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人は誰しもアイヒマンになりうる〜「映画 小さな独裁者とミルグラム実験」

1963年、アメリカのイェール大学の心理学者によりある実験の結果が公開された。

それはタイトルにもある「ミルグラム実験」であり、何の変哲もない一般国民を公募で募って「教師役」「生徒役」に振り分ける。

そして教師役は生徒役の人が何かミスをしたり規則を破ると微量なものから最大死に至る電気ショックを与える権限があった。
(もちろん実験なので実際の電気は流さず、生徒役はわざと苦しむフリをするだけでいい)

すると初めは電気ショックを流すことに躊躇をしていたり、微量な電気しか流さなかった教師役の多数が致死量に相当する電気ショックを平気で流すようになった。

しかも泣き叫ぶ(フリをしている)生徒役を見ながらニヤニヤと笑ったりはしゃいだりするものまで現れた。

要するにこの実験は「人間は役割を与えられるとその役割の仕事に順応して最後には自分から率先して行動するようになる」というものであり、これはある1人のナチス幹部の極刑から始まった。

それがアドルフアイヒマンである。

アイヒマンはナチスの秘密警察SSの幹部であった。
最終的な役職はナチス親衛隊国家保安本部第課長という大層な役職であった。

こう聞くとアイヒマンがナチスの中で極めて優秀な功績を上げた、もしくは家柄がよく学歴も優秀でその結果出世したと思う人がいるだろう。

だがむしろアイヒマンは落ちこぼれであった。

子供の頃は見た目も地味で根暗で、見た目がユダヤ人のようだとして周りにもいじめられていた。

学歴もパッとせず、カイザー・フランツ・ヨーゼフ国立実科学校を中退している。
(ちなみにアドルフヒトラーもこの学校を中退)

その後は父親のつてでセールスマンになったりしたがどの仕事も長続きせずにすぐ退職。

起業しようとしたがそれも失敗している。

そんな時にナチ党の親衛隊員募集を知り、入隊するも訓練についていけず、ここでも逃げ出そうと悩んでいた時に「SD(親衛隊保安部)新設」を知って応募。

かの有名なハインリッヒヒムラーやラインハルトハイドリヒの目に止まって採用された。

ここからの細かい役職などを書くと長くなり本題から逸れるので端折るが、フリーメイソンや共産主義への諜報活動を経てユダヤ人への対策をおこなう部門の責任者となる。

これが平凡以下の地味な青年を機代の虐殺者へ変貌させた。

ヒムラーやハイドリヒの命により、多くの送られてきたユダヤ人を強制収容所へと送り込んだ。

最初は処刑場を視察した際にあまりにショックで嘔吐してしまったのが、だんだんと自ら率先して収容所に送り、バンバン処刑のサインを出した。

それはドイツが降伏した後、ヒムラーすら自らの罪を軽くするため収容所送りを停止させたにも関わらず、アイヒマンはその後も収容所送りをやめなかった。

のちにナチス崩壊後、潜伏先で捕まったあと、裁判にかけられた際に「私は命令されたことをしたまでだ」と証言した。

その真意を探るのもあって上記の実験は行なわれた。

実際にアイヒマンの手によって多くのユダヤ人が虐殺されたので、彼の犯した罪が許されるべきという話ではないが、人はその地位や役職を与えられると変わってしまうのは本当であると思う。

2017年に「小さな独裁者」という映画が放映された。
これは実在のドイツ兵ヴィリー・ヘロルトの事件をもとに作られている。

第二次世界大戦末期、敗色濃厚のドイツでヘロルトは軍として最大の罪である脱走を企てた。

ソ連兵がベルリンに迫っており、ナチスも崩壊寸前で引くも地獄進むも地獄の中でのギリギリの選択であった。

そこで見つけたジープの中にナチスの空軍将校のバッジや軍服、軍帽を見つける。
それを身につけたことで自らを「ドイツ空軍将校で大総統ヒトラーの命によりこの地に来た」として味方を欺き最終的にその地域の収容施設で偽りの権威を笠に着て多くの逃亡兵を処刑した。

自らが逃亡兵であったにも関わらずである。

これもまたある意味アイヒマンと同じく地位が人を変えてしまった例だと思われる。

アイヒマンもヘロルトもどちらも戦争がなかったら、ナチスがなければ平凡な一般人として細々と人生を終わらせていたであろう人達だった。

最近でもイラク戦争で米軍がイラク兵捕虜を虐殺していたことが明るみになったり、ロシア兵がウクライナで虐殺をしていたことが問題視された。

アメリカもロシアも先進国であり、仮にも民主主義国であるがこうした事件は起きる。

これはそもそも民主主義が万能ではない証明でもあり、人が簡単にその役職や地位で豹変することの証明でもある。

実際、教師の体罰問題や上司のセクハラ、パワハラなども役職という権威を得た人がその力に溺れて利用して起きることが多い。

人は誰しもがアイヒマンになるし、ヘロルトになりうる危険性を秘めている。

このことを忘れてはならない。

最後に紹介を。

「ちいさな独裁者」Amazonプライムビデオ

「アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発」Amazonプライムビデオ

以下は「ミルグラム実験」と近しい実験である「スタンフォード監獄実験」を題材にした作品。

「es(エス)」

「エクスペリメント」

「プリズン・エクスペリメント」Amazonプライムビデオ

以下はアイヒマンについての書籍

「エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告」-ハンナアーレント著

関連書籍
「責任と判断」-ハンナアーレント著


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