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「2020年の思い出の楽曲10選」を語る

この記事は「楽曲オタク Advent Calendar 2020」1日目の記事です。
https://adventar.org/calendars/5470

お世話になっております。namaoziです。
私は以前から音楽の言語化に興味はあったのですが、ここ2年くらいで音楽を聴いて思ったことを言葉にすることに比類なき価値を感じるようになりました。「楽曲オタク Advent Calendar」(以下、「本カレンダー」)も、音楽を言葉にして人に伝えてみる面白さだったり難しさだったりを感じるきっかけになったり、音楽の「好き」を共有するきっかけになったら嬉しいなと思っています。

注意事項。読んだら気付くと思いますが、ほぼ日記です。音楽そのものについての記述よりも、楽曲の背景をふまえて私がどのように思い出に残っているのかを書いています。オタクの日記を晒しているようなものなので、そういうのが苦手な方はそっ閉じしてください。あとめっちゃ長くなったので適宜読み飛ばしてください。
以下では書き言葉に戻ります。

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今年も12月、早かったような長かったような。2020年はひとりの時間がたくさんあったせいか、音楽にじっくりと取り組んでみたり、音楽を聴いて思ったことを本気で言葉にしてみたり。それ以外にもいろんなことを悶々と考えていることが多かった。そのおかげか私の価値観に大きな変革が起きたりして、音楽に限らず何かのインプットに対して感じることや思うことが以前よりも格段に増えたと感じている。相当に刺激的な1年であった。

さて、年末になると「今年の10曲」のような振り返り記事をよく見かける。本カレンダーでも何かをテーマにして10曲を選ぶ記事を書いてくださった方がそこそこ多かった。

私は10曲選んで記事を書く!というのをまだやったことがなかったので、今年は「思い出に残った曲」というテーマで10曲を選んで思い出を書き残していこうと思う。なお、2020年にリリースされた曲以外も多分に含んでいる。

それでは1曲ずつ、時系列順で振り返っていきたい。

1. アコガレカスタマイズ☆ / わか

作詞:こだまさおり
作曲・編曲:石濱翔(MONACA)

1曲目はさっそく2019年の曲『アコガレカスタマイズ☆』を選んだ。選出理由は思い出に残ったからというのはもちろんだが、仲間うちでもこの曲を話題にしている人が少なかったように感じていたので自分が語りたかったからでもある。なおCDリリースは2019年12月25日と絶妙な年末であった。

この楽曲を聴くうえで、楽曲が発表された背景をぜひとも知ってもらいたい。本楽曲は2019年9月12日に発表された「アイカツオンパレード!ドレス紹介PV」のBGMとして冒頭の約30秒が初めてお披露目された。イントロもかなり特徴的なコードが使われており、いわゆる”ロケンロー”な雰囲気の楽曲であることからオタクを騒がせたのだった。

アイカツオンパレード!(以下「オンパレ」と略する)とはアイカツシリーズの第4シリーズであり、いままでの無印→アイカツスターズ→アイカツフレンズの3シリーズのすべてのキャラクターが登場する作品である。オンパレは2019年8月17日に開催されたアイカツフレンズのライブにて公表された重大発表であり、この時のPVにて初お披露目となったのが『アイドル活動!オンパレード!ver』である。

作詞:uRy
作曲:田中秀和(MONACA)
編曲:sugarbeans/伊沢麻未

私にとってMONACAの音楽にどっぷり浸かるきっかけになったのがアイカツ!であり、同人音楽を始めるきっかけもアイカツ!だった。もはやアイカツ!は精神的にも音楽的にも私のルーツであるといっても過言ではない。2019年当時放送していたアイカツフレンズでは音楽の毛色も制作陣も以前のシリーズとガラッと変わり、作品は好きなのだが一抹の寂しさを感じていた。そんな中で突如登場したのが『アイドル活動!オンパレード!ver.』であり、『アコガレカスタマイズ☆』なのだ。大好きなコンテンツに久々にルーツの音楽が現れたときの感動がいかばかりだったか想像いただけるだろうか。

この曲の登場がいかに感動的だったかを語ってきたが、音楽的なことも語りたい。石濱さんらしいポップでノスタルジーを刺激するような”ロケンロー”な曲調に2ビートと変拍子、そこにキュートでエッジの効いたコードが乗り、執拗なほど続くクールな16分キメと転調が加わって、セクシーな演奏で楽曲を彩る。アイカツ!で登場する4つのタイプ(キュート・クール・ポップ・セクシー)が揃ったまさにアイカツ!にぴったりな楽曲であると感じるのだ。

