並河 阿佐

並河 阿佐

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【奇妙奇天烈】セキセイインコとセルフレジを巡る物語

 セルフレジの前で、存在感のある杖のおばさんが立ち尽くしていた。彼女の目は、無表情な店員に向けられていた。 「沖さん、なんかあのオバサン、めっちゃ立ち止まって店員見てますよ」 「ああ」  沖は手にしている「ファブリーズメン除菌消臭スプレー」をただ見つめていた。  周囲の客たちは、何が起こっているのかと興味津々でおばさんへ視線を向けていた、その時。 「いらっしゃいませって、挨拶ぐらいしたらどう? ただ棒っと突っ立っているだけで」おばさんの声が、店内に響いた。 「棒っとしてさあ、

    • 竹灯籠で回想する妄想ハロウィンキング西瓜提灯

       竹灯籠を見に行った。  竹灯籠は、わたしの子供時代の思い出の一部だ。自然の中で遊びながら、友達と一緒に作ったものだった。竹を切り、火を灯し、夜の闇を柔らかく照らすその姿は、まるで星が地上に降りてきたかのようだった。わたしたちはただ、楽しむために作っていた。特別な技術や知識が必要なわけではなく、手を動かし、心を込めるだけで、素朴な美しさが生まれた。  竹灯籠に限らず、歴史や起源について語ることは確かに重要だが、そうした話が始まると、時には権利やビジネスが絡み合い、いつの間にか

      • 猫はいつも思っている。寿司について。【なんか歌詞風な】

        猫はいつも思っている。 寿司の魅力に取り憑かれた。夢中で寿司を求めた。ある日、偶然にも寿司屋の前を通りかかった。そこから漂う魚の香りが、鼻をくすぐり、胸を高鳴らせた。 猫はいつも寿司を食べる。 店内に入ると、目の前には美しく盛り付けられた寿司が並んでいた。新鮮なネタが輝き、舌を刺激した。興奮した。寿司を食べることに心から感謝した。 猫はいつも思っている。 寿司の美味しさに満足し、幸せな気持ちで店を後にした。しかし、その後も寿司のことが頭から離れない。ますます寿司への

        • 地震と下ネタ好き友人ホームレスすーさん

           昔とは違い、今のホームレスはレジャーシートや段ボールの家ではなく、街中の隅々に身を寄せる。  今日は現代版のホームレスを職業としている友人のすーさんと語り合っていた。  すーさんは元々は成功を収めていたビジネスマンだったらしい。しかしある日突然、全てを失ってしまったそうだ。へえと流して以来、未だに詳しいことはわたしも聞いていない。  すーさんは、お喋り好きだなあってのが印象的な男で、他のホームレスの人たちと上手く連携をとりながら生活していた。  現代版のホームレスという立場

        【奇妙奇天烈】セキセイインコとセルフレジを巡る物語

          精神疾患患者のプライバシー

           知人のK君からの着信だ。 「沖さん、ただでさえ外出るのさえきついのに、あの精神科医の夫婦……」 「どうした?」 「昔、自分を診察した精神科医と奥さんが、いつもいく公園を散歩してるんですよね。自分を見ると、何かこそこそ話をして馬鹿にしてるようで。恐らく僕の過去の家庭環境や病状を奥さんに話したのだろうと思います。やっと療養のために散歩できるようになった公園なのに、行くのが苦痛で……」 「なんかいいよったんかな? きつかったね」 「精神科医が配偶者に患者の個人情報を話すのは、プラ

          精神疾患患者のプライバシー

          チャッキーの絵

           息苦しいような熱気から逃げて、カフェでチャッキーの絵を描いていた。クーラーの冷気が気持ちよく、集中していた。すると、隣の席に座っていた女性がわたしに話しかけてきた。 「チャッキーだ」  驚いて顔を向けると、笑顔でわたしを見つめていた。初対面の女性との会話は苦手だったが、なんとなく彼女の雰囲気に安心感を覚えた。 「チャッキーがお好きなんですか?」 「ええ、まあ」 「映画チャイルドプレイおもしろいですよね」 「全部みました。最初みたの小学生のときなんですけど、笑い転げました」

          チャッキーの絵

          ガラスの静謐

           18時間くらいかけて美術館に辿り着いた。  入口にいたお婆さんに「奇遇ですね」と声を掛けると、「誰ね?」と驚いた顔をしたので、「いや、たまたま美術館で一緒になったので、よかったらガラス展一緒に見て回りません?」と微笑むと、お婆さんは何本か歯が無い口を開けて一生懸命に頷いた。  受付のおばさんにお婆さんの障害者手帳を見せて「付き添いです」と入ろうとすると「ちょっと中身を確認させてくださいね」と手帳を開こうとした。 「待って下さい」  わたしはお婆さんの顔写真だけが見えるように

          ガラスの静謐