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中国の未成年ゲーム規制がeスポーツに与えた影響

8月30日の中国政府機関の発表により、中国では9月1日から未成年(18歳未満)のオンラインゲームのプレイ時間を金/土/日/祝の午後8時から9時、つまり週3時間までとする厳しい規制が課されました。
この規制を受けて中国のeスポーツシーンでも混乱が起きているので、いつも観戦しているPEL(中国版PUBGモバイル≒和平精英の中国リーグ)を中心に動きを調べてみました。

これまでも規制はあった

未成年のゲームプレイ時間は自由な状態から急に週3時間の制限が課されたわけではなく、2年前より平日は1.5時間/休日は3時間まで、また22時から朝8時までプレイ禁止となっていました。ただ厳密な取り締まりがあったわけではなく実際には年齢詐称やサブアカウント等の抜け道が存在しており、プロ選手も成年未成年を区別なくトレーニングを行える状態でした。
それが今回は時間規制に加えてプレイの際の実名認証の厳格化も求められており名実ともに未成年のゲームプレイを厳しく規制する方針が示されたことで大きな混乱が起きたとみられます。

eスポーツリーグの対応

この規制発表を受けてシーズン真っ最中だったモバイルリーグPELが真っ先に1週間のシーズン中断を発表。続いて秋シーズンを控えたリーグが18歳未満の選手を除いた編成で大会を開催する方針を打ち出しました。

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PEL(モバイル/和平精英リーグ)
8月中旬から開催されていたPELシーズン3は、登録選手約140名のうち実に約60名(40%超)の選手が18歳未満でした。リーグは9月2日からのWeek3を延期し、各クラブは未成年を除いたチームをわずか1週間で再度編成することに。選手の確保のために急遽選手のレンタル移籍/引退選手・自由契約選手との契約/コーチのプレイヤー登録 が認められました。

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KPL(モバイル/王者栄耀リーグ)
中国のモバイルタイトル最大のリーグKPLでも同じような状況で、25名程度が未成年だったようです。リーグは秋シーズンを延期し移籍市場を再度オープン。ただし秋シーズン中に誕生日を迎え成人する選手はリストアップした上で引き続きチーム保持が可能になっています。

LDL(PC/LOLの育成リーグ)
メインリーグLPLでは元々年齢規定が17歳だった・オフシーズンに入ったばかりなのもあって大きな混乱は無さそうですが、育成リーグであるLDLでは31名の選手が出場不可能になり、一部の試合が延期・中止となりました。緊急措置として各チーム最大2名のロースター変更が認められています。

オンシーズンオフシーズンの違いもありますが、年齢規定が緩く選手の年齢層が低かったモバイルゲームが特に混乱しているようです。

リーグの中心的存在だった未成年選手

観戦しているPELで具体的に大会に出られなくなった未成年選手と今年の成績を一部リストアップしてみます。

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LGD・Suki
2021 S1/S2 最優秀アタッカー(※S:シーズン)
STE・苏南
2021 S1 最優秀オーダー
JDE・86
2021 S1 最優秀オールラウンダー 
今シーズン移籍金6000万円でチーム移籍
AG・司马光
2021 S1 最優秀スナイパー
WBG・大泉

2021 S1 MVP/得点王
今シーズン移籍金1億円超でチーム移籍
AG・15zy 
2021 S1 最優秀新人選手
NOVA・Yi
2021 S2 最優秀新人選手

どの選手もリーグの中心的なプレイヤーだったことが伝わるかと思います。各チームメインロースター4名の内1~2名は未成年でしたし、その他にも開催中のシーズンではこれからリーグの柱になるであろう若い注目選手がたくさんデビューしたばかりでした。

特にモバイルタイトルにおいては16~18歳ぐらいの選手の活躍が目立ちます。(※この年齢層が活躍する理由は、データは見つからなかったですが反応速度の速さがよく言われます)出場できなくなった特定の選手だけではなく、一番才能を発揮できる時期に年齢制限で選手活動ができないのは今回の中国の規制に限らずもったいないと思うところです。

未成年選手が消えた後

人材不足
1週間の調整期間を経て未成年選手の代わりにPELに登録されたのは、チームのサポートプレイヤー/まだ育成中だった訓練生/1年以上前に引退した元選手/プロ経験の無いストリーマー等。再開後のリーグでは展開についていけていないような場面も見られるなど、出場できなくなった選手と急遽登録された選手を相対的に比較すると正直どうしても個々の能力は足りないと感じました。新たに登録された選手からは「ストリーマーとしてTPPモード/タブレット端末/エイムアシスト有とプロの環境とかけ離れた設定でプレイしていた」という話も出ていました。(※プロリーグではFPPモード/スマートフォン端末/エイムアシストオフ)
中国の競技シーンはレギュラー争いもし烈で選手の層が厚いというイメージだったので、こんなに明らかに準備ができていない選手が補充されるとは正直思ってもみませんでした。

