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自分を縛る制約条件、有効期限切れになっていませんか

友達の会社に中途入社したアラサー女性の話を聞いた。業界一位の大手企業に新卒でエリア総合職で入社して、その後、望む処遇が得られず悔しい思いをし続け、大好きだったその会社をやめたという。彼女の入社年は、総合職として女性は採用せずエリア総合職のみだったそうだ。その後は女性の総合職も採用され、彼女よりも優遇されていることをずっと悔しく思ってきたらしい。それでも、その会社に戻りたいと今でも思っているという。いろんな意味で胸の痛む話だった。

一方で、社会人経験20年を超えた友人と私の共通の感想は、もし、「総合職にしてほしい」、「(エリア総合職のままでも)業務上の役割や処遇を改善してほしい」と上司や人事に言ってみたら、違う成り行きになっていたかもしれない、ということだ。私たちもジェンダーギャップによる処遇の歪みには多かれ少なかれ対処せざるをえなかったクチだが、2020年になった今、風向きの違いをひしひしと感じている。女性管理職比率の数値目標が設定されている以上、業界最大手の会社がその流れを無視することなどできないはずだ。子育てをしながら影響力の大きい立場で活躍する女性やその候補は多ければ多い方がいいご時世だ。

話を聞く限り、彼女はエリア総合職という枠組みに不満にもちつつも、同時に「立場をわきまえる」という呪縛にとらわれていた可能性が高いと思う。特に女性は親や周りの期待される振る舞いをするのが生き抜くスキル、と思い込まされて育っているため、「育休を取った負い目もあるし、なおさら立場をわきまえなければ」と思い込んでいたのではないか。彼女の会社の内情がどうなのかはわからない。言ったところで「エリア総合職なのでNG」という回答をもらうだけだったかもしれないが、そうでない可能性を確かめないままで不本意ながら去るよりは、よっぽど次につながったと思う。

このように、チャンスに対して「自分から手を挙げる」ということをせずに、「(先生から)指してもらえないこと=評価されていない」と解釈してしまうのは、機会損失としか言いようがないと思う。

実は私も「自分から手を挙げる」という発想を持つまでに時間がかかった方なので彼女の気持ちもよく分かるのだが、とある本に載っていたエピソードを読んでから勇気が出せるようになった。

ゾウは子どものころ、鎖で杭につながれて毎日を過ごす。小さいのでたいした力がなく、杭を引っこ抜くことができない。ゾウは大きくなってからも、その思いにとらわれ続ける。調教師はそれを知っているから、鎖の代わりにロープを使ってゾウを杭につなぎとめる。大きなゾウにとって、杭を引っこ抜くくらいたやすいはずだ。しかし、ゾウは「自分には大した力がない」と思い込んでいるから、何もせずじっとしている。            「自分を磨く方法」アレクサンダー・ロックハート著 弓場隆訳

この話は、自分を縛っている制約が時とともに変わっていること、自分には今となっては十分な力があるのに、過去の呪縛にとらわれて動けないと思い込んでいることをよく表していると思う。特に、仕事でチャンスをつかむことについては、世の中の価値観はものすごい勢いで変わっている。自分を縛っていた制約の有効期限が切れていることを認めずに、自ら制約を課し続けてはいないだろうか。優等生であればあるほど、国語のテスト問題よろしく、「〇〇ということがあったし、△△ということもあったから」と過去事例や状況証拠をかきあつめて自己流の解釈をし、それを正解ということにしてしまう。その回答が正解かどうかは、欲しいものを自分から欲しい、と言ってみない限り、わからないはずなのに。

「頑張っていれば、自分から言わなくても周りは見てくれている」という思い込みともあいまって、自分から手を挙げると周りから不興を買うと思ったり、手を挙げても欲しいものが得られなかったら恥をかくと思ったりしてしまう。一方で、そのような感覚を持たない人や、恵まれた条件を享受している人は、素直に「欲しいものを欲しい」と言ってすんなり手に入れていく。謙遜は美徳というコンセプトを間違った形で表出させると、結果として自分で自分を劣後においてしまうことになるのだ。

一方で、裏を返すと「手を挙げなくても評価されるくらい自分は有能だ」ということを証明しようとしているともいえる。しかしそれは歪んだ自己愛の形だと思う。さらに、悔しさをため込んだ挙句、すべてを放り出すような極端なことをして周りを試してみたとしても、真意は伝わらないことが多い。

つまるところ、自分が欲しいものを欲しいと言ってみる、というのは自分を大事にすることだと思う。他人の欲求を尊重するのと同じ水準で、自分の欲求を尊重する。「同じ水準で」というのがポイントだ。自分の欲求を少しでも尊重することは、他人の欲求を踏みにじるのと同義だと思う人もいるからだ。極端な二項対立で物事を考えるのは控えて、自分が自分に課している呪縛は何か、今や外してもいいものはないのか、その二点に知性と行動力を使ってみよう。望んだ結果にならなくても、自分を尊重した清々しさは残るし、自分を縛る制約条件が有効期限内かどうかを確認する過程で頭の中の枠組みがアップデートできる。そうすることで、他人の評価で満たせなかった自尊心を自分の力で引き上げることができる。それは必ず次につながっていくだろう。

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