アウトサイド ヒーローズ:特別編8
劇場版ストライカー雷電:インフィニット エナジー ウォー
「……それで」
いつの間にか椅子に腰かけ、話を聞いていたメカヘッドのセンサーライトが緑色に光る。
「その映画、そこからどうなるんです? 結局、ストライカー雷電が勝つんでしょうけど……まだ、戦いは終わりじゃないんですよね?」
「わかりました」
アオは満面の笑みを浮かべていた。テーブルの上に置いていたパンフレットをむんずとつかむと紙芝居よろしく目の前で開き、皆に向かって語り始めた。
「ソーラーパワーフォームの雷電をねじ伏せたアトミック雷電は、再び逃亡してしまいました。そこで轟博士は、“ソーラーカリバー”のパワーを安定させるギアの開発に乗り出します。しかし新型ギアの完成前にアトミック雷電が現れて、一層激しく町を破壊しはじめました。ギアの完成を待たずに出撃した雷電は、激しく炎を噴き出しながらアトミック雷電と打ち合います。出力の差は明らかで、雷電は防戦一方でした。そんな中届けられたのは、余剰エネルギーを受け止め、雷電を更に強化する新型ギア。これによって暴走を克服した雷電はアトミック雷電を押し返し、町から追い払います。一方のアトミック雷電は、激しい戦闘が続いたために内蔵されたエネルギー炉が限界を迎えつつありました。このままでは大規模な爆発が起こり、広範囲を汚染してしまう……雷電はアトミック雷電を追いつめます。しかしここで陽が沈み、“ソーラーパワーフォーム”の力が弱まってしまいました。自らのスーツを壊しながらも最後の力を振り絞り、激しさをますアトミック雷電の攻勢。一方の雷電は、徐々にアトミック雷電を抑えることができなくなっていきました。ついに“ソーラーカリバー”が折れ、逆転のピンチに陥った雷電。……しかしその時、雷電の全身を金色の光が包みます! それは、雷電に助けられた町の人々から供給された電気エネルギー……金色に輝く雷電は光の剣となった“ソーラーカリバー”を放って、とうとうアトミック雷電を打ち倒したのでした……!」
経典を示しながら説教する司教のように、アオはパンフレットを掲げながらとうとうと語り続ける。レンジたちは初めて救済教に触れる未教化民のように、ぽかんとした顔で物語を聴いていた。
「ところで、このアトミック雷電の変身用ベルトなんですけど、“リアクタードライバー”って名前で……」
「わかった、一旦ストップしてくれないか。ここまでのところで、まず話をしようか」
さらに熱心に話を続けようとするアオを、タチバナが慌ててとめた。
アオはまだ話したりない様子だったが、「わかりました」と残念そうに答えて椅子に腰かける。メカヘッドがポン、と手を叩いた。
「タチバナ先輩の因縁の相手、でしたっけ。アトミック雷電がもう一度、どこかの町を標的にして暴れるのは確実でしょう。けど、どこに、いつ現れるのか……?」
アオは「ふふん……!」とほほ笑んで、パンフレットに写された劇中場面の写真を指さした。
「大丈夫、目星はつけてます! アトミック雷電が次に現れるのは、二回目の闘いから5日後。パンフレットの写真と、レギュラー・シリーズの映像、そして他の旧文明時代の映像資料から推測すると……場所は現在の、オーサカ・セントラル・サイト! 環状重層都市の中心部、セントラル・コアです! 私は行ったことがないので、“絶対”とは言えないんですけど……」
「オーサカ、ねえ。俺も行ったことないからなあ」
タチバナは頬をぼりぼりと掻くと、ためらいがちにレンジを見た。
「レンジはどうだ、その……あまり、気の乗らない話かもしれんが」
「気を使ってもらって、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。まあ、思うところは色々ありますけど……」
レンジは穏やかな調子で返すと、パンフレットの写真を覗き込んだ。
「ただ、さすがに旧文明の写真だけじゃあ、よくわからないですね。特にセントラル・コアは、文明崩壊前の遺跡はほとんど残ってないはずですから」
機械仕掛けの小鳥がテーブルの上をちょんちょんと跳ねて、レンジと一緒に写真を見つめている。ぴりり、と作動音を鳴らしながら、ナイチンゲールが首を傾げた。
「……検証、完了しました。集積した画像データとの比較を行った結果、こちらの画像が撮影されたのは、旧文明期のオーサカ・セントラル・サイト中枢部である確率が、かなり高いかと」
「うん、ナイチンゲールが言うなら、その通りなんだろう……ってことで、どうでしょうかね、おやっさん」
「そうだな。アオの執念と、ナイチンゲールの分析……両方が同じ結論なら、俺もこれ以上言うことはない。……ただ、そうか。オーサカ・セントラルか」
タチバナは眉間にしわを寄せて、「ううむ……」と唸った。
「オーサカ・セントラルには特にコネもないからなあ。町の中で戦うなんてもっての他だが、そもそも侵入者から町を守るために闘わせてくれ……なんて言って、入管がマトモに話を聞いてくれるかどうか……」
「そりゃまあ、そうですね」
「えっ、でも、お父さんは保安官だし、メカヘッドさんは軍警察の刑事さんなんでしょう?」
