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新型コロナで会社が潰れかけたので転職したらまんがタイムきららのお姉さんキャラになっていた話 第4話

衝撃のエクセル事件!

 諸君、いかがお過ごしでしょうか。きらら先輩である。

 さて、ええっと、今日は何の話をする予定なんだっけ。

 あ、そうだ。衝撃のエクセル事件。

 そう。これはきらら先輩が先輩キャラを確立することになった、まさに衝撃の事件だったのである。

 と言っても大した事件ではない。

 ある日、きらら先輩がくみちゃんの席の後ろを通りがかった時のことだ。

 くみちゃんのPCの画面にはエクセルが出ていたのだが、何故かマウスでせっせと行全体を範囲指定しようと頑張っていたのである。不審に感じたきらら先輩は思わず声をかけた。

「これ、何やってるんですか?」

 社歴はきらら先輩の方が短いので話しかける時は丁寧語であった。この時までは。

「あ、これ、この行全体を指定しなきゃいけないんですよ」
「それをマウスでやるの?」

 と聞きたくなったけど、ちゃんと我慢したぞ。えらいぞ私。

「ちょっと貸してみて」

 そう言いながらshiftとスペースキーを押してみせたわけだ。

「ほら、簡単でしょ」
「えっ、今のどうやったんですか!?」
「えっ!?」

 今度は声が出てしまった。修行が足らんな私。

 この子、まさかショートカットという概念を知らない?

 だが、そのまさかだったのだ。

 たしかに私が大学を卒業したくらいから、PCを持たずにスマホで全てを済ませる学生が増えたなんて噂は聞いていたのだけれど。

 私も大学出るまではショートカットなんて知らなくて、前職で周囲の先輩たちがエクセルのショートカットキー使ってとんでもない速さ(に見えた)で作業しているのを見て、あせりまくってショートカットを憶えた口なんだけど。基本的にエクセルの使い方なんか教えてくれないところだったし、私は私で周囲に比べて自分が出来ない子だってコンプレックスすごかったから、とにかく必死で検索して使いまくって身につけた。エクセルのショートカット使わない人に人権は無いよね、みたいな雰囲気あったし。

 でも、今の職場のが給料良いんですよ。

 どういうこと?

 それどころかくみちゃんったら、この日の日報に「きらら先輩がエクセルのショートカットの使い方を教えてくれたので、これからどんどん使っていきたい。エクセルももっと勉強したい」なんて書いてて、総務課全体が「いやあ、きらら先輩が我社に来てくれて本当に良かった」みたいな雰囲気に包まれてて。

 きらら先輩、よくわからないよ。

 よくわからないけど、ちょっとホッとしたのは事実です。

 総務課なんで、私を採用するために○クルートに弊社が払った費用の伝票も私が処理したんですよ。うわ、こんな金額かかったんかいってめっちゃ汗かきましたよ。冬なのに。これで使えねーアラサー来たなんて思われたら生きていけないよ私って。

 それがエクセルのショートカット教えて喜ばれてるんだから、世間は広いですね。

 若人たちよ、ドント・ウォーリー・ビー・ハッピーだよ。

 気楽に行こうぜ!

 こうしてきらら先輩はなんとなく、くみちゃんに対してはタメ口で話すようになり、くみちゃんは私を尊敬してくれるようになったのでした。そのプレッシャーも結構きつくて、きらら先輩は休日にこっそりエクセルの勉強をしています(何がドント・ウォーリーだよ)。マクロだって組めるようになったぞ(ちょっとハッピー)。

 そうそう、きらら先輩は昨日ついにソラちゃんとビデオチャットで話をしてしまった。

 そりゃもうドキドキしたよ。だってほら、私も「賢者のセックス」は一通り読んだからね。あれって全編、ソラちゃんと天ケ谷リクのセックスの克明な記録だったじゃないですか。冒頭からいきなりリクがあれしてるし。あの終盤の、ソラちゃんが初めて……のシーンなんかもう一周回って逆に「うぉのれ、天ケ谷リク許すまじ」みたいなよくわからない感情が湧きましたよね。

 そんなわけで、あのソラちゃんとお話し出来るのは楽しみ2割、緊張8割くらい。

 ノートPCの前でドキドキしながら待ってたら呼び出し画面が出て、うわ、どうしようなんて思いつつおそるおそる応答をクリックしたら、いきなりその、ソラちゃんの笑顔が。

 ……うわ、かわいい。

【再掲】きらら先輩はルッキズムの権化である【再掲】

 なんだよそれちょっと天ケ谷リク貴様抜け駆けにもほどがあるんだよてめえだけ勝ち抜けやがってしかもなんだこの芸能人みたいな嫁はいやだめそんな笑顔で私を見ないでくださいソラちゃんまだ心の準備が云々以下続くけど省略

「こんにちはー。始めましてー。天ケ谷ソラでーす」
「あ、どうも始めまして。きららです」

 きらら先輩の特徴は、いついかなる状況で誰を前にしても固くならずに喋れる点にある。これは強みに働くこともあるが、後輩ポジションに入った時には「生意気」「態度がでかい」などのレッテルを貼られるので、前職では完全に弱みとして働いていた。だが、最近は強みと感じるシーンが多い。いい感じ。そのまま、そのまま。

「お世話になってますー」
「こちらこそ、わざわざラノベにしていただいて」

 何か変だな。まあいいか。 

 ともかくだ。こうしてきらら先輩はソラちゃんと友達になった。良いだろう。もはやきらら先輩は天ケ谷リクを介することなくソラちゃんと話が出来るのだ。それどころか、近いうちに一緒に映画を見に行く約束もしてしまった(「仮面ライダーオーズ 復活のコアメダル」)。

 グダグダもいいとこなので、今日はこれで終わり! みんな、エクセルのショートカットは身を助くぞ。勉強しとこうな。

第5話ではくみちゃんときらら先輩が百合的に大接近してしまうぞ。


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