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新型コロナで会社が潰れかけたので転職したらまんがタイムきららのお姉さんキャラになっていた話

あらすじ

 新型コロナで潰れかけた文系女子大生就職人気かつてのトップ3企業から地味な会社に転職した落ちこぼれ寸前アラサー女子は、何故か転職先で出来女扱いされてしまい、オタ趣味を隠して出来女のふりをするはめになるのだった。

第1話 転職したらデキ女だった件

 小説の書き出しは難しいらしい。

 読まれるために、色々な理論があるのだという。なにかの騒ぎの真っ最中から書き始めるべき理論とか、追放されるシーンから始めるテンプレートとか、トラックに轢き殺されて気づいたら乙女ゲーの悪役になっている書き方とか。

 私は一応、国文学科を出ているのだが、そうした話はついぞ知らないままだ。

 大学の四年間で何をしていたのか思い出してみると、くずし字の勉強をしてみたり、他学部のゼミに入ってみたり、あとはライブに通ってみたり。

 あれももう、遠い日々だ。

 大学を卒業して六年。春が来れば七年目になる。なお、大学には現役で入っている。私の年齢は各自、そこから算出するように。あと、算出してもコメント欄に書き込まないように。モテるために大事なことだぞ。

 さて、あらためて。

 私の名前はきらら。

 今日から私はきららになった。転生したからだ。転生する前は本名で生きていたし、今も基本的には本名で生きているのだが、この小説の中では私はきららである。

 転生のきっかけはトラックに轢かれて、ではない。

 もっと凄いやつに轢かれた。

 新型コロナウイルス。やつらだ。やつらが二年前に突如現れて、私が新卒で入社した会社を蹂躙していった。私が就活をしていた頃までは、文系女子学生の就活人気ランキングトップ10の常連だった会社である。だが、新型コロナウイルスによって売上が七割消えてしまい、会社の中は阿鼻叫喚の地獄と化した。優秀な人から順に居なくなり、残った者は壮絶な人手不足の中で連日の残業に浸かった。期末の決算業務が佳境に入った時に経理部長がいきなり転職して消えたのには、さすがに乾いた笑いしか出なかったよ。

 そして。私は残留組だった。

 だって優秀じゃないんだもん。

 入社から六年半、私はずっと経理だったけれど、仕事が遅い上にミスが多いので有名だった。何度、上司のおじさんにこれ見よがしにため息をつかれたことか。そんな私だから、会社がヤバくなって給料が減ってついに冬のボーナスが出ないことになっても、会社を辞めるなんてことは思いつきもしなかった。

 残業が日々マシマシになり、経理だったはずが触ったことも習ったこともないシステムの管理まで押し付けられて、海外の支店から届く英語の問い合わせメールに怪しい英語メールを投げ返すようになり、ついには毎日終電で帰る身の上に成り果てても、なお。

 何とかしてくれ、人を増やしてくれと上司に言いに行っても、その上司だって沈む船から脱出出来なくて残ってるような人なんだから、どうにもならなかった。既に壊れかけてる感じ。ああ、こいつも一緒に海の底に行くのか。壇之浦かタイタニック号か。諸行無常の響きあり。うんうん。

 そんな日々が三ヶ月ほど続いたある夜のこと。

 横断歩道を渡っていた私はトラックに……ではなく、私のスマホにメッセージの着信アイコンが出た。念の為に横断歩道を渡りきって、周囲の安全を確認してから私はメッセージを開いた。

 差出人は大学のゼミの同期の男だった。

 私は国文学科なのに、何故か社会学部のゼミに潜伏していて、そこで一緒だった男である。

 先に言っておくが、その彼とつきあったことはない。やつは優しくていい男だが、優しすぎて危険なのである。あんなやつとつきあったら私はダメ人間の極みにまで堕ちてしまうだろう。

 その彼は最近、中学校の先輩と結婚したと聞く。

 お相手は東大卒のバリキャリの美女だ。まあ、お似合いだ。幸せになってくれ。ちっ。

 話を戻す。

 その彼と私が何故いまだに繋がりがあるかというと、我々には共通の趣味があったのだ。

 そう、我々はオタク。

 オタクなのである。

 アニメの話なら何時間でも出来る。

 我々はそういう人種で、だから学生時代から推しアニメを発見すると、昼だろうが夜だろうが構わずに相手に知らせるのである。

 このメッセージもそれだった。なんだっけ。「先輩がうざい後輩の話」か「舞妓さんちのまかないさん」のどっちかだ。あとで調べる。今は勘弁な。

 ともかくメッセージが来ていたわけだ。

「……見てる?」
「見てない。というかそんな時間が無い」
「決算?」
「ちがう。決算期でもないのに毎日終電」
「えー」
「今、駅についたとこ」
「ひどい」
「うむ、ひどい」
「会社ヤバいんじゃなかった?」
「うむ、ヤバいぞ」
「辞めちゃえば?」
「辞めてどうする」
「転職」
「こんな私でも、どっか雇ってくれるだろうか」

 しばらく間が合いた。

「雇ってくれる、絶対大丈夫だって」
「だって、とは」
「隣でソラちゃんがそう言ってる」
「あー、あの美人の奥様」
「YES」

 いえすじゃねーよ。ちょっとは謙遜しろってんだよ。

 だが、結果的に言えばこれがターニングポイントになった。

 あるいは、異世界へと続く転生のゲート。

 もしかしてソラちゃんとやらはチート能力を授けてくれるという女神なのかもしれぬ。

 そして二ヶ月後。

 私は転生した。転生して「きらら先輩」となった。

 態度はでかいが能力値は低め安定の若手女子社員キャラだったはずの私は、ソラちゃんとやらによって転生、正確には転職させられ、まるで「まんがタイムきらら」の百合漫画に出てくるデキ女の先輩みたいなキャラになっていた。

 これは、そんな私の戦いと苦悩とオタクな日々の記録である。

追記 なお、「きらら先輩」の中の人は実在するので、探さないでください。下の畑におります。

第2話はこちら。可愛い後輩ちゃんの登場だ。

第3話はこれ


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