ため息をつくタチバナ、さも当然のように相づちを打つメカヘッドに、アオが口を挟む。機械頭の刑事は芝居がかった身振りで首をすくめた。
「オーサカ・セントラル保安局はナゴヤ・セントラルの保安局や防衛軍とは全く別の組織だからね。俺たちヒラ警官の話なんか聞くわけはないし、正直言って保安官の免状でもダメだろうな」
「保安官ってのは、各地の保安局が町ごとの有力者に免状を与えてるだけ……って言ってもいいんだ、ぶっちゃけて言うとね。だから町が違えば資格も役に立たない、なんてことだってある。大体の保安官は、自分の町だけで手いっぱいだ。それならいいけど、偉そうにするだけのお山の大将だって、結構多いよ。おやっさん……タチバナさんの場合は顔が広いし、色々な町で信頼されてるから、アオにとっては意外だろうけどね」
メカヘッドに続いてレンジが説明すると、タチバナは照れ臭そうに視線を逸らす。
「まあ、俺の場合は保安官になる前からのコネやら、ミュータント同士の付き合いやら、色々あるからなあ。しかし、今回はどれも使えん。そしてオーサカの保安局に話を通すなら、もっと上……軍関係ならせめて、イチジョー副署長。ナゴヤ・セントラル保安局なら、滝巡回判事殿に申し入れを頼むしかないだろうな」
「正直言って、どちらもギリギリなラインだと思いますけどねえ。どっちにしても時間が足りませんよ。例えばイチジョーさんに口利きを頼んだら、一旦は軍のもっと上に話を通さなきゃいけません。巡回判事殿は……別件で動いてもらってるんでしたっけ?」
すっとぼけた調子のメカヘッドの目くばせに、タチバナはむすっとして「まあ、な」とだけ答えた。
「アマネさんって、すごいキャリアの人だったんだ……」
「だが、それならどうするか、だな」
「一つ、作戦があります」
腕を組んで考えていていたレンジが声をあげた。
「オーサカに入る前に、アトミック雷電をとめればいい」
「奴の侵入経路が判る、ってのか?」
タチバナが尋ねると、レンジはテーブルの上に置かれていたメモパッドを手に取った。添えられていたペンを使い、シンプルな地図を描きながら説明を続ける。
メカヘッドとタチバナ、そしてアオとナイチンゲールは、額を寄せ合ってメモパッドを覗き込んだ。
「オーサカ・セントラルに入るルートは限られています。そして、アトミック雷電はナゴヤから脱出して、オーサカに向かっているはず。北東側からオーサカに侵入しようとするでしょう。……それなら経路は、かなり限定されます。俺たちはメインのルートに陣取って、他の道はドローンに監視してもらえばいい」
「なるほど。確かに、ナゴヤからオーサカに入ろうとして、わざわざ南や西から回り込もうとはせんだろう。何せ、次の場面までの時間は限られてるんだからな。よし、作戦はそれで行くとしよう!」
タチバナはポン、と手を打ってうなずいた。
「見えてきたな、アトミック雷電の目的も、こちらの作戦も!」
「ちょっと待ってよ、おやっさん」
先ほどまで黙り込んでいたマダラが声をあげる。
「あと3日、4日で、もう一つのギアを作る…… 映画の説明を聞いて写真を見て、アイデアはまとまってきたけど、ちょっと無理がある、と思う」
「ううむ……」
握りこぶしをつくって浮かれかけていたタチバナが唸る。レンジは渋るマダラを見て、「ふむ……」とため息をついた。
「いくらマダラでも、やっぱり無理か。アトミック雷電は、映画通りのスケジュールでオーサカに来ると思うけど……まあ、マダラが無理だって言うなら、仕方ない。町の外なら、コントロールが効かなくなって多少燃えても、何とかなるだろうし」
レンジはあっさりとあきらめ、一人で納得してうなずいている。マダラはギリ、と歯ぎしりした。
「なんだよう……できる! やってやるって、言ってるんだ!」
「兄さん……」
頭に血が上ったマダラが机を叩いて叫ぶのを、アオが心配そうに見ている。一方のレンジはにやりと小さく笑い、タチバナに目配せした。
「うまいことやったな、お前……」
「お見事ですなあ、レンジ君。ハハハ……」
「ただし!」
メカヘッドが楽しそうに笑っていると、マダラが再びテーブルを叩いた。
「何としてでも4日以内で仕上げる。けど、ほぼ確実にギリギリになるよ。だから運転もできないし、徹夜で資料探ししてたアオにも、運転は任せられない。レンジはすぐに闘いになるから、やっぱり運転は外す。バイクは自動運転でついてくるから問題ないとして……でも、バンのドライバーが足りないんだよ!」
「それなら、ちょうどいいのがいるじゃないか」
タチバナはじっと、メカヘッドを見る。マダラも、レンジもアオも、連られて一緒にメカヘッドを見つめた。
「……えっ、俺ですか?」
タチバナはにやりと笑って、メカヘッドの肩をがっしりと掴む。
「おう、一緒に楽しいドライブと行こうや。俺らに喜んで協力してくれるんだろう?」
「アハハハ……はあ」
メカヘッドは否定できず、乾いた笑い声とため息を漏らすのだった。
(続)
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