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#小説
降雨の中で私を見つめて
(桜雨の中で私を見つけて)
喫茶店には、桜色の燐光が散っていた。
それは天井を通り過ぎる雨粒のような振る舞い、何処へともなく消えて行く。
「ピアスがどこにも見つからない」
ぽつりと彼女は呟く。それは彼女本人とは無関係の独り言だ。
彼女は俯いているが、視界内には常に過ぎ去る燐光がある。光る雨粒は狂気の源泉で、それを見詰めていると、彼女は自分が自分であることを忘れてしまう。
「あいつは音楽を舐めてる
幸福の瞬間・天使の口付け・真空に佇む一分子
来那奈月は、悩める幸福な乙女だった。目先の懸案は、年上の彼女である白鷺霊を喜ばせるプレゼントに何を選ぼうという、傍から見れば些細なことだった。その些細さ故に、信頼できる友人らをあたっても、納得の行く解には至らない。馴染みの店は見て回ったし、たまにはあまり行かない所に目を向けようかと考えていた。
そんな折に、数駅離れた大きな書店に立ち寄る機会があった。そこで見つけたのは、銀の栞だった。適度に重量感