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アウトサイド ヒーローズ:エピソード8-06

スクランブル ストラグル スカイハイ

「“トルネイドエッジ”! ……ウラァァァ!」

 雷電が叫び、弧を描いて脚を振り抜いた。

「『Tornado Eddddd……』」

 脚が旋回するたび、続けざまに大気の刃が飛ぶ。攻撃の機会を狙って浮いていたトンビドレイクが一羽、また一羽と刃を受けて落下していった。

 尚もカーテンを下ろすように大きな翼を広げて舞い続ける怪鳥の群れを、雷電は睨み付ける。

「かなり落としたはずだぞ! なのにちっとも減らないなんて……!」

「『そりゃそうだよ、空はモンスターの世界だからね』」

 雷電の独り言に、インカムからドットが応えた。

「『奴らからしたらこの船は“異物”だ。取り除こうと、全力で来るよ! ……げっ!』」

「どうした?」

「『雷電、ハイジャック犯が言った通りだ、船尾にも集まってる! 何とか、そっちも追い払えないかな?』」

「しかしなあ、この数じゃ、近づけない……!」

 鉤爪でスーツの装甲掠めるように飛び回るトンビドレイクの群れをいなしながら、唸るように雷電が答える。指先がさ迷うように動き、腰に提げたメタリック・レッドのナックルに触れた。

「……丸いの! フォームを換えるぞ!」

「『雷電? 何をする気なの……?』」

 ドットに答えず、雷電は腰からナックル……“イグニッショングローブ”を取り出していた。

「“重装変身”!」

 叫びながらナックルを握り込んだ右手で、ベルトのレバーを引き上げる。

「『OK! Generate-Gear, setting up!』」

 ベルトの電子音声が応えて、激しいフラメンコ・ギターの旋律が流れ出した。雷電スーツの装甲から炎が噴き上がる。飛び回るトンビドレイクたちは火柱を囲んで、一斉に笛を吹くような鳴き声を響かせた。

「『Equipment!』」

 音楽が終わるとともに炎が消え、雷電の装甲はメタリック・レッドに染まっていた。銀から金にグラデーションがかかるラインが陽光を受けてぎらりと輝く。

「『“FIRE-POWER form, starting up!”』」

「……うおおおお!」

 ベルトの電子音声が変身完了を宣言するや、雷電は雄叫びを上げて走り出していた。

「……オラァ!」

 ナックルを取り込み、大型化した右手で怪鳥に襲いかかる。電光を帯びた炎が拳から吹き出して羽毛に燃え広がった。トンビドレイクは火だるまとなって殴り飛ばされ、すぐ後ろに浮いていたもう一羽にも炎が燃え移った。

「ラアッ!」

 振り返りながら右腕を振るう。薙いだ裏拳の軌道をなぞって猛火が飛び、数羽の羽根を焼いた。

 トンビドレイクたちは警戒して距離を取り、焦げ茶色のカーテンのような包囲網は、僅かに綻び始めた。

「どけ! そして、かかってきやがれ!」

 右腕でモンスターの群れをかき分けながら、雷電は後部ハッチめがけて飛行機の背を走った。怪鳥を殴りつける度に拳は勢いを増し、装甲は熱を持って周囲に陽炎が揺れる。闘うほどに炎が噴き出し、燃え上がるほどに充電されていく“ファイアパワーフォーム”の雷電はますます勢いを増し、機体後部にたどり着いた。

 足元の外壁を見下ろす。乗降ハッチがあった壁面には大穴が開き、大量のトンビドレイクが群がっていた。

「……ここだな!」

 雷電は身を躍らせ、怪鳥たちを掻き分けるようにして穴に飛び込んだ。

 機内には怪鳥がひしめき、即席のバリケードの奥には乗員たちが身をすくめている。

「ウラァアア、どけや、クソ鳥がアアアア!」

 雷炎を散らしながら拳を振るうと、火が付いたモンスターたちが悲鳴をあげる。全身の装甲から火の粉と雷光を散らす闘士に肉薄され、怪鳥たちも爪や嘴を振るえずにうろたえる。雷電は戦意を失ったトンビドレイクを蹴散らしていった。

