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多目的トイレのトラウマを克服した話。

※トイレの話です。お食事中にはお読みにならぬよう願います。


多目的トイレにはちょっとしたトラウマがあった。
杖をついて歩行していた頃、名古屋駅で乗り換えのために移動していて、トイレに立ち寄ろうとした。通路手前に多目的トイレ、奥に女子トイレがあり、奥に向かって歩いていると、がらりと多目的トイレの引き戸が開いた。
出てきたのは、ちょっと派手目のおばさまだった。

「あらアナタ、ここのトイレ使いなさいよ」

おばさまは私の杖を見てそう言った。私としては一般のトイレが問題なく使えるので女子トイレに行くつもりだったし、多目的トイレは広すぎるので落ち着かない。断ろうとした。でもおばさまは何故か妙に強引だった。もしかしたら、健常者として利用したことへの後ろめたさがほんのりあったのかも知れない。そんなの気にしなくていいのにね。
結局私は、流されるように中へ入った。おばさまは引き戸を閉めてくれた。
そうして、強烈な残り香のある多目的トイレに、私は取り残された。

それからは、できる限り多目的トイレを避けた。トラウマとなった。誰もが行き交う通路から引き戸一枚隔てただけのトイレ。中へ入るまで中に何があるか判らない恐怖。杖歩行の外見は確かに気を遣われることが多かったけれど、一般トイレに並ぶのは苦ではなかった。

でも、そうも言っていられない事態が起こる。
私自身が車椅子ユーザーになったからだ。

車椅子で一般トイレに入ることは物理的に難しい。スペース的な問題で。だから必然的に多目的トイレを利用するしかない。
もちろん、毎回あんな酷い残り香に遭遇する訳ではない。けれど、例えば長く待たされたあとに入ったときなど、避けられないこともある。それに、猛烈なタバコ臭が充満していることも稀にある。
息を止める。心を無にする。そんな“自分で出来る努力”を経たのち私がたどり着いたのは、においを消すアイテムの購入だった。

ドラッグストアで見つけた携帯型の消臭剤。私が購入したのは小さなケースに液体が入ったタイプで、キャップを開けてノズルを下に向け、ケースを指で押し数滴垂らして使うものだった。形はちょっとイチヂクのアレに似ている。

トイレに入室したときに使用すると効果てきめんで、それ以来、私は多目的トイレを利用する際に身構えなくなった。
また、私にとって大きな安心となったのは、私の使用後に消臭できるということ。
私がちょっとしたトラウマとなったように、もしかしたら私のあとにトイレを利用する人にも害を与える可能性があるからだ。
購入して本当に良かった。

いまの私にとって、外出先でトイレに行くとなると多目的トイレしか選択肢がない。かつてのように「一般トイレも利用できるから…」という余裕がない。
だから、できるだけ快適かつ心穏やかに多目的トイレを使いたいと思う。

…心穏やかになれない事態に遭遇することもあるのだけれど、それはまた別の話。



多目的トイレについては、歩いていた頃と車椅子ユーザーになってからで見方が丸っと変わった。歩いていた頃はだだっ広い空間に落ち着かない気持ちになったけれど、車椅子で利用するとそのスペースがなければ動き回れないと体感した。立場の違いで見える世界が変わるというのはこういうことなのだろう。
人は誰でも、その立場にならないと本当には解らないことがある。

私には普通に歩いていた頃に認識していた世界があり、杖歩行の頃に感じた世界があり、車椅子ユーザーとなったいま感じる世界がある。
それぞれの立場に実際になる人は多くはないだろう。だから私が自分の体験を書くことで、少しでもそれぞれの世界が伝われば嬉しい。

多目的トイレの一例。おむつ替えシートなども備えられ、かなり広いスペースがある

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