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アウトサイド ヒーローズ:スピンオフ;5

ナゴヤ:バッドカンパニー

「あはは! はっはっはっは!」

 戸惑う人々の中で一人、高笑いをあげたのは“明けの明星”の女首領だった。

「あなたたちは、正義の味方だというの? ……いいでしょう、相手をしてあげます」

「この……!」

 拳を握りしめるレッドの肩を、イエローがポンと叩く。

「ソラちゃん、落ち着いていこ」

「ヤエ……! ありがとう、頭が冷えたわ」

 ブルーは減圧レーザーガンを構えていた。

「二人とも、やりましょう」

「オッケー!」

「はーい!」

 レッドとイエローは警棒を抜くと、“みかぼし”に打ちかかる。

「――ぬるい」

 真っ先に振り下ろされたレッドの一打を、女首領は掴み取って受け止めた。

「なっ、に……! ……放せ!」

「ええっ……?」

 レッドがもがくが、警棒はビクともしない。後ろに続いていたイエローが困惑してたたらを踏むと、“みかぼし”は「ふん」と小さく鼻息を漏らし、捕まえていたレッドをイエローに向かって放り投げた。

「ああっ!」

「きゃあっ!」

 レッドとイエローが悲鳴をあげる。ブルーはためらわずに、レーザーガンの引き金を引いた。不可視に近い速度で減圧レーザーが走り、共有地のミール・ジェネレータを貫いて機械を消し飛ばした。

「何で? 当たったはずなのに……!」

 ブルーが自らの目を疑って立ち尽くす。立っていたはずの“みかぼし”はレーザーが照射される前に消え去り、

「ずいぶん悠長なモノね……」

 固まっていたブルーの背後に立っていた。レッドが顔をあげて、ブルーに叫ぶ。

「キヨノ、後ろ!」

「えっ……」

 振り返ったブルーの腹部に、女首領の拳が突き刺さった。

「がはっ……!」

 空気の塊を吐き出してブルーが崩れ落ちる。“みかぼし”は戦闘態勢を崩さず、しかし冷ややかな目をトライシグナルに向けていた。

「ヒーローごっこをするには、威力がありすぎるのではなくて? けれど、当たらなければ宝の持ち腐れね」

「くっ……そ……!」

 倒れ伏せていたレッドが、減圧レーザーガンを握りしめて顔を上げた。バイザー越しに“みかぼし”を睨み付ける。

「やめなさい。市民を巻き込むつもり?」

 女首領は動じる素振りもなく言い放つと、鋭いヒールで銃を踏み抜いた。

「あっ……!」

「みんな……!」

 保安官見習いは拳を握って立ち尽くす。“みかぼし”は勝ち誇るように両手を広げ、周囲の住人たちを見回した。

「おわかりいただけたかしら、我々がこの地区を制圧する、ということが」

「首領」

 姿を消していた「アオオニ」が再びバイクに乗って現れた。幾分かスリムになった“シルバースライム”ことぎんじがサイドカーに収まっている。

「暴徒2名、収容を済ませてございます」

「二人とも、ご苦労でした」

 首領は振り返らずに幹部たちに返すと、人々への演説を続けた。

「同盟者たる市民諸君! 我々の実力を披露するには十分であったと思う。今後は我らが“明けの明星”がこの地区を支配する! 服従を拒む者は逃げおおせるなり、反逆を企てるなり、好きにするがいい。……いずれも無益であると、すぐにわかるようになるだろうがな」

 “みかぼし”はそう言うなり、高笑いして跳びあがる。

「はっはっはっは! さらばだ!」

首領は高らかに言うと、“シルバースライム”がにゅるりと動いて席を譲ったサイドカーに収まった。バイクは威圧的なエンジン音をうならせて動き始める。

「……待って!」

 イエローが起き上がり、バイクの後部に減圧レーザーガンを向ける。放たれた光線は、膜状に広がった銀色のスライムによって阻まれた。

「あああ! あっぢい!」

 “シルバースライム”は苦しそうな声をあげたが、レーザービームからサイドカーとバイクを守り切った。

「へっへっへ、効かねえぜ! ……いてて、ヒリヒリする」

「“シルバースライム”、よくやりましたね。……“トライシグナル”、次は容赦しないわ。せいぜい私を楽しめるように、強くなることね!」

 そう言って女首領が暗い地下回廊を走り去っていく。市民たちは競り合いが終わると一人、また一人と共有地から立ち去って行った。残されたのは崩れ落ち、うなだれた警ら戦隊の面々と見習い保安官だった。

 沈んだ空気の広場に、アキヤマ保安官がひょっこりと顔を出す。

「……お疲れさん、みんな、ケガはないか?」

 三人娘はヒーロースーツを解除し、青い制服姿に戻ってよろよろと立ち上がる。キョウは疑い深い目を保安官に向けた。

「おやじ……」

「こら、勤務中は“保安官”と呼べと言ってるだろう。調書は俺が作っておくから、お前はお嬢さん方をお送りしなさい。……トライシグナルの皆さんも、ひとまずお休みください。また後程インタビューさせていただきますので、今日はここまで、ということで……」

 もみ手をしそうなほどににこやかなアキヤマ保安官が告げる。言葉を返す気力も失った少女たちは体を引きずりながら、パトロール・カーに乗り込んでいった。キョウは自転車をアキヤマ保安官に引き渡して、パトロール・カーの運転席に収まった。

「それじゃ、先に上がらせてもらいます。……後で話を聞かせてもらうからな」

 父親を睨みつけて言い捨てると、青年の運転する車はバイクと反対を向いて回廊を走り始めた。

 街のそこかしこに浮いていた立体映像の広告表示が消え去っていく。それに反して、弱まっていた街灯の光が強まっていった。区内放送のスピーカーがザリザリと音を立てる。

「『カミマエヅ地域にお住まいの皆さまに、お知らせします。本日を持ちまして、当地域の行政、並びに司法の一切の権限は……』」

 ごま塩頭のベテラン保安官は黙ってアナウンスを聞きながら、走り去っていくパトロール・カーを見送っていた。

(続)

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