特に私が早口で語りたくなるのがAメロの後半の進行だ。Bメロ前の4つのコード進行は「C#aug/B→C#→Caug/D→Aaug」、augの乱れ撃ちである。最後の2つのaugの平行移動の爆発的威力を是非とも聴きながら"発見"していただきたい。ベースが半音浮いているような進行になっており、ベースラインも研究の価値が高いと思っている。

2. Frontiers / DEZOLVE

作曲・編曲:山本真央樹

2曲目は、今世紀最高のスーパーフュージョンバンド・DEZOLVEの5thアルバム『Frontiers』より表題曲で2曲目の『Frontiers』を選んだ。リリースは2月19日。選出理由は、3曲目の『re:fruition』とどちらにするか大いに悩んだが、『Frontiers』を聴いている時にいつでも自分が笑顔になっていることに気付き、前者を選んだ。今年一番私を元気にしてくれた楽曲。

私はDEZOLVEというバンドが好きだ。彼らの創り出す音楽も大好きだ。音楽が好きで入ったのに、ある時をきっかけにして存在自体が大好きになってしまった。バンドを好きになるというのはこういうことなのか、と初めて本気で理解することができた。

さて、『Frontiers』という曲は、ファンの思い描くようなDEZOLVE像をさらにアップデートしたようなサウンドで、ファンの期待を超えた音像を突きつけてくれた楽曲なのだ。

このアルバムについてはリリース当時に初見感想をつらつらと書いた。未読の方は是非とも読んでみてほしいし、彼らの音楽を是非とも聴いてみてほしい(ダイマ)。


3. いつまでも / NO.1P

作詞・作曲・編曲:NO.1P @Number_One_P
歌:あかつき姉さん @koemaneakatuki

同人サークル「motaku」のコンピレーションアルバム『Why don't you eat MONACA?Vol.2』のラストトラック『いつまでも』を3曲目に選んだ。リリースは春M3の3月1日だが、私もこのアルバムに参加していたのでリリース前に曲を聴いていたのだが、私は聴いた時に知らぬ間に泣いていた。

あかつき姉さんさんのびやかな歌声、NO.1Pさんの素直で鮮やかなサウンド。込められたたくさんの思いが、音になって羽ばたいているかのようだった。音楽の喜びや音楽への感謝、「好き」という思い。そういう純粋な感情が解き放たれているのを音から感じずにはいられない。

私はこの曲に大変感動したので聴いた思いを込めて再びソロギターとして音にしてみた。ありがたいことに作者のNO.1Pさんにも聴いていただき、コメントをいただくことができた。恐縮だがここに紹介させていただく。
なお、NO.1Pさんは光栄なことに私のことを褒めてくださっているが、私は自賛のためにツイートを引用したいのではなく、「聴き手が曲を聴いて思ったことを再度音にしてみたら、作り手にも通じることがあるのだ」ということの紹介のために引用させていただいている。むしろ私ではなく作り手のNO.1Pさんの感受性が豊かであるからこそ私の演奏から思いを汲み取っていただけたのだということも付言したい。

こうした音楽の交流をさせていただけることがとても幸せだ。そんな思いにさせてくれた楽曲。心の限りの感謝を伝えたい。

4.エンディングノート / 鹿乃

作詞:鹿乃
作曲:田中秀和(MONACA)
編曲:sugarbeans/伊沢麻未

田中秀和さんがサウンドプロデュースを手掛けた、鹿乃さんのアルバム『yuanfen』のラストトラック『エンディングノート』を4曲目に選んだ。リリースは3月4日。正確にはこの後に『光の道標』が配置されているが、こちらはボーナストラックと考えるのが自然だろうか。

自分が知らないだけかもしれないが、ひとりの作家が全曲をサウンドプロデュースしているようなアルバムは希少であろう。アーティストの生き様を描いたような濃厚な音楽作品をアルバムの単位で聴くことができるのは、とても幸福なことだと感じている。

このアルバムはまさしく傑作揃いで選出も大変悩んだ。選出理由は、私の中に一番長く響いていた曲が『エンディングノート』だったからである。視聴当時は『yours』『罰と罰』のような凄まじい攻撃力を持ったような楽曲に圧倒されていたが、半年ほど経った今もじんわりとした響きや温かみが身体に残っていた楽曲が『エンディングノート』だったのだ。

