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純喫茶 水曜日の文学猫

本屋の路地を曲がったところに、扉の小さな喫茶店があります。
水色の看板には

「水曜日の文学猫」

とあって、店内からはコーヒーの良いにおいが漂ってきます。
からんからん、とベルの音を鳴らして店内に入ると、先客は身じろぎしない老紳士がひとりだけ。
「お二階もどうぞ」と声をかけられました。

二階には先客は誰もいなかったので、窓際の四人がけの席に座ることにします。
メニューを開くと、最初の頁は見開きでずらっとコーヒーのことばかり。
次の頁には、紅茶とココアやジュースなど。
さらにめくると、トースト、パンケーキ、スパゲッティ。
ケーキセットもいいな。

そうこう悩んでいるうちに、水を持った店員さんが二階にやってきます。
「お決まりで?」
「うーん、ブレンドと、あと、ピザトースト。お願いします」
「はい」
とんとんとん、と店員さんが階段を降りていく音を聞いて、がさごそと本屋の紙袋を開けます。
楽しみにしていた新刊、待ちきれないので今読んでしまおうというわけです。
モーニングとランチの間の時間、店内は静寂で読書向きの空間。

本を開いて、前書きを熟読したりカバー裏の著者近影を眺めたりしているうちに注文したものがやってきました。
「ごゆっくり」
と去っていく店員さん。
湯気を立てるコーヒーとピザトースト。
隣にはタバスコ。
いいにおい。
カバーをかけ直して、そっと本を閉じます。

ブレンドは深煎りで苦め。
ピザトーストは、パンの耳はがりっと茶色くなるまで焦げ目が付いていて、チーズがこぼれるくらいたっぷり。
のっているのは、ピーマンと玉ねぎスライスとハム。
タバスコをかけても負けないくらい、ピザソースもふんだんに塗られています。

このピザトースト、味付けは濃いめですがパン自体も厚切りなので口の中でちょうどよい塩加減に落ち着きます。
しっかりとしたブレンドに合うように、考えられているんでしょう。
ひと切れ食べ終わって窓の外を見ると、庇の上に猫が一匹寝転んでいます。

平日朝一番の本屋の帰りに喫茶店でうまいコーヒーとピザトーストなんて、しあわせなんじゃなかろうか。
でも、猫は本もコーヒーもなくても、もっともっと幸せそうです。

猫にはそういうの、必要ないのにゃ。
庇の上でごろんと寝返りました。

おもに日々の角ハイボール(濃い目)代の足しになります