実現するケイパビリティを説明しつつ、その当時の組織文化に対する本音の分析をパワポにして説明しました。その中で語った組織文化ビジョンを紹介します。

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これは私自身のエグゼクティブコーチングの中で何度も言葉を練り直して作ったものです。

これを一つずつ「NG状態」→「OK状態」という事例をまじえて説明しました。例えば、「部門間の役割分担が不明瞭な時に、管理職が自発的に交通整理をしない」というNG状態を「管理職が同じ階層同士で問題を整理して、必要であればその上の上長に調整を求めることができる」というのをOK状態という風に定義しました。普段の業務で身につまされるような事例をふんだんに盛り込んだので、ありたい状態を具体的にイメージすることに役立ったと思います。

自分が変わった姿を見せる、と宣言する

その時のプレゼンで宣言したのは、「まず私がこのビジョンを体現するような行動をとれるかどうか、まずそれを努力する」ということです。まず自分が変わった姿を直属の部長さんたちに感じてもらう。それを見て自然に新しいふるまいが波及していく。そういうやり方を目指している、ということを伝えました。自分も決意が持てますし、変わることの大変さを体感できる。これを感じることにより、すぐに変われない人や定着しない人への寛容さが培われたり、アドバイスもできるようになります。

部下が上長承認にかける負担を減らす

着任直後にやったことですが、執行役員兼本部長である私に対しての報告や承認の負担をどれだけ簡素化できるか、という点にはこだわりました。上司の承認を取るためにスケジュール取りで疲弊し、大量のパワポづくりで疲弊する。さらに上司の知識が乏しければ教育的資料も作らざるをえなかったりします。それを防ぐためにやっていることは、例えば、こんな感じ。

・私からの指示や方向性についてすり合わせする時間はふんだんに使う。作業に取り掛かる前に完成形のイメージや振り幅のすり合わせを行っておく。(このゾーンまで来たらNGというのも伝える)

・私への承認は、基本はメールにして、必要であれば部長とチャットで空き時間に会話するか、部長との定期ミーティングの中で話を聞く。(私のスケジュールを抑えるためにメンバーが疲弊するのを極力減らすことが目的。)

・大枠の方向性に迷っている時は必ず相談に乗る。そのあと、完成に至る細かい調整は部課長に完全にお任せする(絶対に後からひっくり返さない。気になることがあれば次回に対応してもらう)

こういう方針でやると、自分自身の指示スキルも上がりますし、部下からの承認を求めるミーティングがスケジュールで段積みになることもありません。これを繰り返していくと、部長さんの頭の中に判断基準が作られるので、事後報告で追認することも多くなってきます。このサイクルをさらに補強するために、部長さんの行動で期待通りの動きをしている時には、「そのやり方がパーフェクトなのでその調子で進めてください」とはっきり伝えるようにします。

一方で、私の役割は、検討を始める段階で、違う視点をもたらしたり、ストレッチの幅やベクトルを提供すること、と割り切っています。さらに、将来のために鉱脈探しを始めたり、煮詰まった時にどうやって突破口を示せるか、そこに私自身のバリューを置くように心がけています。


業務量を減らすところでトップダウンのパワーを使う


みなさんの職場でも、誰が見てるのかわからないような細かいレポート作りが大量にありませんでしょうか?前の上席者が欲した資料や、戦略の軸足が変わる前の資料作り、いまや賞味期限の切れた作業がたくさんあるのが普通です。それでも、作業者の立場からすると止める提案も出来ず、挙げ句の果てに今の上席者は「残業を減らせ」と言ってくる…。これが組織の下からみえている景色です。

この心理を踏まえて、私自身が止める仕事を特定することを強く意識しています。「仕事をサボったら叱られる」という脊髄反射的な恐れは強力なので、トップダウンの力を使って、仕事を減らすことに対する耐性をつけていく必要があります。

ちなみに、喜ばれると思いきや、トップダウンでやっているにも関わらず、いざ止めるとなると抵抗される場合があります。思い返すと作業指示を依頼したときに嫌そうだったりするのですが、「もうやらなくていい」と言われると、「自分の費やした時間が意味のなかったものにしたくない」というという心理が働きます。これを認知的不協和と言いますが、心理的に自然な反応だと捉えて、気にせずどんどん減らしていきました。

そのほかにも、普段の相談や作業指示の際に、やらなくていい作業を特定することも意識しています。上司の求める期待値が分からないと安全マージンを取って作業量が増えがちです。過去の経験を思い返して、具体的に指示すると良いでしょう。

他にも仕事を簡素化することに着目した本部内コンテストをやったりして、業務量を減らすことを奨励する雰囲気づくりをしています。業務量を簡素化する事例のコンテストは、黒子的な業務をやっている方の活躍の場所になっていて、普段日の当たらない業務をしている方のモチベーションにもなっています。