『エンディングノート』は自らの終末に備えて残しておく手記のことである。思えば、音楽はいつだって『エンディングノート』になりうる。しかし音楽はたとえ作り手が旅立ってしまったとしても、聴き手のなかには時を超えて場所を超えてずっと残ることができる。歌詞やサウンドやコンセプトからも、この楽曲はそうした音楽の同時間的ではない鑑賞であったりコミュニケーションであったりを想って作られた楽曲であると私は感じている。だからこそリリースされたてしばらくした今、楽曲の響きが私の中で共鳴してきているのかもしれない。

音楽的なことを語ると、この曲は田中さんの描くメロディーの美しさをsugarbeansさんの繊細な編曲と伊沢さんのコーラスワークで更にやさしく美しく仕上げられている。更に田中さんの「展開力」も非常に光っている楽曲だ。
1サビの後半は「響け」という歌詞で中断される。2サビも2Bから直接入るのではなく、「2B→Dメロ→間奏→落ちサビ」という構成になっている。そして落ちサビ〜ラスサビでは1サビでは中断されていたサビ後半の展開が、より切ない進行に合わせて提示される。ここのサビ後半の展開とボーカルのハイトーンに心を揺さぶられてしまうのは必定であろう。
こうした『土曜日のフライト』を始めとした特殊な展開は、田中さんが楽曲を通して物語を描いているのだろうと最も感じられる部分だと私は思っている。

メロディーのテクニカルなことも少しだけ触れたい。サビの「何度目かもわからない」のフレーズは階名で書くと「ファミ①シbシ レドシド ラ ド②シ」になっているが、

- ①シbはコードのIII7(-9)に乗らない不安定な響き「-5」
- ②シはコードのII7に対して「6(= 13)」の響き

という具合であり、全くの安直さを感じない緻密なフレーズだ。このフレーズだけを引き合いにしても熟慮の末に導き出したのであろう、という非常に繊細さを感じるメロディーラインなのだ。実際に音を鳴らしてみると、この不安定な音の部分に自分の感情が込められていく感覚を感じられると思うので、ぜひやってみてほしい。

ちなみにサビ頭の進行から『カレンダーガール』を想起するのは私だけではないだろう。作曲・編曲も『アイドル活動!オンパレード!ver』と同じタッグである。


5. わたしお嫁に行くわ / 婦人倶楽部

作詞・作曲:M.Lemon

濃厚に語りすぎたのですこしさっくり行きます。5曲目は、今年4月に配信スタートした婦人倶楽部の『フジンカラー』を挙げたい。…曲じゃなくてアルバムじゃないか。アルバムのとしての作品性や完成度が高すぎるので1曲に非常に絞りづらいが、一番聴いていたのがTr7『わたしお嫁に行くわ』なのでこれを5曲目に選びたい。選出理由は今年めちゃくちゃ聴いたアルバムだからです。

婦人倶楽部は2014年に結成されたグループなので耳の早いオタク諸氏は以前から聴いていたようだ。その感度の高さに心から尊敬の念を抱く。

婦人倶楽部は「佐渡ヶ島」在住の「婦人たち」と裏方の「黒子」がメンバーで、佐渡ヶ島という明確なテーマが存在している。このテーマをプロデューサーの佐藤望さんが軽快なポップスとして見事に昇華させており、独自の作品性・アーティスト性を獲得している。

サウンドは室内楽的な発想のフルートを始めとした管楽器のビビッドな音使いをバンドサウンドやピアノに柔軟に織り交ぜているところが特徴だろう。『わたしお嫁に行くわ』では婦人たちの笑い声をフュージョン的なキメのフィルインのギミックに使うという離れ業もキメている。

歌詞のローカル性や自由な発想もツボだ。アクロバティックな歌詞にはキリンジ的な世界観との共通性を感じるかもしれない。
最新シングル『君にやわらぎ』はなんと歌い出しが「広重(ひろしげ)」だ。初見時に「え?いま広重(ひろしげ)って言った???」と思わず笑ってしまった。「佐渡ヶ島と歌川広重ってどういう関係あるんだっけ〜」とか、「赤泊ってどこやねん〜〜〜」とか、曲中に出てきた言葉を調べたくなってしまうのも婦人倶楽部の楽曲の確かな魅力だ。曲を聴くと佐渡の魅力がサブリミナルで脳に入りまくってくるのを感じる。私はもう佐渡に行きたくて行きたくて仕方がない。

