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戯曲『ブラッディ・クリスマス』



登場人物

男1

男2
男3
赤いサンタクロース(声)

時 クリスマス・イブの日暮れ前
場所 とある公園

×       ×       ×

  まず、暗転中に爆発音が響く。
  人々の悲鳴、救急車やパトカーの音。
  遠のいて、明転。
  舞台中央に、ベンチが一つ。
  どこかで、時計がカチカチ鳴っている。

サンタクロースの声 
 ホーホッホー! わしらは赤いサンタクロース革命戦線じゃ。都内のいろんな公園のベンチに爆弾しかけたぞい! 幸せそうな男女を吹き飛ばし、ブラッディクリスマスをプレゼントじゃ! 警察諸君、何組のカップルが、吹っ飛ぶかのう!

  上手より、獅子舞の二人組、登場。むろん、獅
 子舞を舞って出てくる。
  獅子舞の前と後ろが、こんがらがってころぶ。

男2 (風呂敷から顔を出し)いたたた。いつも、 
 今の所で間違えるね、君は…。
男3 (面を脱ぎ)今のは、君だろう。
男2 君だよ。君が、飛ぶタイミングが、一瞬、遅
 いんだよ。
男3 君の間が、少し、先走ってるんだよ。僕が、
 ぴょんと飛んでから、君が、ぴょんと飛ばなきゃ
 いけないのに、君は、ほぼ、同時に飛んでるん
 だ。ぴょん、ぴょん、じゃなくて、ぴょぴょん、
 くらいでさ。
男2 いや、僕は、ぴょん、ぴょん、でやってる
 よ。
男3 いや、ぴょぴょんだね。あれじゃ、君、獅子
 が、画びょうでも踏んだみたいだよ。
男2 そうじゃない、君がね…、いや、ちょっと、
 待ってくれ。ひとつ、いいかい?
男3 何だい?
男2 獅子舞が、上手くなっても仕方がないんだ、
 僕らは。
男3 …そりゃ、そうさ。
男2 僕たちの仕事は、爆弾処理なんだから。
男3 分かってるよ、それは。
男2 何も、こんなに熱中することはないんだ。
男3 熱中ってことは、ないけども…。
男2 そもそも、獅子舞って所に、無理があった
 よ。
男3 そんなことはないだろう? 我ながら、いい
 アイデアだと思うけど…。
男2 最初は、僕もそう思ったよ。署長からね、平
 和な市民のクリスマスイブに、水をさしてはいけ
 ない。できるだけ目立たず、誰にも気づかれない
 で、こっそり処理するようにって通達があって
 ね…。
男3 そう。だったら、獅子舞の練習しているフリ
 をして、あちこちの公園を探して回ればいいじゃ
 ないかって、ピンと来てね。
男2 年末だから、公園で、獅子舞の練習してる人
 達、たくさんいるからって。
男3 そうそう。論理的にひらめいたんだ。
男2 でも、いたかい? 公園で、獅子舞の練習し
 てるヤツなんて。
男3 いなかったね。僕達だけなんだ。
男2 だろう。逆に目立って仕方がないよ。
男3 でも、だからこそ、本格的にやらないと。お
 正月も近いんだし、そういう人達もいるかなっ
 て、市民に思わせるには…。
男2 しかしね、君は、熱中しすぎて、本業を疎か
 にしてやしないかい?
男3 してやしないよ。こうしてるうちにも、ちゃ
 んと、あのベンチを気にしてるんだ。
男2 なら、いいけども。じゃ、さっさと、あそ
 こ、調べてみようよ。
男3 もちろん、いわれなくても…。

  男3、獅子舞の面を被り、男2、風呂敷を被っ
 て、獅子舞になり、歩き出す。

男2 (顔を出し)ちょっと、いいかい?
男3 何だい?
男2 何も、獅子舞で行くことはないんだ。普通に
 歩いていけば。
男3 …癖になってるんだよ。

  男2、男3、ベンチへ行く。
  ベンチの下や周囲を、見て回る。

男2 (ベンチの後ろで)おい。これ、そうじゃな
 いかな。
男3 (も、後ろに回り)うん。そうだね。僕らの
 経験上、こういう風に、目覚まし時計に、コード
 がつながってて、それが、二本の筒状の物につな
 がってる場合は、まず、大抵、時限爆弾だね。 
男2 よし、誰も、こないうちに外してしまおう。
男3 (上手を見て)と、すると、大抵、人が来る
 んだな。

