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デザイナーが意図していないロゴの意味は嘘になるのか?

私はロゴデザインの解説を読むのが好きで、有名ロゴやスタートアップのロゴのメイキングをよく調べているのだが、しばしば一つの疑問と対面する。

果たして、このコンセプトは最初からあったのだろうか?それとも、後から付け加えたものだろうか?

デザインの過程においては、おそらく多くの場合、いくつかのコンセプトを凝縮して形にした結果、必要最低限のコンセプトが残ったになるのではないかと思われる。しかし、それが文章へと変換される過程において、デザイナー自身、あるいは決裁者やライターの中で後付けの解釈が加えられているのではないかと勘ぐってしまう。文章の中に抽象的なワードがあると特にそうだ。

最近、この疑問が胸につかえる核心の部分『デザイナーが意図していないロゴの意味は嘘になるのか?』に答えが出せたので、結びつくエピソードと共に残しておきたい。

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数年前のことだが、父親から空手道場のロゴをデザインしてくれと依頼されたことがある。父が教える道場生は試合での挨拶が優れていると昔から評判だったため、ロゴには十字を切る軌道(押忍と言うときに腕をクロスするアレ)を用いた。
礼儀を示す十字の軌道と、強さを示す黒帯を掛け合わせて制作したロゴが以下。

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ロゴを見せ、コンセプトと形の意味を一通り説明したところ、何の問題もなくOKをもらった。

その後しばらくして父親から道場生に対してロゴを説明する機会があったのだが、その際、私が説明していない『風をイメージさせる』『躍動感』という意味が加わっていた。道場名には風という字が入っているため飛躍した解釈ではないが、デザインに意図されているものではない。

釈然としない部分があったものの、あえて訂正するのも野暮だと思い、気に入ってくれているのなら良しとした。

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赤坂見附駅のエスカレーターに乗って視線を上げると、typeの大きな広告が目に入る。ロゴと、スーツを着たオードリー春日氏だけのシンプルな広告だ。

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ロゴをよく見ると、tとy、pとeの間には僅かにスペースがあるのに、真ん中のyとpの間にはスペースがなく繋がっている。そこに、どことなく大文字のAを連想させるシルエットを感じた。
もしや、転職サービスだけに『A(エース)が隠れている』ことを表現しているのか?と思い検索をしたが、特にそのような情報を得ることはできなかった。仮にそうだとすればなかなか面白いギミックだと思ったが、それにしては強調度合いが弱いので隠れた意味は私の妄想に過ぎないだろう。

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前者はデザイナーとして、後者は受け手としてロゴデザインの拡大解釈を実感した例である。ロゴに限らず、私達は表現される全てのコンテンツを独自に解釈することができる。中でもロゴは情報量が限られるため、語られている以上の意味を解釈してしまいがちだ。(デザインする側も然り)
だからこそ、ロゴの解説の中には後から付け加えられたものもあるのではないか?と勘ぐっている。

何の本だったか、以前、佐藤可士和氏が『Appleのロゴは、禁断の果実をかじってしまったという強いメッセージがあって好きだ』とコメントをしていたのを読んだことがある。
しかし実際は、Appleのロゴにまつわる色々な噂(『禁断の果実を齧った反逆的な表現』『byteとbiteを掛けている』)は全て誤りであり、単にさくらんぼと間違えられないための表現であると言う。

物語は人から人へと伝えられる途中に形を変えていくものです。私はリンゴが他の丸い果物ではなく「リンゴ」に見えるシルエットにするために、ロゴを一口かじったデザインにしました。ところが10年後、なぜ私がAppleのロゴデザインをかじったリンゴのデザインにしたのかについての本を読んでいる時に別のことが書いてあったのです。その物語は私が実際にデザインした理由よりも面白く、物語は人から人へと伝えられ、みんなが信じるところになりました。人々がこれらの物語を信じているのは単にデバイスやロゴの装飾を愛しているからではなく、物語に特別なつながりを感じているからだと考えています。

Appleのロゴのように、誰もが知っているロゴでさえも誤った意味が広く伝わっている。(誰もが知っているぐらい有名だからこそとも言えるが)
興味深いのは、Appleのロゴをデザインしたロブ・ジャノフ氏はこれらの解釈を"物語"と捉え肯定的な意見を述べているところだ。

この"物語"としての捉え方は、先の例で私自身が体験した、『制作したロゴに意味が後付けされたこと』『憶測で意味を拡大解釈したこと』に対してモヤッとしていた気持ちをスッと解消してくれる言葉であった。

もちろん、デザイナーは意味が誤って伝わってしまうことを避けてデザインしなければならない。ただし、文脈に沿った解釈であれば、デザイン時に意図していなかった意味でも、ひとつの物語として解説に加えることは嘘にはならないのだ。

ロゴに対する考え方が一つアップデートされた結びつきだった。


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