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比嘉幹貴選手(オリックス・バファローズ)のスポーツセンシング【後編:プロで活躍し続けるには】

皆様こんにちは。日本才能学研究所の所長をしております七條正(しちじょう・ただし)です。元千葉ロッテ・マリーンズ投手荻野忠寛(おぎの・ただひろ)さんのオンラインサロンのゲストトークショーで伺ったオリックス・バファローズの現役ピッチャーである比嘉幹貴(ひが・もとき)選手のお話を才能学視座で解説していこうという企画で執筆させていただきました。前編のテーマは「どうすればプロ野球の選手になれるのか」についてでしたが、今回の後編は「どうすればプロで活躍し続けられるのか」についての考察です。

前編:プロになるまで

荻野忠寛さんのスポーツセンシングとは

荻野さんは高校→大学→社会人→プロ→社会人というキャリアで野球生活を過ごしてきた方だが、特にプロから社会人に戻った時に「プロの当たり前が社会人の選手に伝わらない」ことにショックを受けて、「どうすれば社会人野球の選手がプロに行けるようになるのか?」について研究を始められて、その集大成になったものが「スポーツセンシング」と名付けられた理論だ。「スポーツセンシング」の定義は「人間が成長するための本質的な能力」であり、「人間が成長するための本質的な能力を高めていくこと」を荻野さんは「センスを磨く」と表現している、と言っていいと思う。

ゲストトークショーに比嘉幹貴選手(現オリックス)が登壇

「スポーツセンシング」の詳しい内容については割愛するが、今回はオンラインサロンのイベントのひとつである「ゲストトークショー」に登壇された現オリックス・バファローズの比嘉幹貴(ひが・もとき)選手が話してくださったことから比嘉選手の「センス」について才能学視座で紐解いてみたい。荻野さんと比嘉選手は社会人野球日立製作所で2年間一緒にプレーをされた戦友のような仲。荻野さんが「センスの塊」と称する比嘉選手の(後編)プロになって長く一線で活躍するためにやってきたことについて荻野さんの許可を得た上で書いていく。

オンライントークショーの様子

尚、比嘉幹貴選手のトークライブは荻野忠寛さんのスポーツセンシングアカデミーに入会すればいつでもアーカイブを視聴することができます。

比嘉幹貴選手のキャリア

小1〜小3---毎日ボールで壁当てをする。学校から帰って1日3時間以上。
小3〜中3---少年野球チーム〜中学野球部。内野手(ショート)でメキメキ上達して野球推薦(内野手ショート)で高校へ入学。
高校---ピッチャーに転向する。
大学---ピッチャーとして才能が開花して大活躍。
社会人---荻野さんと2年間同じチームでプレー。荻野さんがプロに行った後大黒柱に成長。
2009年ドラフト2位でオリックスへ入団。
2021年日本シリーズでは救援投手として最年長勝利投手に。
2022年も1軍で活躍中。4/26には初白星。

2022オールスターファン投票の中間発表でパリーグ中継投手部門4位

【後編】 比嘉選手がプロ野球界で長く成功している理由

プロ野球業界のみならず、プロの第一線で、いかに長く活躍し続けられるかというのは、仕事に対する永遠のテーマのひとつ。比嘉幹貴選手のお話からその「センス」を紐解いて行きたい。

社会人野球時代に手術を経験してプロ野球入りが27歳の比嘉選手だが、やはりもっと早く、1年でも早くプロ野球界に入りたかったとおっしゃっている。それだけNPBというのは力のある選手にとってはフルに才能を発揮できる素晴らしい場なのだろうということがわかる。社会人野球時代に同僚だった荻野さんは「アマチュア時代に手術を数回経験した選手がNPBにドラフトされるのはなかなかない、それでもドラフトされたということはそれだけポテンシャルがあったのだろう」とおっしゃっている。しかしこのポテンシャルもドラフトされる前までの話。ドラフトされた後、NPBに入ってから何をしたかが今回のポイントになる。

一番怖いのは故障

プロ野球選手、特に投手がNPBで活躍できなくなる理由は「打者が抑えられなくなる」ことしかない。打者が抑えられなくなるというのは、投げても打たれる、投げてもストライクが取れない、または(痛みなどで)投げられなくなるという意味だ。つまり「ケガ」か「肉体的な衰え」のどちらかしかないと考えられる。特に比嘉選手はアマチュア時代に数回手術を経験しているのでケガが一番怖かったはずなのだ。