  男2、3、獅子舞を被り、下手の方へ。
  上手より、男1と女登場。

女 あら、獅子舞?
男1 クリスマスに獅子舞かい?
女 練習してるのよ、お正月に向けて。

  獅子舞の動き、活発になる。

女 ここで、休んでかない? ちょっと、歩き疲れ
 ちゃった、あたし。

  獅子舞、振り返る。

男1 この先に、噴水のある公園あるよ。

  獅子舞、うんうん、とうなづく。

女 めったに見られないじゃない。獅子舞の練習な
 んて。面白いから、見てましょうよ。(と、
 座る)

  獅子舞の動き止まり、じっと、二人を見る。

男1 邪魔しちゃ悪いよ。(獅子舞、うなづく)
女 (獅子舞に)いいですよね、別に? ここ、み
 んなの公園ですもの。

  獅子舞、思わず、うなづいてしまう。

女 ホラ、いいって。君も、座んなよ。
男1 (しぶしぶ)あっちの方が、雰囲気あると思うけどな…。
女 ここも、まあまあじゃない?
男1 そうかな…。
女 ね、アメちょうだいよ。
男1 …(ポケットから、小さな袋に包まれたアメ玉を一個取り出す)はい。

  女、アメを口に入れ、男1に笑いかける。

男1 さよちゃん、このアメ、好きだね。そんなにおいしい?
女 (ほっぺた膨らませて)まあまあ。
男1 でた。さよちゃんの、まあまあ。

  男1も、アメを口に入れ、笑いかける。
  二人、他愛なく、顔を見合って笑う。
  男2と3、二人の会話中に、舞台後方へ移動
 し、被り物を脱いでいる。

男2 何で、うなづいちゃったんだい、あそこで。
男3 だって、みんなの公園って言われたら、全くその通りだからね。言えないよ。獅子舞の練習してるから、あっちへ行ってくれなんて。何様だって話になるよ?
男2 そりゃ、そうだけども…。でも、どうするんだい? あそこに座られちゃったら、僕達、爆弾を取り外せないよ。

  男1、後ろの二人、振り返る。(以下の会話、
 アメ舐めつつ)

男1 やめちゃったのかな、練習。僕達、来たから。
女 (も、振り返り)打ち合わせしてるのよ。間と
か、段取りとか。ねえ、それより、さっきから、何
か、カチカチ言ってない?
男1 あ、やっと気づいた? 実はね、これなんだ。(と、腕時計見せる)
女 あら、気づかなかった。買ったの?
男1 うん。前から欲しかったんだ。デジタルなんだけど、アナログ時計の音がするんだ。音量も調節できるんだよ。中々気づいてくれないから、ちょっとづつ大きくしてみたんだ。どう。すごくない?
女 …まあまあ、かな。
男1 …まあまあ、かい? いいと、思うけどな…。(と、時計、眺める)

  男2と3、ひそひそと、

男3 いっそ、正直に言って、どいてもらおうか?
男2 署長命令を無視したら、免職だよ。これでも公務員だからね、僕らは。
男3 じゃあ、どうするんだい?
男2 どうするって言ってもね…、とにかく、もうちょっと、どんな仕掛けか、見てみたいな。後、時間はどのくらいだい?
男3 (腕時計を見て)さいわい、時間はあるよ。予告まで、30分だ。
男2 よし、もういっぺん、見てみよう。

  男2と3、被り物を被り、舞い始める。

男1 面白かったねえ、今日の映画…。
女 そうね。まあまあ、だったね。
男1 あそこのイタリアン、結構いけたね…。
女 うん。まあまあ、かな。
男1 (ちょっと考え)こないだ貸したCD、どうだった?
女 うーん、まあまあ、ね。
男1 …どれもこれも、まあまあかい。
女 だって、まあまあだもん。

