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【ネタバレあり】もう観た人のための『カメラを止めるな!』感想と、本作が面白かった人におすすめ紹介

 まとめると時間がかかるので、箇条書きで思ったことつらつら書いていきます。

・「ネタバレ厳禁!」「詳しいことは言えません、観に行ってください!」は、若干煽りというか、誇張だよね。
 だって、ネタバレ部分=ゾンビ映画の撮影中に本物のゾンビが出てきたのではなく、そういう設定でドラマを撮っている=劇中劇ではなく劇中劇中劇だった、というのって、割と序盤で匂わせてるじゃないですか。
 ややこしいので、上記を「ゾンビ映画<撮影時ハプニング<生放送ドラマ」と名付けるとして。
 まず、監督が手持ちしてるのが、ゾンビ映画を撮っているカメラ。で、本物のゾンビが出てきたとパニックになる場面で監督が「カメラは止めない!」という一言を思いっきりカメラ目線で言うじゃないですか。このカメラが撮影時ハプニングの現場にいるカメラなら、それを持ってるのはゾンビ映画の撮影スタッフなんだから、声とか入るはず。なのに入らない。この状況で一言も喋らない。
 次に、外に出てから。ゾンビが人間を襲ってるのに、その光景を撮りながら血しぶきが飛んだカメラのレンズを拭う余裕がある。そして、車のキーの入っているらしきポーチを手に入れたヒロインが、とっとと車に戻らず、ロケ地紹介とばかりに建物の周りを走り回る。
 そして何より、一部始終を撮っているこのカメラを持っているカメラマンのことをゾンビが一切襲わない。
 つまり、ハプニングの階層の外にもう一つ階層(生放送ドラマ)があることが、結構すぐ分かる。それでも充分面白かったので、そこまで「ネタバレ厳禁!」で押さなくてもいいんじゃないかなーと思いました。
 ちなみにこの「階層が違うカメラ」、その割には一度、外でカメラが地面に転がって、しばらくまともに登場人物を映さない時間があったので「ハプニングに巻き込まれない階層にいるんじゃないのか? どうした?」と思って不思議だったのですが、後で理由が分かって笑った。

・上記の通り「ネタバレ厳禁!」で押されまくっていたので、「生放送ドラマ」階層があることに気づいた段階で「ネタバレしてびっくり!だけが面白ポイントなんだとしたら期待外れだったかもな」と思っていたんです。あと、屋外でゾンビに追いかけられている時に映像が激しく揺れて、乗り物酔い体質の私はちょっと気持ち悪くなってしまい、そのテンションダウンも相まって「『低予算映画なのに面白い、すごい!』でだいぶひいき目評価なのかもな」とか。
 でも面白かったです。これジャンルとしては「ハートフルコメディ」なのね。無茶な現場でも一所懸命成功させようとする監督の必死ぶりと可哀想ぶり(笑)、夫を気遣いつつスイッチ入っちゃう妻の豹変ぶり、父の真面目さと母の熱血を受け継いだ娘のがんばりぶり。ラストで、父と娘の肩車でクレーン撮影の高さを実現しようとしているときの母のあの見守り顔とか……あんたさっきまでとんでもない感じだったじゃないか!
 カメラの揺れとかところどころの演技の微妙さとか「低予算だから仕方ないのかな」と思っていたところが後で全部納得できたので、そのあたり術中にはまってしまいました。

・しつこいようですが「ネタバレ厳禁!」について。
 これ私あんまり好きじゃないんだよね。なぜかって、これで押しまくる作品って「どんでん返し」が命!すぎて、そこ以外はあんまり面白くないってことがたまにあるから。
 「どんでん返し押し」だった某作品、映画化で話題になった頃に原作小説を読んだのですが、オチとなる秘密について普通に読んでいて気づいてしまいまして(ある部分の表記の仕方が小説お作法的にそういうことだと思っていたので、小説読む習慣のある人だと当然のこととして気づくんじゃないだろうか)、その作品はそのどんでん返しだけがポイントだったんですね。だから全然面白くないの。
 あと、ものすごいどんでん返しって、全く予想できないような意外すぎるほど意外な真実、つまり「通常あり得ない、かなり無理のある結末」にもなる危険性がある。これも某刑事ドラマで、最終回で明らかになった犯人が主人公の刑事の相棒である後輩刑事で、そりゃ確かに意外でびっくりだけど、動機とか途中の行動とか、ちょっとなくないかあ?と。「どんでん返しですよ」という煽りがすでに若干のネタバレになる(前も書きましたが)のも好きじゃないですし。
 あと、本作については「ゾンビ物は嫌いだけどハートフルコメディは好き」な人の鑑賞機会が生まれづらいのももったいない。「ゾンビ物は嫌いだけどハートフルコメディは好き」な知人がいたらおすすめしますが、ゾンビもの嫌いな人には嫌がられるかしら……。