気づき

オリックスに入団して今年13年目になる比嘉選手は、それでもケガに対して真摯に向き合い始めたのは右肩を痛めて手術後復帰してからのここ5年とおっしゃっている。他にも何度も同じ箇所をケガして、その度に治療をしてきて、トレーナーさんたちや治療家の先生たちにいろんな話を聞くうちに、「何度も同じ箇所をケガするわけにはいかない」と気づきがあったそうなのだ。

気づきがあると必ず成長できる。逆に言えば、気づきがないと一切成長できない。今までは「ケガしたら治せばいいや」というふうになっていたのを「ケガをしないように工夫すればいい」というアイデアに気づいたということだ。簡単なようで実に難しい意識の転換。それだけ「気づき」とは重要なものなのだ。

ケガを防ぐトレーニング

ここ5年、真面目に取り組んだのは体幹を鍛えること。嫌いだった地味なコンディショニングのトレーニングに力を入れるようになった。意識しているのは左の腹斜筋付近の腹圧をキープすること(風船を使って横隔膜を広げて呼吸はするけど背中や腹圧の圧が抜けないようにするトレーニング=腹圧が抜けると右肩が痛くなる)、右足の母指球と踵と右臀部の感覚、普段の姿勢のイメージ。意識してトレーニングしなくて同じ箇所を何度もケガ(肘痛、肩痛、腹射筋の小さな肉離れ)してきたので、意識してトレーニングをすることによりケガをしないようになった。つまりケガをしないようにコントロールができるようになったという。不安がほぼなくなり、無敵状態になることができているのではなかろうか。

パフォーマンスアップのコンディショニング

最近になって実は球速が上がってきていたり、走るのも速くなっているのはこのコンディショニングトレーニングの成果であろうということらしい。いわゆる力を入れるべきところに力が入り、力が抜けるべきところの力が抜けて、すごくいい状態なのだそうだ。そして調子が悪い時は入れてはいけない箇所に力が入ってたりするのもわかるようになってきたのだそうだ。

もっと早くコンディショニングトレーニングの大切さに気がついていれば、もっと故障なしにもっと球速も速くなっていて活躍できていたと思うと後悔しかない、とおっしゃっているが、「まだいける」と思っているうちは他人のアドバイスなどは頭の中に入ってこないのが人間。そしてここがまさにプロで長く活躍しつづけられるかどうかの分かれ目になっているようなのだ。

プロに入って目指すモデル像に出会った

比嘉選手から見て、野球が上手な選手とは?については「会話のセンスがある人」というのを挙げている。どういうことか? 具体的には「空気が読める」「1聞いて10わかる」「本質を察知する能力」「建設的な話ができる」「無駄がない=効率的」そして特に「理解力の高さ」を挙げている。

これらを逆に言えばNPBに入ってまだ結果が出てない選手は「空気が読めない」「100話してもらっているのに1も聞いてない」「表面しか見てない」「話がいつも消極的、批判的」「無駄が多い」そして「理解力が低い」ということになる。

比嘉選手はNPBで「話を高いレベルで理解している選手」を間近に見て「かっこいいなあ。俺もちゃんと人の話を聞ける人になろう、話が理解できる人間になろう。」とあるときに決めてそれを目指してきたという。逆に人の話を聞けなかったり、聞いても話が理解できない選手を見て「カッコ悪いなあ」と思っていたそうだ。

「理解力の高さ」とは

では「理解力の高さ」とはどういうことか。話には言葉に現れている表面的な字面(じづら)とその内側に見えない「本質的な機能や構造」の2つの領域が存在している。「理解力の高さ」があればそのどちらも理解することができる。それが1(表面的な言葉)を聞いて10(本質)がわかる、ということであり、そのことが「空気(見えない本質)を読む」ことであり「無駄がない」ということでもある。

さらにうまくいかないのを人のせいにするのではなく、自分に矢印を向けて、自分をよりよく変えていきたいという「建設的」な態度でいると、人のアドバイスも素直に聞ける、という理解自体も実は「理解力の高さ」がないと難しいのだ。

そうやって、比嘉選手はトレーナーさんたちや治療家の先生たちのアドバイスに素直に耳を傾けるようになっていき、彼らの言う「ケガとトレーニングとコンディショニングの本質」を掴み、ケガをほぼ完璧にコントロールすることができていると言えるのではないだろうか。

ケガを制するにはケガの本質を掴む

人には強い部分と弱い部分がある。弱い部分を弱いまま酷使すると弱い部分から壊れていく(ケガをする)。だから弱い部分を補強して酷使しても壊れないようにする。強い部分は元々強いからそのまま、またはちょっと補強するだけで大丈夫、っていう感じ。