  女、アメ玉を口の中で右左させて遊ぶ。
  男1、黙り込む。
  獅子舞、ベンチの後ろに近づいてくる。

男1 一つ、聞いてもいい?
女 うん。
男1 サヨちゃんさ…

  女、獅子舞を見て、

女 あははは。こっち、来たわ。頭、噛んでくださ
 い。

  獅子舞、女の頭を噛む。

男1 何やってんだい?
女 あら、知らない? 厄払いよ。君も噛んでもらいなさいよ。

  男1、頭出すと、獅子舞、噛んで、上手後方へ
 下がっていく。
  男1と女、クスっと笑いあう。
  男2と3、被り物脱いで、

男2 見たかい? コード。
男3 うん。青と白と赤。フランスの国旗みたいだった。
男2 アメリカも同じなんだぜ。
男3 本当かい?
男2 思い出してごらんよ。

  男1、後ろを見て、

男1 またかな。多いね、打ち合わせ。
女 職人肌なのよ、あの二人。

  男3、アゴに手を当て、

男3 星は黄色じゃなかったな。
男2 白だよ。白。…そんな話より、君、例の物出して。
男3 例の物?
男2 忘れたのかい?
男3 何を?
男2 ペンチだよ。僕達の商売道具。あれで、コードを順番に切ってくんじゃないか。道具箱一式渡したよね、君に。

  男1、女にそっと、

男1 何か、揉めてるよ。
女 方向性を突き合わせてるのよ。

  男3、しょんぼりと、

男3 …署に置いてきたよ。
男2 君、獅子舞に気を取られすぎだよ。
男3 戻って取ってくる。
男2 そこまで時間はないよ。あっちにホームセンターがあったろ。買ってきてくれよ。
男3 領収書は?
男2 落ちないよ。忘れ物なんて。さ、早く。

  男3、上手へ駆け出す。

男1 ケンカ別れかな。
女 さあ…。

 男2、男1と女の方へ、照れ笑いなど浮かべ、

男2 すいませんね。せっかくのクリスマスデート、邪魔しちゃってねえ…。
女 いいえ。とんでもない。こちらこそ、大事なお稽古中お邪魔しちゃって。
男2 いえいえ、そんな…。
男1 もう一人の方、どうされたんですか?
男2 え、いや、まあ、その野暮用で。
女 きっと、戻ってきますよ。お二人の息、ぴったりですもの。
男2 そ、そうですかねえ。まあ、戻ってこないと、困りますから…。ハハ。あ、そうだ。さっきね、あっちの楽器店の前でね、
 ミニコンサートみたいのやってましたよ。
男1 へえ。さよちゃん、行ってみようか?
女 いいわね。行ってみる?

  男1と女、立ち上がり、

男2 あ、行きますか? それがいいですよ。それ
が。とっても、いい演奏でしたよ。
女 ありがとう。頑張って下さいね。獅子舞。
男1 じゃ。

  男1と女、上手に去る。
  男2、男1と女見送り、

男2 今だ、今のうち、なんだけど…まだかな、あいつは…。

   男3、ペンチを持って上手より、戻ってく
 る。

男3 いやあ、全速力で走ったからね…。
男2 そりゃ、走ってくれなきゃ困るよ。
男3 お店の人に、一体、そんなに急にペンチが必要な状況って、何ですかって…。
男2 聞かれたのかい?
男3 聞かれそうな気がしたよ…。
男2 なんだい。いいから、早くくれよ。
男3 (渡して)いなくなったのかい、あの二人。
男2 ああ。おっぱらったんだ。

  男2と3、ベンチの後ろにしゃがむが、一瞬の 
 後、二人して立ち上がり、

男3 まず、どれを切ればいいんだろうね…。
男2 君なら、何色にする?
男3 そうだなあ。赤かなあ。
男2 赤は、縁起が悪いよ。赤は、こないだ吉竹さんが切って、失敗したんだ。
男3 ああ、木端微塵になって。じゃ、青は?
男2 青は、確か、松尾さんかな。両手失くしたろ?
男3 じゃあ、白かい?
男2 白は、岩村さんの頭が吹っ飛んだ。
男3 じゃあ、どれも、ダメじゃないか。
男2 まあ、見たってわからないからね。イチかバチかのギャンブルだ、この仕事は。

  男2、しゃがむ。

男3 (緊張し)それでいいのかい…?
男2 (立ち上がり)そういう言い方されると、踏ん切りつかないな…。
男3 (上手を見て)あ、また、誰か来る。

  二人、反射的に舞台後方へ走り、置いてあった獅子舞を被る。

女 で、なんだったの、さっきの?
男1 …さっきの? なんだっけ?
女 一つ、聞いてもいいって言った。
男1 あ、そうだったね。えっと…。
女 あたしが、当てようか?
男1 え? わかる?
女 フフ。どうして私が、君と、付き合ってるのか。
男1 …。
女 そう聞きたかったんじゃない? (獅子舞に気づき)あ、見て。言ったとおり。戻ってきたでしょ? もう、カタッポ。
男1 本当だ。
男2 (面を脱ぎ)コンサートは…。
男1 演奏終わってんです。
女 片づけしてました。
男2 ああ、そうですか…。
女 よかったですね。相方さん、戻ってらして。
男2 はあ、まあ…。
女 私たちも、戻ってきました。

