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読書記録『薬師寺ロミの推理処方せん』

薬師寺ロミの推理処方せん / 平野俊彦


この作品との出会い

XでフォロワーさんがRPされていて知りました。

私は薬剤師なのですが、元々、薬剤師(ライトノベルに多い薬師モノなども)の物語はどちらかというと読みたくない人間でした。

ライトノベルにありがちなトンデモ薬学や中医学(良くないとはわかっていますが、あまり好きな分野ではありません…)は、無粋な専門家と言われても仕方ないくらい突っ込んでしまいます。
しかし一方で薬剤師の仕事にフォーカスした作品は少なく(私がそう思っているだけかもしれません)、あっても病院薬剤師。ちなみに、病院薬剤師を描いた漫画『アンサング・シンデレラ』が石原さとみさん主演でドラマ化された時、薬剤師会はおおはしゃぎでした。私もおおはしゃぎでした。薬剤師をこんなに美人さんに演じて貰えるだなんて――。
という思い出は置いておいて、調剤薬局勤務の私としては食指をそそる作品との出会いは、この作品が初めてだったわけです。

また、著者の平野先生が臨床薬理の専門ということで、トンデモ薬学が出てくる訳がなく、安心して手に取ることができました。

こんな人に読んで欲しい

  • 薬剤師、医療従事者

  • 薬学生、薬学部を目指している学生

  • 薬剤師が何をやっているか分からない人(内容が難しいかもですが…)


感想

ここからも自分語りが多分に含まれます。

試し読み(サンプル・第一章冒頭)

保険薬剤師なら誰もが「わかる~!」となる薬局の描写です。とりあえずサンプルを読んで見て合いそうだなと思ったら手を伸ばしてみてください。
学生さんは、薬局内はこんな感じなんだと思っていてください。

私が特に好きな章:処方No.2

この章がお気に入りなのは、私の経歴が関わっています。
作中に出てくる高等学校卒業程度認定試験を取得して薬学部を目指すというのは私が辿った道であります。母をがんで亡くし、鬱で塞ぎ込んでしまい不登校になってしまった私が、母の亡霊(母も薬剤師でした。奇しくも著者の平野先生と同じくミステリ作家でもありました)を追った結果でありました。
私は第二章の登場人物である彰ほどの大病を患ってはいないものの、彼の未来が明るいことを願わずにはいられませんでした。それほど、感情移入してしまいました。

また、お節介過ぎるロミの気持ちも良くわかりました。
私が以前勤めていた薬局では在宅業務が多く、外来中に自分での服薬管理が難しい患者を見つけると在宅に繋げるようにしていました。勿論、点数のためでもあります。
ただ、お節介も多かったかと思います。
地域包括支援センターやケアマネジャー、往診の医師・看護師と繋げていくのは患者やその家族が自分たちで行うのは難しいだろうと思います。それが薬剤師の仕事かと問われれば自信がないのですが、結局、薬剤師は患者が正しく薬を使用して健康になるためには何でもするのです。お金の相談に乗ったこともあります。
薬剤師の仕事ではないかもしれない。患者に入れ込み過ぎて薬局の仕事を増やしたかもしれない。ですが、必要なことだったと今では思っています。 

全体を通して

症例と小説が合わさったような作品でした。
ある程度、薬学の知識があると、スラスラ読めて良いと思います。薬学生の頃に出会っていたら、もっと楽しく読めていたかもしれません。
薬学の知識が無い人にとってはちんぷんかんぷんなのでしょうか? 薬剤師の仕事が知れる良い作品なのですが、医療従事者でない方がどこまでついて行けるかはわかりません。わからなくても何となく雰囲気で読める人なら良いと思いますが。
ということで、これを読んで意味がわからなかった若い子は医療従事者を志したら良いと思います。「どういうことなんだろう?」から始まる夢も素敵ですよ。


最後に

平野先生が言いたかったことは、最終章の久須美さんの言葉だと勝手に思っています。それが新人の頃にあった情熱が燻ってしまった私の胸に刺さりました。こんなことではいけません。生涯研鑽は綱領にも書かれていますしね。

作品は温かくてエネルギッシュです。ただ、私のように『ロミと比べて私は……』みたいなメンタルになる同業者はいそうですね。でもその胸の痛みも良いものです。

そんな人へ、明日も頑張りましょう。

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