「……君、ありがとう!」

 バリケードの向こうに身を潜めていた士官らしき男が顔を出す。

「一人、モンスターと闘っていた男がいるんだ! 何とか、彼を助けてやってくれないか!」

「何……?」

 羽を閉じ、うごめく怪鳥の群れの中で、一際密度濃くたむろする集団があった。機内のモンスターたちの視線が集まる中、その一団はほぐれず、内を向いてもみ合っている。

「……あれか!」

 雷電はメタリック・レッドの剛腕を塊となったモンスターの団子に突っ込み、たやすく引き裂いた。空中での狩りに適応したトンビドレイクたちは、陸上ではぎこちなく跳ねることしかできない。守勢に回った怪鳥たちは次々と燃え上がりながら、大穴から船外に放りだされていった。

「はあ……はあ……どうだ!」

 モンスターが叩き出されると、ところどころが焦げついた機内に乗員たちが這い出してきた。雷電が反応する前に兵士たちは声をあげながら、床に転がった黒ずんだ残骸のようなものに駆け寄っていく。人の輪の中から士官が顔を上げた。

「助かったよ……だが、まだモンスターが来る!」

 機体の外には無数のトンビドレイクが舞い、大穴の前を横切るたびに鋭い視線を向ける。屋根に、壁に衝撃が走って機体が揺れた。怪鳥たちが機体の外壁の、そこかしこに爪や嘴を突き立てているのだ。

「くそ……引き剝がすぞ!」

 雷電はきしみ始めた総身を引き上げるように立ち上がり、再び穴の外に飛び出した。

 大気の塊がそのままぶつかってくるような、強い風が吹いている。ガタガタになった機体は時折よろめきながらも、速度を落とさずに飛び続けていた。機首の先には緑の樹々の中に、カガミハラの灰色の城壁がそびえ立っている。

「もう少し……もう少しなんだ!」

 周囲のモンスターはメタリック・レッドの闘士が現れるなり、警戒して機体から距離を取った。しかし離れる素振りも見せず、時折突っ込んでは翼に爪を斬りつけていく。怪鳥が横切るたびに、機体には新たな傷が増えていった。

 ヘルメットの内側から、ドットの通話が入る。

「『今、この機体……T-15をモニターしてるけど、そろそろ強度が限界だよ!』」

「だろうな!」

「『わかってると思うけど雷電スーツだって、過充電で活動限界が近い!』」

「ああ! 十分わかってるさ!」

 スーツを覆う揺らぎは一層空気をうねらせ、白い煙も幾筋か上がり始めていた。バイザーにも赤々と輝く警告表示が踊る。全身のきしみはますます激しくなり、それ自体が恐るべき警告音となっていた。

「デカいのをかます! それで、一気に引き剥がすぞ! ……“ファイアボルト”!」

「『Fire Volt』」

 雷電は右の拳を握り込む。必殺技の発動コードを叫びながら腕を旋回させるとベルトの人工音声が応えて、爆発的な雷炎が渦を巻いて噴き出した。闘いの中で急速に充電したエネルギーを一撃で解き放つ、ファイアパワーフォームの必殺技だった。炎は怪鳥の群れを吞み込み、次々に焼け墜としていく。

「『……Discharged!』」

 膝をついた雷電に、人工音声が充電切れを告げる。スーツに包まれた全身は更に重くなっていたが、雷電は顔を上げて周囲を見回した。

「……よし、ひとまずは吹っ飛ばした。このまま鳥どもが戻ってくる前に、速度を落とさずに突っ込め!」

「『確かに、それしか手はないけど! ……着陸はどうするの?』」

 困った声のドットに、吼えるように雷電が返す。

「俺に考えがある……いいから、行け!」

(続)

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