つまりピッチングをするときに、前提として自分の身体のどこが強くて、自分の体のどこが弱いか、をよく知ってないといけないということになる。いわゆる自分を知るということだが、それこそが「理解力の高さ」を必要とすることになる。多くの人が自分のことをよく知らない。つまり自分に対する理解力が低い。だから対策をしてもお門違いな感じにしかならないのだ。

自分に合ったトレーニングを見つける

比嘉選手がオリックスの後輩たちを見ていても、パフォーマンスと直結しない無駄なトレーニングをしているように見える選手も少なからずいるらしい。今や非常にバラエティに富んだ多くのトレーニング方法が存在する。どのトレーニングにもそれなりの意味があるはずだが本人に合っているかどうかは別の話になる。トレーニングの本質は野球のパフォーマンスに直結、または間接的に結びついているかどうか、という一点のみ。結局、試合で打者を抑えられるかどうかの一点のみにかかっている。

そういうことを理解した上で、自分に合ったトレーニング方法を見つけることがプロとしては最重要なのだろう。また同時にトレーニングをするのかしないのか、するならばタイミングはいつなのか?などもとても大事な要素で、ここも直感力やセンスを含んだ「理解力の高さ」があると正しくジャッジすることができるのだ。

1軍で打者を抑えるピッチャーの意識

1球目から全身の神経を集中させて行うキャッチボール(1日15〜20分)をとても大事にしている比嘉選手だが、育成やファームの選手を見ているとそこがやはり甘く見えるとのこと。同じ1軍のピッチャーでも全体のキャッチボールが終わったあとに(本気で)個別のネットスローする選手を見ていても、「全体キャッチボールの第1球から真剣にやらないと..そのためにウォーミングアップの段階から肩甲骨や股関節を真剣にほぐしておかないと…」と思うのだそうだ。少なくとも1軍のピッチャーとして打者を抑えるためにはそのくらいの意識はないといけないことに、いろんな選手が痛い思いをしてでも早く自分で気付ければいいなと思っている。そこがわからないまま辞めていく投手も多い。これこそまさに「理解力の高さ」である。

比嘉選手から見たプロとアマチュアの違い

プロの選手は短所を直すより長所を伸ばす。ピッチャーはピッチングだけを、バッティングの人はバッティングだけを、守備の人は守備だけを、走塁の人は走塁だけを伸ばす、つまりそれぞれの職人としての技術を高めるということになる感じだそうだ。その技術を高めるために自分の弱いところと強いところを知って対処していくということがプロとしてやるべきこと。一方、アマチュアまでは三拍子揃った選手が重宝されるということらしい。こういうことも「理解力の高さ」になると思う。

チームのムードメーカーとして

ランニングもアマチュア時代は自ら進んでは全くやらなかった比嘉選手だがオリックス時代は進んでやることも増えたという。年齢の高い比嘉選手が走ってるんだから!という理由で首脳陣が若い投手陣に声をかけやすくなっているということでチームのムードメーカーの役割を果たしている。

また比嘉選手はオリックス球団のどんな人でも広く浅く誰とでも話ができる「人付き合いの良さ」というのをご自身の特技として挙げている。自分から話す力、質問を投げかけて相手から話を引き出す力があり、それはチームのムードを良くすることに繋がっている。スーツ組の人とも、普段顔を合わすことがないバッティングピッチャーの方たちともよく話すそうだ。なんでも二人きりになって「シーン」となるのが嫌いだから、ということだが、20歳も下の若い選手にもよくいじられたりもするとのこと。でもそのことでチームの雰囲気が良くなればいいと思っている。

後編まとめ

比嘉選手がプロの第一線で長く活躍するためにやったこと

(1)プロに入ってからの最初の1番の憧れの選手が「高いレベルで話(本質)を理解できる選手」であり、自分もそうなりたいと思って努力してきた。(元々本質を理解できる才能があったと思われる)

(2)結果、ケガをしたときにトレーナーさんたちや治療家の先生たちのアドバイスを素直に聞けるようになった。(高い人間レベル = 謙虚さ / 慢心があるとここがクリアできない)

(3)そのことから自分の身体の弱いところと強いところを細かく熟知することができるようになった。(自分の体の機能や構造を細かく知る)