以下の記事は台湾旅行の写真が豊富に掲載されていてとてもオススメです。


6. poppin' rain / 迎羽織(CV.小倉 唯)

作詞:タケヨシキ/奈須野新平
作曲・編曲:奈須野新平/福田淳平

「音楽少女」というコンテンツの楽曲『poppin' rain』を6曲目に紹介したい。友人に音楽少女のオタクが居るので楽曲に興味があり、ある日サブスクでも聴けることに気付いたのが今年の6月頃。ふと聴いていたら曲に引き込まれてしまい、最終的にDメロを聴いて泣いてしまった曲だ。

この曲を聴いて、開始3秒で良い曲と思った曲は本当に良い曲なんだなと思わされた。
この曲は鮮やかなサウンドでどこを切り取っても楽しく気持ちのいい素晴らしい楽曲なのだが、白眉はDメロであると断言する。Dメロで急に雰囲気を変え、調性を感じないような転調が続き、少し切なくフワフワした感じになる。そしてDメロ前半の締めに歌詞とオケが渾然一体となって語りかけてくる瞬間が訪れるのだ。

この歌詞とオケ両方を活かしきったギミックに私は深く感動したのだった。こんな素晴らしい楽曲をいままで見逃していた自分を責めずにはいられない。しかし、音楽のサブスクサービスのおかげでたくさんの楽曲に再会できることは幸せ極まりないことだ。


7. rocket coaster / Plus-Tech Squeeze Boy


7曲目は、Plus-Tech Squeeze Boy(以下、PTSB)の2000年リリースのアルバム『FAKEVOX』のTr5『rocket coaster』を選びたい。

この曲に出会ったのは今年の8月20日のこと。Twitterのタイムラインで誰かが話題にしているのを見かけて聴いてみたところ、アルバムとしての作品性の強さや、フリーダムでやんちゃだったり素直でかわいかったりする楽曲群の振り幅や物語性に衝撃を受けた。

私は何よりこの曲の入りに感動してしまったのだ。前曲のTr4『Test Room』はもっとテキパキとしたイメージのキュートな楽曲で、曲の終わりにむけてトラックが少なくなり、ビープ音を鳴らして曲が終わる。

そこから切れ目なく次の『rocket coaster』が始まる。突如としてうなるベースとドラムフィルインが始まり、芯の強いギターのストロークと力強い歪んだドラムのサウンドに、8分裏のキメが続いてゆくリズム。そして少しけだるげでウィスパー気味な男女ボーカル。歌詞の「〇〇さ」という語調や、「お決まりのメロディー」というあの曲を想起せざるを得ないフレーズ。私が思い描いていたの理想の音楽がそこにはあった。曲名の『rocket coaster』の「coaster」は、いわゆる渋谷系サウンドの楽曲が今でもオマージュで使われ続けているテーマのひとつである。おそらく『rocket coaster』はオマージュ元の楽曲のひとつなのだろう。

クラシックでは組曲の楽章の間で切れ目なく演奏することアタッカと呼ぶが、アルバムワークでの曲間についてはなんと呼ぶのだろう。未聴の方はぜひともアルバム通して聴いて、『rocket coaster』を"発見"して追体験してみてほしい。

この楽曲は、私が理想だと思っている音楽のひとつだ。聴いた瞬間にそれが分かってしまった。いままでこんな理想は存在しえないのだろうと思っていたが、すでに20年も昔に存在していた。いままで出会ってこれなかったことがただただ悔しい。PTSBはまわりのオタクたちは以前から聴いていた人が多い様子だったのでなおさらだった。しかし『poppin' rain』の時にも同じことを書いたが、サブスクサービスがなければこの曲に出会うことは一生出来なかったかもしれないのだ。20年という長い間気付けなかった楽曲との出会いは、出会いの喜びと今までの自分の行いへの後悔が同居しており、複雑な気持ちだ。

そして『FAKEBOX』のジャケットデザインはアイカツ!でも数多のデザインを担当されている内古閑智之さんが手掛けているらしい。私は今まで何も知ろうとしていなかったのだなぁ。。。


