優しさが怖い

11/15  人生初のカウンセリングの日

掃除が終わって教室に戻ると数人が残っていた

先生は俺のことをちらっと見て
すぐに目線を戻して他の人と談笑していた
友達に話しかけられて僕も笑った

3時半
担任に名前を呼ばれた
「3時半に下のとこで待ってて」って言われた
クラスメイトが「もう3時半やん」って突っ込んだ
それに思わず笑ってしまった

行きたくなくてずっと友達と喋ってた
先生が鍵閉めるっていう雰囲気になってたから友達と外に出た

「下先行ってて」って先生に言われて
「じゃあ下まで一緒に行こ」って言われて友達と下に降りた


カウンセリングルームの前
怖くて、息苦しくて
逃げたくなった

先生が「どこまで言う？」って聞いてきた
どこまで、の意味がわからず黙ったままでいると
「性的なことはまだ言わんとくか？保健室で着替えてることとか」って言われた
頷いた

先生と2人でカウンセリングルームに入る

目の前にはふんわり笑っているSCさん
どこかのおばあちゃん、といった雰囲気

先生が「今回お世話になります」と言ってくれた
「スクールカウンセラーのOです」と名乗られる

そのままさらに面談室？に入ると、座っていいよと言われる

座ると、隣に先生が座ってくれた
主に先生が話していた
雑談もした

ここに来ることになった経緯も話すかって言われて頷いた

「学校もほぼ休まずきてくれてます
勉強はよくできるんですよ、
俺が言うのもまああれなんですけど笑

卓球も、卓球部なんですけど、初めはどうしようかなみたいだったんです
でも戦型も変えて、レギュラーになって、主にダブルスで頑張ってくれてます
この前も市で3位団体戦でとって、、

練習試合も一応行っても行かなくても良いんですけど、ほとんど出席で、出席率は高い方やな

もともと運動には苦手意識があって、敬遠してたんですけど、まぁよく頑張ってるなと思います

そこでまあ本人が結構追い詰められてて、自分を傷つけたりとかしちゃって
この前親御さんとも話せて、これからどうしようかーみたいな感じなんです」
って先生が大まかに話してくれた

卓球の話なんて
やっていなければわからないかもしれないのによくSCさんは聞いてくれたなと思う

それから「卓球はどう？」とかクラスのこととか、塾のこととかを聞かれた

「これから何時からがいいとかありますか？」って聞かれて
しばらくやり続けるのは決定事項なんだなって嫌になった

何時からにしたら良いのかわからなくて黙ってたら、
担任が「今週末とかまでに決めて俺に言って」って言ってくれた

しばらく経って、先生が
「じゃあこんな感じやな」って言って
部屋を出ていこうとした

正直行ってほしくなかった
SCさんと2人がとてつもなく怖かった
僕が先生に頼りすぎてるから怖いんだろうけど

そんなわがままを口にできるはずもなく

「じゃあ、終わったらこのまま帰ってもいいし
俺職員室にいるから職員室来てくれてもいいよ」と言う言葉を残して
先生は俺の頭に紙の筒をぽんってして
そのまま出ていった


SCさんと2人きり
気まずくて目はずっと時計を見てた
ふいにSCさんが口を開いた
「あのドア、壊れてるから閉まりにくいねん、先生も閉める時苦労しはったんやろうなぁ」

何が言いたいんだろう
僕の反応を試してる？
そう思ってしまい、不安でたまらなかった

「知っておいてほしいこととかある？」って聞かれて、
ずっと無言だったら駄目かと思って
仕方なく保健室で着替えてることを伝えた

「それはなんで？」って聞かれて、自分の性別違和感を伝えられるわけがなく
「女子と着替えるのが嫌だ」とだけ伝えた
SCさんがどう思ったのかはわからない

「あなたの話を聞いてて、私も中学生の時に
なんで急に中学生になったら制服を着なければならないんだって思ってたのを思い出しました」と言われた

それにどう反応すれば良いかわからず愛想笑いを返した

それからしばらくSCさんの質問に答えた

そして、時間が過ぎて
「じゃあこの辺で終わりましょうか、何か言っておきたいことありますか？」と聞かれる

また聞かれるんだ、と驚きながら
「特にないです、」と言う

「職員室寄りますか？」って聞かれて、
「あ、寄ります」と答える

着いて来られるのかと思ってびくびくしていたけれど、SCさんはドアの前で立ったまま

「じゃあ今日はありがとうございました」と笑いかけられた
「ありがとうございました」
と返してカウンセリングルームを出る

空を見上げた
もうカウンセリングには行きたくないなぁ
ふと思った

SCさんは優しかったのに
そう思ってしまう自分が嫌になった

職員室に歩く
人は誰もいない
怖くて、気まずくなった


思わず保健室に入った
「先生、担任の先生呼びたいけど職員室気まずいです…」と言うと、
先生は「呼ぼうか？」って聞いてくれた
お願いします、と言うと「おいで」と歩き出す先生

「職員室気まずいかぁ」って笑われた
その笑顔にほっとする

職員室の前でぼーっとしていると
先生が出てきた

「おわったか、大丈夫か？」と聞かれる
うん、って頷いた

「結局おまえの性のことは言わんかったけど良い？」って聞かれて、
「うん、あ、保健室のことは言った」と答える
「自分で言ったん？」って聞かれて頷いた

「次の時間どうする？部活の後とかなら16時半とか17時とかやけど」
「でも17時は友達と帰れんくなるか」
と先生
どっちでも良いけど部活できなくなるのは嫌だなぁ、とぼんやりと思う
また今週末に考えるということでひとまず終わった

「じゃあ、また明日」
と先生が職員室に歩き出したので、頷いて先生に背を向ける
「頑張ったな」という暖かさを後ろから渡された
驚いて思わず振り返った

なんで先生の優しさは嬉しいのにSCさんは怖いんだろう
素直に優しさを受け止められない
疑ってしまう

いつも以上に疲れてしまった