・しかしあの組体操シーンはよかったですね。何がよかったって、アル中のおっさんも文句ばっかの若手俳優も、最後にはみんな駆けつける感じが。つい今しがた首ぶった切られた若手俳優が即、組体操に加わるところには吹き出した。
 若手俳優は「僕の作品なんですから」、監督も「俺の作品だよ!」って言ってましたけど、みんながみんな、自分の作品であり、同時にみんなの作品だと思っているんだなあというのが、あのシーンで分かった。

・この作品が芸能人に評判がいいのも納得できた。そりゃあ同業界にいる人は共感できるよね。斉藤工なんて撮る側も撮られる側もやってるから余計にぐっと来るでしょう。
 正直、万人受けではないというか、大好きな人は大好きだけど、ここまで大ヒットする系の映画ではないように思いました(クオリティの話じゃないです、ジャンルの話)。SNS時代の話題の広がり方にうまく乗ったのかな。
 私は割と好きでした。映画の現場が大好きなスタッフが映画愛を叫ぶ!作品だった。

・(迷ったけど8/28追記)上に書いたとおり、面白かったです。
 ただ、過大評価はされてる。
 上で“「『低予算映画なのに面白い、すごい!』でだいぶひいき目評価なのかもな」とか。/でも面白かったです。”って書きました。確かに「面白くないのに、低予算ということで下駄履かされて面白い扱いになってる」わけではないと思います。でも「面白い作品だけど、下駄履かされて『超面白い』扱いになってる」ふしはあるんじゃないかな。75点のところを95点評価されてるというか。
 自分で観たときは「うんまあ面白いな。割と好き」と思ったのですが、あまりにも観た人観た人褒めるので、そこまでではない……という気がしています。意外性があって笑えてほろっとできる系の作品でもっと面白いのあるよ。『エイプリルフールズ』(石川淳一監督、古沢良太脚本。規模全然違うけど)とかさ。滝藤賢一さんのシーンでうるっと来た。
 低予算で済んだのは、演劇学校の生徒を役者に使ったためにギャラが発生しないからという面もあるそうですね。むしろ役者側が出演料を払って出演しているという話も聞きます。そこらへんシステムがよく分からないので深掘りしませんが、だとしたら、この作品は出演者にとって「予想よりはるかに広範囲に放映されたCM」になったと思うので、これを期に別作品への出演依頼が来たら、効果のあった広告だったということかな。

・ところで、この作品が面白かった人は、黒柳徹子さんのエッセイ『トットチャンネル』をお読みになるといいかもしれません。満島ひかり主演でドラマにもなってましたが、黒柳徹子さんがNHK専属女優だった頃、テレビ草創期の面白エピソードが満載です。
 何せ草創期だから予算もないし、機材も今みたいに発達してないから、そのへん全部、人力でカバーするのよ。カメラ一つとっても、自動でズームなんてできないから、カメラに長ーいケーブルがついてて、それが床にのたくってる。ズームの時はカメラが走って役者に近寄っていってズームするのですが、そうやってカメラが移動するたびにケーブルが床を這い回って、それに足を取られて転倒する人続出。この時代こそマジの生放送で、カメラ止めての衣装替えができないから、複数シーンの衣装を全部重ね着して、セットの移動中に走りながら一枚ずつ脱いでいって着替え(たまにポロリ)。死体役の俳優が出番終了と勘違いして帰っちゃったから棺桶映したらいきなり空っぽで、焦ってカメラの前に「終」の紙を貼っつけて番組強制終了。組体操でクレーン代わりなんて序の口だったんじゃないだろうか。
 これ本当におすすめなので、ぜひ読んでみてください。

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