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超訳『竹取物語』六 竜の首の珠

※この訳は超訳です。あえて原文通りの表現よりも俗っぽくしています。また、所々省略やアレンジを加えております。

なお、超訳にあたって、室伏信助氏の『新版 竹取物語 現代語訳付き』(角川ソフィア文庫)を参考にさせて頂きました。室伏さんの訳に甘え、緻密さと筆力に脱帽しました。

六 竜の首の珠

 大伴御行大納言は、自分の家にありったけの人を集めた。そして、
「竜の首に五色の光るのある珠があるそうだ! それを取って献上する者がいたら、その者の願いを何でも叶えてやろう!」
 家来たちは、「大変ありがたいことですが、この珠は簡単に取れないですよ。ましてや竜の首なんて、どないして取れっちゅうんです?」と口々に申し上げる。
「主君の従者なら、命を捨ててでも、主君の命は叶えようとするもんだろうが! 天竺・唐土のでもない。この日本の海や山から、竜は昇り降りをするもんだ! それをどう解釈して困難だと言うんだ!」
「へぇ、わかりやした。無理難題でも、命に従って探してきます」
 この言葉に大納言はにんまりし、「お前らはなぁ、わしの家来として世間に知られておる! 命に背けんぞ! ああ?」と家来を出発させた。道中の食料などのために、邸の絹・綿・銭など、あるものほぼ全て取り出し持たせた。「お前らが帰るまで、身ぃ清めて、わしはじっと待とう! 手に入れてないのに帰って来たりすんなよ!」
 各々、仰せをお受けし、退出。「『手に入れてないのに帰って来たりすんなよ』? どーでもええわ、足が向く方いこーっと」「よーこんなことするわ」「アホちゃうか」と口々に悪口を言い合い、貰ったものを皆で分けた。「親だ主君だ言うてもさ、こない無理なこと言わんやろフツー」と、どうしようもないので、大納言がどうしようもないとボロカス言っている。
 一方、その大納言、「かぐやちゃんを妻にして住まわすんだったら、今のままじゃ見苦しいナー」と、立派な建物をお造りになって、うるしを塗り、蒔絵で壁を装飾、屋根の上には糸を染めてカラフルに、屋内も言い表せないほど立派な綾織物に絵を描いて、柱と柱の間ごとに貼る始末。もともとの妻や妾たちは、かぐや姫を必ず娶るからその準備としてお前ら出てけとし、大納言は独身生活に明け暮れる。
 だが、大納言がそうして昼夜問わず待っているにも関わらず、派遣した家来たちは、年が過ぎても音沙汰なし。待ちきれない大納言、人目を避けて、わざと粗末な身なりにして、付き人二人のみの状態で、難波あたりに出かけて、「大伴の大納言の家来がさあ、船に乗って、竜を殺して、その首の珠を取ったって聞いた?」とさり気なく尋ねるも、尋ねられた船人は「変な話っすね、それ」と笑って、「そんなことできる船あらしおまへん」と言う。
 なんとも意気地なしな発言、あ、わしの力を知らんからこう言ってるのかな、と勘違いして、「わしの弓の力はものごっついで! もし竜なんかおったら、そらもうたちまちズガーン! で、首の珠なんかチンチロリンよ。もう待ってられへんわ」と言って、船に乗り、あちこち漕ぎ回らせてるうちに、あらま、遠くの筑紫の方まで行ってしまった。
 どないしよ、めっさ風強いやん、めっさ真っ暗やん、船なんかもーあちゃこちゃ漂流やで、方角なんかわからんし、沈没しそうやん? 波めっさぶち当たってくるし、雷はチロチロ狙ってくるかのように閃光放ってくるしで、苦しで、と弱気になった大納言。
「こんな目に遭ったことないわ……。こっからどうなるっちゅうんや……」
「……長い間、船に乗ってあちこち回ってますけどね」と船頭、「こんなん初めてでっせ。船が海の底に行くがはやいか、雷が落ちるがはやいかでしょう。もしも幸運にも神様が助けてくださっても、南海に吹かれて行ってしまうわいっ。こんなヤナヤツに仕えたせいで、思いがけん死に方しそうや、や、や、やーいやい」と泣き出した。
 これに大納言、ぷりっとし、「なに頼りないこと言うとんねん、うげっ。船に乗ったらううっぷ、船頭は頭やろ、頂上やろろろろろ」とゲロ吐きながら言う。
「あっしは神ではないですから、なにができますかいな。いやさ、これ、風は吹き波が激しい上に雷まで頭上に落下しそうでしょ? あんたが竜を殺そうとかしてるからですよっ! これ、全部竜の力ですわっ! はよ神に祈って頭下げて下さいよってか下げろっ!」
「せやな」と言って、「船頭の祭る神様、お聞き下さい。浅はかにも、愚かにも、私は竜を殺そうなどと思ってしまいました。今後は、毛の一本だって動かし申すことはいたしません!!」と大声で唱え、立っては座り、立っては座り、泣く泣く神様に呼びかけること千度ほど、次第に雷がやんでいった。まだ少しばかり稲光はするし、風は相変わらずビューと吹く。船頭は、「あー、やっぱり竜のしわざやったわ。この風はええぞ。方角がええ」と言うけれども、大納言は聞いちゃいない。
 三、四日風が吹き、船を陸地へと寄せた。浜を見ると、播磨の国明石であった。大納言は、南海へ来てしまったと思い込んで、ため息をついて横になった。船にいた家来が国に知らせ、国司が来たにも関わらず、起き上がることすらできず、船底に横たわっている。
 なんとか船から降ろしたときに、やっと南海ではなかったと気づいて、起き上がったその姿、重度の病で、腹はたいそう膨れ、左右の目にはすももを二つつけているような有様。これを見て、国司もすかさず含み笑い。国に手輿を作ってもらい、うんうんうめきながら担がれて家に帰ったところ、どこから聞きつけたのか、派遣されてた家来たちが帰って来、
「いや、竜のクビ、のタマ、トることできなかったんで、こちらへ参上できなかったんです、はい。トるのめっさムズいことを今はさすがにご存知とのことで、お咎めないかな、と思って参上した次第です、はい」
 大納言、起き上がって座り、「お前ら、タマ、トってこんでくれてホンマに良かった。竜な、あれ、雷の仲間やってん。それをトろうとして、大勢死にかけようとしててん。万が一竜を捕らえてしもてたら、わし、殺されてたやろな。ありがとな。あんのかぐや姫とかいう腐れ外道が、あいつわしを殺そうとしとったんや。あんな家、近くすら通ったらんわい。お前らもあんなとこ近寄るなよ」と言い、家に少しだけ遺っていた物を、家来に与えた。
 これを聞いて、大納言に捨てられた元の婦人たちは、はらわたが千切れるくらい笑いに笑った。あのカラフルな屋根の糸な、あれ、トビやカラスが巣にするために、みーんな咥えて持っていってんで、と。
 世間で人々は「大伴大納言は、竜の首の珠とったん?」「なわけあるかいな。目ぇ二つにすももみたいなたまつけてはってるわ」「そんなすももおもろすぎて喰われへんわ」と言ったことから、全く思い通りにならないことを「あなたへがた」と言い始めたのである。

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