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ヴァンテアン号が動いた

 とても久しぶりの投稿です、Nambu201です。今回もヴァンテアン号の最新情報をお届けします。


ドバイ行き噂とは何だったのか

 現在の動きの前に、まずはなぜ離日当初ドバイ行きとされていたのかについてお話します。

 先日関東運輸局にてヴァンテアン号の登録事項証明書を発行していただきました。この書類は船体の寸法なり番号なりが書いてあるもので、所有者の推移(所有者の住所が変わっただけでも欄が増えます)ごとに記録されております。今回重要なのは後者で、日本船籍を離脱した際の所有者が最後に記録されているのです。

 その欄を確認しますと、ドバイ国籍の個人であることが分かりました。つまりドバイ行きという根拠は、ドバイの人が購入したのでドバイに行くだろうという話だったわけです。設計者の方が聞いたところでは「個人利用」つまりでっかいクルーザー的な使い方になろうというところ、現実にはドバイ寄港すらすることなくイランへ入港しました。

イランと諸国の関係

 イランは核開発を理由に2006年国連安保理からの制裁を受け、特にアメリカと対立しています。産油国故にある程度は自給ができ、日本への輸出も行われていました(2010年撤退)。またその他の品目については現時点でも日本との貿易関係が続いており、経済制裁下においてもポジティブな間柄にあります。これは戦後の日章丸事件を機とした「伝統的な友好関係」によるもので、日本がアメリカとイランの仲介役を担う場面もみられました。
 2015年頃には核合意に伴う制裁解除へ動きますが、2018年トランプ政権下による核合意離脱により再びの制裁強化。更に2019年にはイラン革命防衛隊の外国テロ組織指定が行われ、対アメリカとの亀裂が色濃くなりました。ちなみにイラン渡航がESTAの制限事項にあるのは、1984年に指定されたテロ国家指定によるものです。現在はバイデン政権のもとで核合意立て直しを模索している段階になります。

 中東情勢、各国の関係性は非常に複雑ですが、対立軸の一つとしてイラン対サウジアラビアがあります。概ねイランは東側、サウジは西側諸国とも関わり合っているという印象です。この両国を軸に中東諸国は対立関係にあるわけですが、先日W杯が行われたカタールはイラン側、そしてヴァンテアンを購入したドバイ(アラブ首長国連邦 UAE)はサウジアラビア側にあたります。W杯輸送でイランとカタールが連携する点は合点がいきます。ではなぜドバイ人が、国家的には対立しているイランに日本船売船の便宜を図るようなことをしたのでしょうか?

 ドバイとイランはペルシャ湾を介して古くからの交易関係にあり、在唖イラン人もイラン系企業も進出していました。こういった背景から対立後も断交には至っておらず、ドバイ万博ではイラン館の展示も行われています。中東のハブとあって民間の域では良好な関係を継続できているような印象があり、制裁下のイランにとってドバイは国際的窓口となっているのです。いくら日本といえど主要銀行は米国OFAC規制に準拠しており、東海汽船のメインバンクであるみずほ銀行も例外ではありません。ヴァンテアン号はドバイを通すことで東京ヴァンテアンクルーズとの売船契約を結べたものだと思われます。

キーシュ島のレストランシップとして

 カタールW杯では結局使われなかったヴァンテアン。しかし2月に入ってからはキーシュ港の東側もしくは西側を周遊するようになり、本格的に営業運航を開始したようです。公式サイトも再開し、現地の旅行会社による販売も行われています。運賃はプランによりますが現時点で販売されているものは55万トマン、日本円にして大体1万円台中盤くらいのようで、日本時代の相場とそこまで変わらない印象です。Instagramでは船員や乗客がヴァンテアンの様子を投稿しており、なかなか愛されている様子が伝わります。


 イランは旅人を歓迎し、挨拶を重んじる日本に近い側面も持つ国だと言われています。いつの日かイランが気軽に行ける場所になることを祈ります。


遂に本が出ました

 Adieu Vingt et unを遂に発行することができました。資料をご提供いただいた皆様、note読者の皆様、いろいろな方の力を借りてこぎつけました。ありがとうございます。
 現在はBOOTHにて頒布中です。どうも製造原価が上がったのか会場価格よりも高い価格にしか設定できなくなってしまいまして、2800円の頒価とさせていただいております。フルカラーかつオーダーメイドは高くつくということですね。以下からお求めいただけます。

溝口Infantry公式ショップ


 また現在C102(または年内のイベント)に向け、Adieu_Vingt_et_un完全版を制作中です。今回はなんと、船舶のイラストで大変有名なPUNIP cruises先生にヴァンテアン号の船体解剖図を描き下ろしていただきました!またこの作品は先生の新作『船体解剖図2』にも掲載予定です!そちらも併せてお手にとってみてください。

⚠️現在イランはアメリカ合衆国よりテロ支援国家の指定を受け、経済制裁が行われています。イランへの入国歴がある場合、アメリカ合衆国への入国手段としてESTAを利用することができなくなり、ビザの取得が必要になりますので、渡航を考えている方は十分お気をつけください。

本誌では引き続き、ヴァンテアンの写真・情報を募集しています。ヴァンテアン号にまつわるもの、乗船時の料理の写真から現地のニュース記事を見つけたなど、なんでもお寄せください。ご協力頂いた方々に対しまして、PDF形式での献本、印刷版の割引頒布をさせていただきます。情報提供、写真の提供を頂ける方は、Twitterもしくはメール[nokuchi201@gmail.com]にてご連絡をお待ちしております。



ありがたくサポートをいただいた場合、Adobeソフトやフォントの維持、印刷費、ヴァンテアンに関連した資料や施設に対する取材費に充てさせていただきます。