育成システム
なぜ人材がこんなに不足したのかというと、将来の主力として各チームが育成していた選手もまたほとんどが未成年だったからです。
中国では各クラブが有望なプレイヤーを訓練生として採用し、ユースチームを編成して下部リーグに出場しながらチームの戦術を学んでいくのがプロ選手を育てる主流です。その訓練生、今までは15歳~20歳ぐらいの年齢条件で募集されていて、実際に採用されるコア年齢は正に16〜18歳でした(※PELの場合)。それが今回の規制で訓練生もごっそりいなくなってしまい、実際PELでは毎日T1~T5まで開かれていた公式スクリムも現在チーム不足で下部Tierが開催されていません。
ここから各チーム「18歳以上でプロ選手を目指している」プレイヤーを再度探し、チームを作って育成する必要が出てきています。低年齢層が活躍していたタイトルで、18歳以上でもプロを目指す人材が現時点でどれぐらいいるのかも不透明な部分です。(年齢規定が変わったことで目指す人は出てくるかもしれませんね)

18歳になったら・・・
日本人の目線から考えると、例えばPUBGモバイルの日本リーグPMJLの年齢規定は元々18歳以上。18歳未満が出れない大会は日本でも世界でもどのタイトルでもあるので、それと同じ環境になっただけではと思うかもしれません。
しかし問題は今回の規制が一般ユーザー全てに対するゲームプレイ規制であること。「18歳になったら大会に出れる」ではなく「18歳になったら本格的にプレイを始めることができる」のです。そこからプロ選手として活躍できるようになるまで更にどのぐらいの時間がかかるのでしょうか?

海外流出?
また韓国など海外クラブとの交流・移籍ルートがあるタイトルでは、国内でプレーできない未成年選手が活躍の場を求めて海外クラブに移籍するケースが出るかもしれません。

こういった状況下で中国の競技シーンの強みだった「選手層の厚さ」が一気に削られることで、今なのか将来的になのか、一時的なのものなのかはわかりませんが中国チームのレベルは下がるのではないかと思っています。

補足
考えられる変化として「レベルの低下」は上で述べたとおりですが、プレイ面では中心選手の年齢層が変わることで戦術や全体的なメタが変化するかもと思いました。例えば選手の年齢が上がる、つまり反応速度でねじ伏せられるプレイヤーが減ることで、より戦術や立ち回りを重視した動きになったりファイトの距離感が変わる可能性は無いでしょうか?
これは再開後のPELを見ていて感じたことで、個人的にはちょっと楽しみな部分です。

ファンや一般の反応

中国では先日開催された東京オリンピックで14歳の選手が金メダルを獲得したことが大きな話題となったばかりで、「オリンピックに14歳の選手が出場できるのになぜeスポーツは駄目なのか」、また「社会では未成年でも働けるのになぜプロ選手として働くのは駄目なのか」といったコメントが多く見られました。
未成年のゲーム時間を規制する政策自体は支持した上で、「eスポーツは一般的なゲームと分けて考えてもいいのでは」という意見がeスポーツファンだけでなく一般でも一定の支持を得ています。

eスポーツが消える?

ただ一般に報道されている通り中国政府が全面的にゲームに対する締め付けを強化しているのは間違いなく、最近の報道を見ていると未成年どころかゲームプレイヤー全体、またはeスポーツ自体に対しても直接的な規制が入るのではないかとさえ思えてきます。そこまで至らなくても、今後の政府の動きに見通しがつかないことから企業や投資家が今後eスポーツ分野への投資を控えるかもしれません。人材面だけでなく金銭面でも今回の規制は各クラブチームやリーグ全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。

大会に地方政府の後援が入ったり専用スタジアムを作ったり、国策ともいえる大きなスケールでeスポーツを産業として盛り上げようとする中国の動きをPELを通じて興味深く、また羨ましく見てきました。でも「ここまで育ててきた今まさに発展途上にある産業を壊すわけがない」という感覚はおそらく通じない、そんな怖さを今の中国に感じています。


※この他、勉強になった中国のゲーム規制に関しての記事
【規制情報】テンセント、miHoYo等中国ゲーム企業213社が業界健全化ガイドライン発表(9/27)
【PUBGニュース】中国でのPUBG eスポーツ大会は禁止へ(9/29)

※画像は各リーグ公式Weiboより引用
※slothはPEL観戦にハマっていますが一般的な中国事情については詳しくありません。認識違いがありましたら是非ご指摘いただけますと幸いです。

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