見出し画像

新型コロナで会社が潰れかけたので転職したらまんがタイムきららのお姉さんキャラになっていた話 第9話

きらら先輩、デートに誘われる

 おはよう諸君。最近、この連載がリアルの知り合いに発見されてしまったきらら先輩である。

 リークした犯人は天ケ谷リク。ダジャレではない。

 リーク先はリクと私のゼミの同期だった「みほちゃん」。もう忘れられた設定かもしれないが、きらら先輩は国文科に所属していながら社会学部のゼミにモグっていた。リクとみほちゃんはそのゼミでの同期なのだ。

 オタクの日常などあまり多くの人目に晒すものではないと私は思っているのだが、リクは別の意見を持っていたらしい。

「おい、何でバラした」←私の発言。念のため。
「みほから久しぶりに連絡があって、お互いの近況を報告しあってたんだけど」
「私の近況は君の近況じゃないだろう」
「みほが三月に結婚したっていう話から、お互いの相方の趣味の話になって」
「はあはあ、それでソラちゃんが私を主人公にして小説を書いているという話をしたと」
「そういうこと。マズかった?」
「いや……ま、良いんだけどさ」
「みほ、爆笑してたよ。面白すぎて夢中で読んでたら電車乗り過ごしたって」
「それは私も聞いた。オタクの日常なんてそんなに面白いものじゃないと思うけどね」
「そうでもないでしょ。「トクサツガガガ」なんて小芝風花主演でNHKのドラマになったし」
「なにそれ」
「特撮オタクのOLの日常をネタにした漫画だよ。知らない?」
「知らん」

 天ケ谷リクとソラちゃんは特撮オタクなのだが、私は声優オタク。ジャンルが違うのである。

 そんなわけでますます迂闊なことが出来なくなってきたきらら先輩なのだが、今週もネタが溜まっているので、当たり障りの無い範囲で書いていくことにする。

 さて、今週のきらら先輩を襲った最大の事件は何と言ってもあれだ。

「きらら先輩、年下の男子にデートに誘われたらしい」

 らしいって何だよと思うだろ?

 それが私にもわからんのだ。こやつは本当に私をデートに誘っているのか?

 私がそれに気づいたのは月曜日の朝5時のことだ。最近何故か朝早く目が覚めてしまうきらら先輩は、その日も何故か朝方に意識が一瞬戻り、今何時だろうと思ってスマホを見た。したらラインの通知ドットが出ていたので、何となくメッセージを見てしまったのだ。

「きららさん、今度、食事に行きませんか」

 は?

 誰だお前。

 最近はマッチングアプリからも全て撤退して推し声優とあんスタに全てのエネルギーを注いでいるので、こんなメッセージを送りつけられる心当たりは無いの……だ……(二度寝)

 定刻の八時にもう一度、正式に目を覚ました私は、いつもどおりフルグラとヨーグルトとコーヒーの朝食を準備し、そういえばソラちゃんは毎朝リクにイングリッシュブレックファーストを作ってもらってるんだよなあ良いなあと思いながらスマホを見て、コーヒーを吹きそうになった。

「きららさん、今度、食事に行きませんか」

 なんだこれ?

 発信者は、佐藤。佐藤? 誰だっけ? 佐藤佐藤佐藤。

 思い出すまでに三〇秒かかった。

 高校の同級生に呼ばれてゴールデンウィークに代々木八幡のカフェで合コンのようなものに顔を出した時に、左斜め向かいに座ってた小柄な人だ。顔だけは良かったが。

注:きらら先輩はルッキズムの権化であって男は顔が9割と思っている

 ってあいつ、たしか私より三つも年下じゃね? 野外フェスに行くのが趣味だとか言ってたような。ロッキンがああだとか、フジロックはどうだとか。

 ちなみにだがきらら先輩は夏フェスは嫌いである。暑いからだ。いや、嫌い以前に行ったことすらない。代々木八幡のカフェでも夏フェスの話ばかりする佐藤くんにはかなりな塩対応をしていたつもりなのだが、何故いまになって食事? 何故私? 年上好きなのか?

 ともかくね。

 私は年下からデートに誘われたことなんか金輪際無かったので、軽くパニックになってしまい、そういえば年下の男と付き合ってる知り合いがいたなと、今度は四五秒くらい考えた。

 誰だっけ。すごく身近なところにいたような。

 いたような。

 ソラちゃんだ(笑)

 たしかソラちゃん、私やリクの二つ上。

 思わずメッセージ送っちゃったよね。

「すみません、つかぬことをお聞きしますが」←私。ねんのため。
「どうかしたんですか?」
「年下の男子から食事に行きませんかってライン来たんですけど」
「おお!」
「あまりにも長い間、二次元の男子にばかりかまけていたので、こういう時にどうやって返信したら良いのかわからなくなりました」
「wwwww」
「草を生やしましたね」
「すみません。思わず。ええで、と返信してみてはどうでしょう?」
「軽すぎませんか?」
「ちなみに、きららちゃんはその年下くんに興味はあるんですか?」
「ほとんどありません」
「wwwwwww」
「草の数が増えた」
「失礼しました。興味がない相手なら、無理に女の子女の子せずに、ローテンションな普段着のノリで接してみて、それで離れていくようならそれまでということで良いのではないでしょうか」

 ソラちゃんとやり取りしているうちに多少の冷静さを取り戻した私は、とりあえず極めて事務的に「いいですよ」と返信してスマホを置いた。

 繰り返すが諸君、それが月曜日の朝八時一二分のことである。

 今日はいつだ? そう、土曜日だ。つまり五日が経過した。

 それでどうなったと思う?

 話がちっとも進展していないのだ。

 せっかく俺が、じゃない、私が「良いですよ」と返信してやったのに、夏フェス佐藤はまたしてもダラダラと夏フェスの話とか私が好きなバンドの話を(ラインでも)続けているだけで、一向に食事の日時も場所も決めようとしない。

 こいつまさか、私が仕切って日時や場所を決めるのを待っているんじゃないだろうな。俺はお前のお姉さんでもお母さんでも無いんだぞ。せーめーてー、それくらいは自分で何とかしろ。

 きらら先輩は取りとめのない雑談が苦手である。親しい友人とならいくらでも雑談出来るのだが、よく知らない相手と取りとめもなく雑談のラリーをするスキルは装備していない。なのに何故、私は「あんスタ」の時間を削ってまで年下の夏フェス野郎の相手をしているのか。良いか諸君、きらら先輩が好きなのは夏フェスではなくてアリーナコンサートでメモリー機能付きのLEDライトを振ることだ。

 最近は家の中でもブルーレイ見ながら一人でLEDライト振ってるよ。一人暮らし最高!

 ちなみにこのLEDライト、防災用品としても優れものでな。以前、某声優のライブで某浜アリーナまで遠征した時に台風が来てかなり怖かったんだが、ホテルの部屋で推し色に設定したLEDライトを枕元にぶら下げて寝たら、それだけでもう推しに守られている気分を堪能出来たからね。

 一家に1本、出来れば2本。言っとくけどきらら先輩はヲタ芸はしないからな。そこは誤解せぬように。

 さてと。そんで夏フェス佐藤くん、また掴みどころのないライン送ってきてるんだが、こいつ(男を顔だけで判断する)きらら先輩以外だったらとっくに既読スルー枠行きにされてるんじゃないか? 私も塩分濃度を上げて対応すべきか?

 どうしたものやら。

この記事が参加している募集

多様性を考える

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?