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肥薩線とくま川鉄道、鉄路再開への道#5

5、多良木の子どもたちとの関わり

この取材での宿泊先は多良木にあるブルートレインたらぎにしていたので、そのまま先生の車で現地まで乗せて頂けることになり、チェックインまでの数時間、黒肥地保育園と保育園に隣接する黒肥地小学校の学童に立ち寄ることになった。目的は子どもたちとの関わりとふれ合いである。自身は既にレールサイクルで園長先生と一部の保育教諭の方とは挨拶を済ませていたので、園内へもスムーズに入ることができた。曲がりなりにも積んでいた教員経験が熊本で活かせるとは思ってもいなかった出来事である。

保育園に到着した時間帯は丁度、子どもたちのお昼寝の時間だったので、保健室兼用の部屋で少し待機を交えて主任の先生とお話をする時間になった。同時に子どもたちの様子や雰囲気など、園に滞在中は、子どもたちを見る目が教員の視点になっていたのだから面白い。しかしながら、詳しく先生のお話を聞いていると、過疎化や少子化が想像以上に深刻であることを体感した。今年度に卒園する年長さんの後に入ってくる予定の子が少なく、その少なくなっている子どもたちを他の保育園や幼稚園と競合になっているからだ。これは、園の運営にも関わってくることである。そこで打ち出しているのが各園ごとの教育の取り組みや保育スタイルの違いである。独自性を打ち出すことが必要な時代になってきており、多様性を認める社会になってきている証拠ではあるが。

黒肥地保育園は0歳児から年長までの子どもたちを同じクラスで育んでいて、異年齢の交流や発達支援を積極的に取り組んでいるスタイルは大変参考になった。最近では公立校でも縦割りで交流学習や課外活動、特別活動などを行う学校が増えてきていて、同学年だけでなくこういった異なる年齢の子どもたちとの関わりは、遊びや集団活動を通じて主体的に学びや成長を促す糧となるはずである。これらの実践は同時に教育を通じた町おこしのヒントや人口増加策のきっかけにもなり得ると感じた。実際、鳥取の日野高校では、県外からも生徒を募り寮も整備して生徒の学びの機会を確保している他、神戸の六甲山小学校や藍那小学校では少人数校のメリットを活かして学区外通学児童を募集し、自然とふれ合いながらのびのびと教育実践に取り組むなど、僻地校の活性化をねらいとしたことが各地で行われている。つくばや仙台といった文教都市の人口は、学生数や留学生の動向にもよるが増えている傾向があり、子どもたちへの福祉や教育の保障は、今後の社会づくりを行う上でも欠かせない重要な施策である。しかし、行政の取り組み方については、正直メインではないような気がする。

保健室では子どもたちのおやつの時間までアイスクリームを先生と食べながら近年の教育課題や過疎地での取り組みなど、幼児教育や初等教育に関する専門的な話や意見交換などを行っていた。その中で教員採用試験の話が出てきて、実家からは「受けろ」と言われている身であったので、悩む話ではあるのだが、久々のチャレンジを行うことになるのである。確かに、著名人やプロアスリート、オリンピアンやパラリンピアンが教員になる例は数多く、中でも大阪の朝日放送(ABC)で阪神戦や夏の甲子園の実況アナを務めていた清水次郎さんは兵庫県の高校教員に転身している他、東京六大学野球の東大のエースで、プロ入りして横浜や日本ハムでピッチャーとして投げていた松家卓弘さんも香川県の高校教員として活躍しているのは有名な話である。何らかの知名度を上げてから挑戦することも選択肢となるかもしれない。

色々な話をしているうちに、子どもたちが起きてきたのでおやつの時間、各クラスの子どもたちを覗きに行くことになった。子どもたちにとっては普通、「誰?」みたいに警戒をするはずであったが、主任の先生が一緒についていたおかげもあってか、すんなり入ることが出来たのである。受験や人間関係など都会の子どもたちは近年、精神的に余裕がなくなってきている傾向もある中で、多良木の子どもたちは一言で表すと元気かつ活発な子が多いことを実感した。同年齢児童のみのクラスではないため、学び合いの姿勢が教室内で浸透していて、年長さんが下の子どもたちを教えるといった光景も見られた。こういった土台が、将来思いやりのある人を育てる基礎になるのかなと学んだ次第である。異年齢のクラスは3クラスあり、この他にも2クラス、1歳児や0歳児専門のクラスがあって、これらのクラスにも見学をさせて頂いた。

保育園の後は、道路を挟んで隣接する黒肥地小学校の敷地内にある学童に向かう。伺った時間帯は、高学年の子が夏休みの宿題に取り組んでいて、その横で宿題や課題を終えた低学年や中学年の子らが丁度、外での遊びを準備していた所であった。その中に入り、子どもたちの遊びを見守る。途中、水鉄砲で遊んでいた女の子のグループから悪ノリされることがあったが、これが本当の子どもたちの姿だと思うと、同じ目線で遊ばずにはいられなくなったのである。時間の許す限りもっと遊びや関わりを持っていきたいと本気で思っていたのもあっという間。宿に入る時間になってしまった。子どもたちとはここでいとまごいをして、ブルートレインたらぎに移動する。ブルートレインで寝泊まりをするのは大阪行きの銀河に乗って以来の経験で、個室で寝ることは人生初の経験であった。これについては次回に。

多良木駅

豪雨前の多良木駅。保育園と小学校は、この駅から約3kmほど離れた北側にある。

<#6に続く>

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