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娘を呼ぶ母と母を叱る娘。宿命の2025年はもうすぐそこにー。

ショッピングモールのトイレでゆっくり用を足していると、

「あっちゃん! あっちゃん!」

と、ドアの外で年配の女性が誰かを呼んでいました。

何度も行き来しながら
「あっちゃん! あっちゃん!」

切迫した様子です。
おばあちゃんが迷子のお孫さんを探しているのかな?
と思っていたら、
呼応して聞こえてきたのは中年の女性の声でした。

「もおー! 何してんの!
終わったの? えぇ? 何してんの!」

周りに遠慮しつつの抑え気味のトーンではありますが、
しっかり叱責しています。

おばあちゃんの声は先程と打って変わって
ほとんど聞こえなくなりました。

「ここでしょ? もう終わったの? まだなの?
ここでするんでしょ? もう何してんの?
ドア閉めて! これがドア!
これドアでしょ? ドア閉めて!」

平行線のやりとりがしばらく続いて
ドアが閉まったのか一旦静かになり、
またすぐ娘らしき女性の声がトイレに響きました。

「何してんの! こっちでしょ?
もういいから! ええ? 手? 何回洗うの!」

おばあちゃんの声はほとんど聞こえなかったし、
ドアの外なので実際どんな行動をされていたかは分かりませんが、
恐らくおばあちゃんは認知症なんでしょう。


今日はちょっと失礼して偉そうなこと書きます。

偶然遭遇した、
日本で将来頻発するであろう出来事。

これでも私、
一応専門家でもあるので、
この出来事を考察してみたいと思います。

認知症を患いある程度進行すると、家では習慣づいていて1人でトイレに行けても、環境が変われば分からなくなります。

ドアも、鍵の開閉の仕方も、トイレットペーパーも、全て“いつも”と見た目が変われば認識できない。

皆さんも、オシャレ過ぎたり洗練されすぎていて使い方が分からないトイレや建物や、その他いろんな物に出くわして、戸惑ったことはあるでしょう。

認知力があればその場で発想を切り替えるなどして、そのうち使い方にたどり着けますが、認知症の方はそれができません。
便器すら、習慣(いつもの環境)と違うものであれば「うしろを向いて座る」ことができません。

さらに、「あっちゃん!」と呼んでいるのも、単に呼び慣れた名前を習慣的に言っているだけで、それが“誰か”を認識しているかどうかは別です。

実際に今回のおばあちゃんも、「あっちゃん!」と呼んで来てくれた人と対面後、極端に発語が減っています。

もしかしたら、おばあちゃんにとっての「あっちゃん」は
もっと若いのかもしれない。
おばあちゃんの「あっちゃん」は、
もっと優しくて、こんなひどいことを言うような人ではないのかもしれない。

だからおばあちゃんからすれば、「突然現れて私に大きな声を出すこの人は誰?」と、戸惑っていた可能性があります。

想像してみて下さい。
どうすればいいか分からなくてオロオロしているところに、突然誰か(見たことはある、でも誰かは思い出せない)分からない人が現れて「何してんの!」って怒鳴ってくるんです。

恐怖で声が出なくなったり、出たとしても小さな声になってしまうと思いませんか?

これが少々気が荒かったり、プライドの高い男性の認知症の方なら、反対に「何を!?」って抵抗される可能性も高いでしょう。
(女性でもいらっしゃいますが、圧倒的に男性が多いです)

団塊の世代が75歳を迎える2025年問題。

介護保険の財政難や担い手不足も問題ですが、
老いも若いも職業も関係なく、国民全ての人に関係してくると思われるのが認知症患者の増加ではないかと思います。

全国民の9人に1人が認知症となれば、
生活しているどこに行っても認知症の人がいることになるので、
いつでもどこでも誰でもケアに入らざるを得なくなる場面が出てくるかもしれません。

もう4年後です。
今日のような家族のやりとりを、街中のあちこちで見かけることになるかもしれないんです。
これを読んで下さっている皆さん自身が、“あっちゃん”になるかもしれません。

家族介護は過酷です。
だから覚悟が必要です。
知識や準備が必要です。
一緒に支えてくれる味方が必要です。

さらに偉そうなこと書きます。

「じゃあどうすればいいんだよ!」
って、すぐ答え欲しがられます。
もうそれ言わないでー。
認知症ケアに会心の一撃的答えはないんだからー。

早い話が、「なんとかしよう」としなくていいです。
「思い出させよう」「覚えさせよう」「ちゃんとさせよう」
全部無駄です。

答えはその人をよく見て、知って、その世界を一緒に過ごせば分かってきます。だって認知症の方は人として当然の行動しか取っておられませんから。

恥ずかしいから「隠す」
腹が立つから「怒る」
分からないから「戸惑う」「何度も聞く」「ごまかす」
分かるきっかけのヒントが欲しくて「外に出る」

「何してるの!」ではなく、
「なぜそうするのかな?」と都度考えて下さい。

「理解できない」なら、どこかで勉強して下さい。知れば分かります。
時間はかかるし、そりゃ大変です。
だから覚悟が必要なんです。


ご参考までに載せときます。
勉強するのは「今でしょ!」って方へ。

◇パーソン・センタード・ケア ※認知症ケアの基本中の基本!

◇ユマニチュード ※高度な技術を要する認知症ケア


みんなで良い社会にしたいものです。


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