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超訳『竹取物語』ニ 貴公子たちの求婚

※この訳は超訳です。あえて原文通りの表現よりも俗っぽくしています。また、所々省略やアレンジを加えております。

なお、超訳にあたって、室伏信助氏の『新版 竹取物語 現代語訳付き』(角川ソフィア文庫)を参考にさせて頂きました。室伏さんの訳に甘え、緻密さと筆力に脱帽しました。

ニ 貴公子たちの求婚

 さて、世の男どもーー身分が高い・低い問わずーー、なんとかしてこのかぐや姫を手に入れたい、妻にしたい、ちゅっちゅしたい、と、噂を聞いてはぽーっとし、心揺さぶられていた、勝手に。
 翁の家の周りとか、家の人ですら簡単に見れないのにも関わらず、寝不足承知で真夜中にやって来ては、穴えぐって中を覗くなどの行為をしながら、誰も彼もがかぐやちゃんモードであった。どうでもいいことであるが、その時から、求婚のことを『よばひ《(呼ばひ)と(夜這い)の掛詞》』と言ったものである。
 男ども、どうでもいい場所でどうでもいいかぐや愛でうろちょろするが、何の効果もなし。家の人たちに何か言おうとして話しかけるも、相手にされない。熱烈貴公子たちのなかには集ってオールする奴らも多かった一方、醒めた性格の貴公子は、「無駄な出歩きはつまらない」と言い捨て、来なくなったりもした。
 そんな面子のなか、相も変わらずしつこく言い寄ったのは、世間で色好みと言われる五人だけで、かぐや姫を諦めず、夜も昼もおってきたのだった。その名は、石作皇子(いしつくりのみこ)、庫持皇子(くらもちのみこ)、右大臣阿倍御主人(あべのみうし)、大納言大伴御行(おおとものみゆき)、中納言石上麻呂足(いそのかみのまろたり)であった。
 世の中には星の数ほど女がいるのに、少しでも美人と聞けば、我がモノにしたがるケモノであったから、かぐや姫も自分のモノにしたくて、喰うもの喰わず夢想し続け、家に行ってうろちょろして廻るが、効果はありそうにない。手紙を送るも返事はこない。泣きごとの歌なんかを書いてよこすけれども、その甲斐もなく、雪が降り氷の張るときにも、太陽が照りつけ雷鳴が響くときにも、お構いなしにやって来た。
 この五人、ある時、竹取の翁を呼び出して、
「娘さんをボクに下さい!」とひれ伏し拝み、手をすりすりするも、「わしが作った子やないですから、たぶん無理やと思います」と翁に返され、日々は過ぎた。
 こんな体だから、この五人は、家に帰って物思いにふけり、神仏に祈ったりする。とても冷静にはなれそうもない。いくらなんでもさ、男と女は結局結婚するよね・させないわけないよね、などど期待し、わざとかぐや姫への一方的な思いを見られるようにうろちょろする。
 これを見て、翁がかぐや姫にこう言った。
「わしの大事な子よ。そなたは化生(けしょう)の人と言いはるけど、こんな大きくなるまで育てたわしの気持ちは、並大抵やないんよ。この爺がこれから話すこと、聞いて下さいますよね? よね?」
「どのようなことでもお話ください。うけたまわらないことあるはずございません。わたし、化生の者だったってのは初耳ですが、そのような身の上とは知らなかったですし、まあ、それはともかく、ただ親とばかり思っておりますの」
「嬉しいこと言ってくれはりますなあ」と翁は言い、「この爺は、もう七十超えてしまいましたわ。いつ死ぬかもわかりません。で、この世界の人はですね、男と女というのはですね、結婚するんですよ。そうして、まあ、なんちゅうの? 一門? 一族? まあ、そんなんが繁栄するんですわ。なんで結婚しはりませんの? なあ?」
「結婚? どうしてそのようなことをする必要があるのでしょう?」と、かぐや姫、流麗に小首を傾げたりする。
「いやいや、どうしってて、そら、あなたね、化生の人とは言うても、女性やん、身体的に。わしが生きてるうちはそら独身でもええですよ? でもさ、あの五人がさ、めっさ長く一途に、そらもうちょっと怖いくらいに来てはるやん? そのことよ。そのことの意味をよーく理解して、その中の一人と結婚してあげなさいな」
「あらまあ。姿も知らず、相手のこころの奥底も知らずに結婚なんてしてしまったら、もしその人が浮気とかしましたら、わたし、後悔すると思うのです。天下の奇人、じゃなくて貴人であっても、深い愛情を知らないままでは、結婚しにくいと思うのですが、いかがでしょう?」
「はぁ。はーあ。もう、思うまま言うよ? ほなら、一体、どんな愛情の持ち主なら結婚しようと思いはるんどすか? あの人ら、愛情で言うたら並やないどころかヤバいくらいの人たちやと思うんどすが」
「いえ、そういうベクトルのんじゃなくて。まあ、言ってしまえば、些細なことなんですが、彼らの愛情は、みな同じように思えるんですね。それでどうして、その中で愛情の優劣がかわりましょう? どんぐりはどんぐりです。……あ、そうだ。では、彼ら五人のなかで、わたしが観たいと思ってる物を魅せて下さる方があれば、その方の愛情がわたしの心の壁より上、それでしたらお仕えいたしましょう、と、伝えて下さいますか? どうせそこらにおられるんでしょう?」
「ま、それで手をうちまひょか」と翁は承知した。

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