(4)必要なトレーニングをすればケガやパフォーマンスを完璧にコントロールできるようになるという本質を掴んだ。

(5)結果、球団のいろんな人たちとも自由にコミュニケーションができるようになった。

(6)高い理解力を持って、何があっても最後は直感的に自分で決断して、言い訳はしない

アマチュア時代から持っていたものを加えると

(7)いつでも変化球でストライクが取れるピッチング。

(8)焦らずいつも冷静に100%のパフォーマンスが出せる想定力(精神的な強さ / 打たれてもすぐ切り替えができる)

(9)「打者を抑えることがピッチングの全て」というピッチングの本質を摑んでいた。

(10)運やご縁(オリックスだったからここまでやってこれたとおっしゃっていました)

こう見ると、いつでも変化球でストライクが取れるコントロール、いつでも100%のパフォーマンスが出せるコントロール、どんな人からも学べるというコントロール、ケガを防ぐことができるコントロール、どんな人とでも自分からコミュニケーションができるコントロール…とコントロールの力が際立っている。相手がいる野球の試合という中で、自分ができることに焦点を当てていった結果、今の比嘉選手が出来上がったと言える。ここから浮き彫りになるニックネームはもう「Mr.コントロール」しかないと思うのは私だけだろうか。というかNPBで長く活躍できる選手というのはコントロールできるところは全てコントロールできるようになっているということなのかもしれない。

負ける要素がない

前編でも書いた「負ける要素」(1)情報力不足(2)慢心(3)思い込みがどこにもないこともお分かり頂けると思う。後編に頻出した言葉として「理解力の高さ」があるが、このワンフレーズが3つの負ける要素を完全に払拭していると言っていい。

そしてその「理解力の高さ」とそれに付随する要素はスポーツセンシングの3大ポイント「物事の捉え方」「思考技術」「知識」の全てに関連づけられていて荻野さんが比嘉選手のことを「センスの塊」と称する理由がよくわかる。そこをより細かく深く学びたい方は荻野さんのスポーツセンシングアカデミーまで!

あらゆる業種のプロの第一線で活躍し続けるには

比嘉選手の話を聞いて最後に才能学的にまとめてみる。
何はともあれ、プロの現場に入ったら、仕事で通用するレベルに自分を成長させないと話にならない。従って今自分が理解できない話でも素直に聞いて「理解しよう」する意思があるかないかでプロで成長できるかどうかが決まると言っても過言ではない。「俺はできている、やれている」「俺は正しい」と思った時点で聞く耳を持ってないことを意味しているのでそこで成長は止まる。運良く叱ってくれる人がいればいいが、そういう人がいないと「話(モノゴトの本質)が理解できないまま」成長が止まってしまうことになる。

そして仕事で通用するレベルのパフォーマンスを出し続けるために、トレーニングと本番への準備を怠らないこと。特に弱い部分は意識して細かくトレーニングをして、強い部分はさらに伸ばしていく。自分とパフォーマンスの本質(機能や構造)を知り、多くの人からのアドバイスを素直に聞いて、その中から自分で選んで意味のあるトレーニングをする。入れるところは入れて抜くところは抜き、無駄を極力減らしていく。そういった自分とパフォーマンスとトレーニングが機能的に噛み合った世界の全体像を高いレベルで俯瞰して理解した上でトレーニングをすること。そしてどんな結果になっても言い訳はしないで失敗から学び次に活かす。これはNPBだけではなく、あらゆるプロの現場で必要とされることではないだろうか。

キーワードは「理解力の高さ」。これがそのまま「センス」という言葉に置き換わってもいいのではないかと思う。

あとがき

比嘉選手からの伺った貴重なお話を才能学視座で解説させていただいたが、私は野球やピッチングのことはよくわからないので、実際は細かい技術的なこともあって今の比嘉選手がいることには間違いないが、今回伺ったお話は枝葉の部分ではなく「根っこ(見えない本質)」の部分のこと。根っこの部分を変える(または気づく)だけで枝葉の部分が全て変わる、という類のものだ。あらゆる業界のプロの現場に共通するアイデアだと思う。

最後に執筆にあたり、比嘉選手、比嘉選手からお話が聞ける機会を作ってくださった荻野さん、スポーツセンシングアカデミーのメンバーの皆様に感謝申し上げます。

【才能学視座とは?】才能学3大理論である「特殊能力論=35の視座」「右脳左脳論=5つの視座」「次元論=10の視座」をかけ話合わせた1750の視座で自分自身と人と物事から社会までの本質を掴んで世の中の発展と人々の幸せに役立るために開発されたテクノロジー。http://sainougaku.com/startup

Twitterで荻野さんからコメントをいただきました


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