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2020年7月の記事一覧

カメのミシミシ、ビュッフェに行く

カメのミシミシ、ビュッフェに行く

赤ピッピから来たカメのミシミシは、故郷に戻るための船旅の最中です。
道連れはニンゲンのジョン。
ジョンはミシミシをスイートルームの同室に誘ってくれた、いいやつなんです。

出港から数日。
海は荒れることもなく、空は青く、雲は出てきたり引っ込んだりして、平和です。
ご飯は毎日、ジョンがどこかから持ってきます。
甘くてみずみずしいフルーツや、皮がパリッとしたウインナー。
恐ろしく完璧に半熟のゆで卵。

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赤ピッピガメミシミシの船出

赤ピッピガメミシミシの船出

カメの名前は、ミシミシ。
遠く赤ピッピからやってきた。

故郷に近い温度と湿度を求めてさまよっていたら、ある日遂にニンゲンに捕まった。
大きなバケツに入れられて。
どうしよう。
このままじゃ赤ピッピに帰れない。
前肢をばたばた動かしても、ミシミシの小さな肢ではバケツの縁に届かない。

「君、お名前は」
「……ミシミシ」
ミシミシを捕まえたニンゲンが、指先で甲羅に触れてきます。
「赤ピッピに帰るのか

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純喫茶「水曜日の文学猫」のお食事

純喫茶「水曜日の文学猫」のお食事

本屋の裏手の喫茶店「水曜日の文学猫 」には、ご自慢の食事メニューがあるんです。
一刻も早く本を読みたい、でもお腹もぺこぺこ、そんなせっかちな腹ぺこさんのためのメニューです。

ひとつめは、サンドイッチ。
最近流行りの具がもりもりに挟まっているのじゃなくて、薄いパンにうっすら辛子バターが塗ってあって、間に紙みたいなハムやチーズが挟まっているぺらぺらのサンドイッチ。
でも、本を読みながら片手で食べるな

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純喫茶 水曜日の文学猫

純喫茶 水曜日の文学猫

本屋の路地を曲がったところに、扉の小さな喫茶店があります。
水色の看板には

「水曜日の文学猫」

とあって、店内からはコーヒーの良いにおいが漂ってきます。
からんからん、とベルの音を鳴らして店内に入ると、先客は身じろぎしない老紳士がひとりだけ。
「お二階もどうぞ」と声をかけられました。

二階には先客は誰もいなかったので、窓際の四人がけの席に座ることにします。
メニューを開くと、最初の頁は見開き

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