僕らのミュージック
4月26日、それでも世界が続くならのワンマンに行ってきた。場所は両国サンライズ。
ポリープを患っているボーカル篠塚将行(以下しのくん)の声帯手術前、最後のライブだった。
メンバーも言っていたけれど、もし手術後、しのくんの声が出なくなったら?そう考えると不安で不安で悲しくて苦しくて、目の前のすべてを少しでも覚えておかなくちゃと、わたしは2時間半、波打つ感情をねじ伏せながら立っていた。
そんなせつない思いも相まって、序盤から普段よりもめそめそしていたのだが、まず「参加賞」から「狐と葡萄」、「水色の反撃」で顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。前回のライブでも泣いた曲。わたしの特に大好きな曲。
わたしはいつもだいたい下手を選んでいて、今回は2列目(といってももう最前みたいなものだ)にいたのだけど、もうぼろんぼろんに泣くわたしをしのくんが、ピックを持った手で指さしてくれたのだった。
この部分を歌っているとき、長い前髪から覗く目が、わたしの目を見ていた。気のせいでも妄想でもなく。ちょっと笑っていたと思う。
思わず嗚咽を漏らしそうになるほど、マスクの中で激しく泣いた。メイクが崩れることを気にする余裕などなかった。歌い終わりのときにもういちど見てくれて、もうどうしようもなくなった。
しのくんは、観客に対して真面目に話をするとき、呼びかけるとき、「君に、君に、君に」と、ひとりひとりを見る。そこにいる「ひとり」を見る。
その、たくさんの「ひとり」の中に、わたしがちゃんといた。
あの目が、声が、やさしさが、どれだけわたしの心を救うか。彼は知る由もない。
今度こそ涙腺が決壊したのは、アンコールだった。
アンコールを求める手拍子に誘われ、「マジかよ」「俺ポリープなんだけど」「死んでも歌えってことね」と笑ったしのくんが、「(この曲は)発表してからほとんどやらなかったんだけど、今日リハーサルでやったんだよね。今日ならできる気がする」とつぶやいたので、まさかと思った。
リリース当初から大好きだった、そしてこれまでライブでいちどしか聴いたことのなかった、「僕らのミュージック」が始まった。
思わず身体がびくっと動いた。その瞬間、たぶん目はまんまるになっていたし、もうマスクの上から手で顔を覆って、3秒と経たないうちから泣き出してしまった。
ちゃんと全部見たいのに、覚えておきたいのに、涙で全然見えなくて悔しかった。
君が生きている今日が。
しのくんが「君」に贈り続ける言葉を、わたしは彼自身に贈る。
君を泣き止ませるために。
君の明日がマシになるように。
そんな願いのもと鳴り続ける轟音は、なんてやさしいのだろう。
決して少なくない人間に影響を与えてきた篠塚将行は、「音楽の天才」ではない。
ただ、あまりにも多く傷ついて、多くを憎んで、誰よりもやさしくなった人だ。どれほどの理不尽に直面しても、誰かの隣で歌うことをやめない人だ。
この世界にあなたがいてくれて、ほんとうによかった。
これからもいてほしい。
一歩も動いていない、手すら伸ばしていないライブで酸欠になる、必死の思いで狭い階段をのぼる、ふらふらになりながら駅に向かう、電車の中で、ベッドの中で、何度も何度も反芻する。
なんで聴いてるこっちまでぼろぼろなんだよって笑う、そこまでがライブで、「ああ、生きてる」と思う。
ステージと客席。立つ場所がちがうだけで、わたしたちにはそれぞれ引きずってきた過去がある。どうしようもないくらいに生きてきた。そしてライブが終わったそのあとも、「生きる」は続く。
やりきれないけれど、苦しいけれど、歌をあきらめないで。歌え。生きて、篠塚将行。
世界を続けようよ。
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