8. Go Just Go! / 夢見りあむ、大槻唯、北条加蓮、佐藤心、一ノ瀬志希、鷹富士茄子、棟方愛海、川島瑞樹、五十嵐響子

作詞:八城雄太
作曲:田中秀和(MONACA)
編曲:TAKU INOUE

宇宙のすべて。

この曲を聴いた時、良い曲だとかを思う次元ではなく、とにかく圧倒されて打ちのめされてしまった。今回選んだ10曲の中で最も異質な理由で選んだ曲。もしかしたら嫉妬という感情に近いのかもしれない。曲を聴いて打ちのめされるというのは滅多にない体験なのではないだろうか。デレステのゲーム内イベントに本楽曲が実装されたのは8月31日

打ちのめされた原因を内省して言語化を試みよう。私は音楽のルーツのひとつが南米音楽で、ナイロン弦ギターを愛用しているのもありサンバテイストの曲が好きであり、自分で曲を作る時もサンバテイストを取り入れることが多い。NO.1Pの『いつまでも』と同じアルバムに収録させていただいている拙作『Escape From the World!』はナイロン弦ギターをラテンテイストとして捉え、クラブミュージックの文脈で「ラテンハウス」を構築したうえで、生楽器やボーカルによってジャズ・ファンクの要素も取り入れた音楽が自分でも作れるのではないか、と仮説を立てて制作した曲であった。『Go Just Go!』は、私がやってみたいと思っていたことをすべて上回る形で存在していた曲だった。ゆえに打ちのめされたのだろう。

例えばパーカッション。ティンバレスかカイシャ・ヘピニキのような生々しいサンバパーカス。いつかやってみたいと憧れていたサウンドだ。特にサビ後半でメロディーが細かい動きをする部分で低音打楽器群が遠くでキメを作っているような部分。TAKU INOUEさんの代名詞的なゴリゴリのキックとは真逆のやわらかい"キック"までも自由自在に操ってしまう音使い。まことに憧れる。

音作りでいえば、生楽器の音もシンセサウンドも同じくらい丁寧に作られているハイブリッドさ。憧れずにはいられない。

サンバテイストが得意分野のひとつである田中秀和さんの作曲を、ポルトガル語専攻でブラジル音楽への理解が深いと思われるTAKU INOUEさんがサンバテイストのハイブリッドミュージックにしてしまう。ああ、憧れる。

そしてサウンドやMVの派手さに隠れがちだが、田中さんの作曲の美しさに言及したい。この楽曲はサウンドを差し引いてピュアなメロディーラインや和音の響きだけを考えても非常に美しい曲だと思っている。特にサビ後半の「ああ ゴージャスなゴールド」以降は素晴らしい。同じ音形でも違うコードで彩られ、「めくるめくる パラダイスなら ここでいいじゃない」という歌詞には階名で「ソラドドラド レ ミファファ#ソミド ミbミbレドラド」というメロディーがあてられており、コンパクトでスピード感があるフレーズの中にノンダイアトニックな音が見え隠れしている。こういう部分に私は感情を揺さぶられるのだ。

「めくるめくる パラダイスなら ここでいいじゃない」は歌ハメもすさまじい。フレーズ的には「めくる」と「めくるパ」と「ラダイス」で分断されているのだ。歌詞を見ても歌い方が全く想像できない歌ハメで、口に出してみるとわかるが、「パ / ラダイス」と一語を分断することでパラダイスの「ラ」の部分に重心をかけることができるうえに独特のリズムも生まれる。作詞の八城雄太さんのセンスが光っていると感じる。全体を通した韻の踏み方も流石の一言で、Aメロはラップ的に促音(小さい「つ」)やリズミカルに聴こえる「k」「t」の音を大事にしており、一転してBメロでは雰囲気を変えてやわらかな歌詞になっている。ああ、歌詞にも憧れずにはいられない。


9. コスモスサーチ / わか・るか

作詞:只野菜摘
作曲・編曲:帆足圭吾(MONACA)

ワンコーラスMVが公開されたのは、この曲も8月31日
8月31日はバグだった。公開時の私のはしゃぎっぷりをお届けしよう。

「コスモス」とはアイカツ!初代の星宮いちごと大空あかりによるユニット名である。アニメ最終話の178話の最後でいちごとあかりが共にステージに立つ姿が描かれて物語本編が終了するのだが、ユニット名やその先の活動はアニメ本編では描かれてこなかった。その「コスモス」のユニット曲を、アイカツ!初代の音楽を手掛けてきた只野さん・帆足さんタッグが時を超えて担当する。アイカツファンにとてはこんなに胸が高鳴ることはないだろう。