部課長が管理職業務に集中できる環境を作る

部課長へデリゲーションを進めると同時に、ちゃんと部長と課長が管理職業務に集中できて、分業できる状態を作りました。部長は視野を広く、横の部門との連携やリソース配分、戦略の解釈と落とし込みなどの調整業務に集中してもらいます。一方、課長は、チームメンバーの育成やメンバーが実務を確実にやりきるのを支援する。特に課長がプレイングマネージャー化すると、放任されたメンバーの生産性が落ちるので、課としての総生産高が減ってしまいます。人員の補充はもちろんですが、部課長の管理業務をサポートする役割のベテラン社員をアサインして、大量の定期的な報告書作りをお願いしています。


周りと衝突したり、へそを曲げそうな環境にいる部下を初期段階で特定する

いろいろと仕事をしていくなかで、どんな人でも周りと衝突しかけたりすることはあるものです。特に中途入社や異動の方たちは周囲との押し引きの勘所が分からず、うまく動けないときがあります。そうしたことが起こっていないか、私自身が部門長との定期ミーティングで具体的に質問を投げかけるようにします。そういう問いかけに端を発して、小競り合いを防止したり、コミュニケーションをスムーズにするアクションをたくさん実行しました。特に、部課長が気にかけて事情をヒヤリングするだけでも、担当者のストレスはだいぶ軽減されます。率先して部下のために交通整理をすることが、この組織の中で望まれている役割だ、という認識が定着しているのは非常に大きいと思います。

ストレングスファインダーを全員受けて、共有する。行動目標に反映させる

ストレングスファインダーという診断があります。個の資質を34個に分解して、その人の特徴的な資質の上位5個を選定するものです。

例えば私は「戦略性」「達成欲」「着想」「内省」「最上志向」と言った具合です。これを全員診断してもらって、一覧表にして共有しています。さらに、行動目標もこの資質をからめた物にしています。

この診断の良いところは、それぞれの個性が可視化される点ですが、他人の良さを受け入れる点でも大きな役割を果たしています。人間、自分と似たような人を高く評価してしまいがちです。おそらく、私が昇格した時に、メンバーの中には「私のようにならなければいけない」と無意識のプレッシャーを感じた人もいるはずです。ストレングスファインダーを導入して共通言語にする取り組みのなかで、「自分らしい貢献の仕方をすればいいんだ」という雰囲気が醸成されました。

これを使ったワークショップも何度もやっていますが、自分の持っていない資質を持つ人と協業することで生まれるプラスの効果や、相手の良さを尊重するマインドセットは、このストレングスファインダーの導入で大きく培われたと思います。

従業員満足度向上を人事評価項目に組み込む

これは賛否が分かれますし、私もはじめはためらっていましたが、従業員満足度の向上を人事評価の定量評価に組み込みました。いやらしい手と思われるかもしれませんが、以下の2つの点で、絶大な効果がありました。

・売上など他の業務KPIと並列に扱うことで、「これは仕事なんだ」という意識付けをする(時間があればやる、というものではない)

・従業員満足度が高まっても、結局、評価されないのではないか、という懸念を払しょくできる。

満足度向上は小手先のことをやっても短期的な成果で終わりますし、脅しのようなことをやっても必ずばれます。むしろ、このように「これは仕事です」という立て付けにすることで時間を割く妥当性が生まれるわけです。さらに、従業員満足度をあげるためにミーティングをする、といったこともやりやすくなったと思います。

いわゆるよさそうなアクションもやるが、あくまで付随的なこと

部課長さんたちに、どのようなアクションを取るかアイディア出しをしてもらいましたが、本質的な基本動作にまつわるアクションが多かったので、それを着実にやり切るということに注力してもらっています。ポイントはやってる感を出すためのアクションはしないということ。これをやると白けますし、単に時間の無駄です。もちろん、コミュニケーション量を増やすためのオンライン飲み会や、食事会、ワークショップなどもやりましたが、あくまでこれまで述べてきたような構造的・文化的なものがあってこそかな、と思います。

NPS(Net Promotor Score)の定義の浸透はしつこく行う

些末だけど大きな差を生み出すのがこの点です。Net Promotor scoreという指標は、10、9が推奨者、5以下が批判者というスケールになってます。つまり、「8」をつけると「どちらともいえない」、「5」をつけると批判者になってしまうので、日本人的な感覚では、とても間違えやすいのです。この2つの定義を浸透させることは極めて重要です。調査直前にみんなで必ず説明ビデオを見るのを徹底して、定義の浸透はしつこくやっています。

つまるところ、組織の長が汗をかくこと

他にも細かいことは大量にありますが、全体としてはこんな感じです。「ここまでやるのか」と思われたでしょうか?少なくとも、組織文化と従業員満足度に対する活動量は相当なものだと自負しています。やってみて思うのですが、執行役員兼本部長でなければできないことがたくさんある領域だとつくづく思いました。「私が自ら上に上がって組織をよくする」という意気込みで昇格して、実際、やりがいは相当なものでしたし、この立場だからできることが大量にありました。これをきっかけに組織の長の仕事がどんなものか、多くの人に知ってもらって、キャリアプランの材料としていただければ、それ以上にうれしいことはありません。

長文をお読みいただきありがとうございました!!

↓後日談もあります。


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