私が2020年で良かった曲を1曲だけ選べと言われたら『コスモスサーチ』を推す。音楽的にも思い出的にも好きが詰まっている。

音楽的には特にストリングスが好きポイントだ。私の世界一ストリングスが好きな曲がこの曲に更新されてしまった。セクションの一体感であったり、各所のフォールが可愛かったり、ボーカルのロングトーンでコードをなぞるラインを描くところは雄弁であったり。間奏では落ち着いて豊かな響きも聴かせている。生命力に満ち溢れたストリングスだ。

この曲は特に歌詞が好きで溢れている。「サーチ」「リサーチ」「察知」等の言葉遊びは序の口で、メロディーに合わせて「もうムリ」ではなく「ムリもう」という倒置言葉にしているのもグッと来る。

なかでも、私はサビの「もしかしたらその意味において あなたが 私の宇宙の真ん中なのかもしれない」というフレーズの部分が好きだ。この歌詞、直接的には何を言ってるのかよく分からない。私はこういう婉曲的で想像を膨らませてくれるような歌詞に文学性を感じたり奥ゆかしさを感じたりして好きなのだ。
「あなたが 私の宇宙の真ん中なのかもしれない」という感情は一体どういう体験に基づいて生まれたのだろうか。私の宇宙であるあなた、一体どういう人間関係なのだろうか。先輩後輩なのか、親友なのか、ライバルなのか、恋人なのか。それとも言葉では表せないのだろうか。
そして「もしかしたらその意味において」なんて言葉は通常歌詞で使うフレーズではないだろう。ある意味大胆な言葉選びも琴線に触れてくる。
私は初めてフルで聴いた時、2サビの「ぎこちなくなるのどうして?」「好きのレベルどれくらい??」の畳み掛けるような歌詞でおさえきれずに泣いてしまった。

『コスモスサーチ』のフルを聴いてややあってから、アイカツ!という作品のアニメ本編中で描ききれなかった「コスモス」というユニットの楽曲だからこそ、描ききれないことを描いている歌詞なのだと私ははっとした。語られていない物語の埋め方は聴き手に委ねられているのだ。解釈は自由でありそれこそコスモスなのだ。言葉が頭に引っかかって何度も聴き直したくなる、そんな文学性と物語性を持ち合わせている最高の歌詞だと感じている。


10. ハッピー・ホリデー・エクスプレス / 魚座とアシンメトリー

作詞・作曲・編曲:namaozi

最後の10曲目。自作曲『ハッピー・ホリデー・エクスプレス』を選んだ。思い出に残っている曲に自作曲を入れないわけにはいかない。

この曲は今年の7月末〜10月あたりでずっと制作していた曲であり、夏の思い出でもあり、サークル「魚座とアシンメトリー」のふたりとの思い出が詰まっている曲でもある。

個人としては、人生で3曲目の歌モノ曲であり、初めてエレキギターを自分で弾いたりピコピコサウンド入れたりストリングスを入れた曲でもあり、初めて作れたカワイイ曲調の曲でもあり、同時にロックっぽい曲調を作れたのも初めてであり、初めてテクニカルに転調できた曲でもあり、初めてやりたいことをやり切れたと思えた曲でもある。何もかもが手探りだったが形にすることができた「自分の好きな音楽」がこの曲だ。

この曲の制作で最も難航したのは作詞だった。女の子ふたりの休日デートをテーマにした楽曲だったので、どうしても女の子の立場になった歌詞を書きたかった。これを解決するためには自らに狂気を宿す必要があった。創作とは、己のことを恥じずに「表現」としてさらけ出すことなのだろう、と気付かされたのもこの作詞制作中であった。とにかく自分がカワイイものを作れているのか疑心暗鬼が続いていた。最終的に曲が出来上がり「かわいい!」と言っていただけたときの喜びは忘れられない。

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おわりに

長文をお読みいただきありがとうございました。
この記事を書いて、人間は耳だけで音楽を聴いていないんだなって改めて思いました。そして、自分はそれでいいし、それがいいんだと思っています。
2020年もあと1ヶ月残っていますがが、今年もたくさんの楽曲に出会えて幸せでした!

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