  男1と女、再びベンチに座る。
  男2、3、立ち尽くす。

男1 今のピンポン。大当たり。
女 知りたい? どうして、付き合ってるか。
男1 うん。もちろん。
女 ウフフフ。
男1 何で?
女 当てて。今度は、君が。
男1 僕?
女 どうしてだと思う?
男1 えっと…。
女 分からないかなあ?

  男3、男2を肘でつつき、

男3 どういうことだい?
男2 どういうことって言われてもねえ。
男3 どうする?
男2 どうするも何も…もう、こうなりゃね、ヤケクソだよ。

  男2、ベンチの後ろに行く。

男3 お、おい(と、後を追う)
女 何やってんですか?
男3 いや、これ、爆弾なんですよ。
男1 爆弾?
男3 (しまったと口押さえ)…!
男2 …風の運試しの玩具ですよ。デパートの会場なんかでね、ちょっとしたアトラクションで、こういうのどうかなって…。
男3 そうそう。年の初めの運試しに…。
女 運試し?
男3 ええ。この三本のコードをね、順番に切らないと、バアーンて、爆発する…。
男1 そんな大きな爆発するんですか?
男2 いや…クラッカー程度ですよ。
男3 え、ええ。大したことはないんで。
男2 ちょいと、受けるかどうかね、ここで試してみようかと。お嬢さんなら、何色にします?
男3 え?
女 そうねえ。あたし、白が好きだから白。
男2 白。白ね…、じゃ、白にしましょ。
男3 行くのかい…?

  男1、女、男3、耳を手でふさぐ。
  男2、パチンと切る。
  間。

女 ならなかったわ。
男2 …ラッキーですよ。

  男2、3、一度、上手側へ行き、ホッと息をつ
 く。

男3 ヒヤっとしたよ。君が、あんなに、思い切りよく行くとは思わなかったから。
男2 もう、あれぐらい無頓着に行かないと、決心つかないからね。
男3 それにしたって、君ね…。

  男1、後ろ向きで爆弾を見つつ、

男1 爆弾型ってのは、物騒じゃない?
女 でも、黒ヒゲ危機一髪みたいで、ちょっと面白いわ。
男1 時計の針進めてみようか。

  男2と3、飛び込んできて、

男2 ダメだって!
男3 ああ、五分前! 何やってんの! 
男2 あなた、何てこんなこと…。
男1 …どのくらいの音するのかなって…。
男2 …勝手に、触らないで下さいね。これ、一応、まだ、試作品ですから。その、いろいろと、検討し ないといけないんでね…。
男3 そうそう。検討しながら、一本、一本、ゆっくりと切らないと…。
男1 すいません…。(前向きに戻る)
女 研究熱心なのね。一つ一つ、足場を固めていく姿勢。まだ、いたのね、日本にも、ああいう人達…。
男1 何も、あんなに怒らなくてもねえ…。
女 君が、悪いよ。ねえ、それより分かった? どうして、あたしが、君とつきあってるか。
男1 ああ…そうだ、えっとね…。

  男2と3、腕組みし、

男2 残るは、赤と青だ。どっちを先に切るかだね。
男3 また、あのお嬢さんに、選んでもらおうか?
男2 いや、替えた方がいいな。あの娘は、今、運を使ったからね。彼氏の方に選んでもらおう。
男3 大丈夫かい? どうも、大した運、持ってなさそうな顔してるよ。
男2 確かにね。じゃ、君が、選ぶかい?

  男1、ふと、思いつき、

男1 アメ、あげるから?
女 正解。
男1 え、冗談だったんだけど…。
女 そういうとこ。
男1 え? 
女 冗談も、まあまあ。
男1 …。
女 君のいい所はね、全部、まあまあな所。
男1 …全部かい?
女 見た目、センス、会社の仕事振り、あたしの知ってる君は、どこを切っても、金太郎飴みたいに、まあまあよ。
男1 …バカに、してるんじゃないよね…?
女 もちろん。そこが、いいなと思ってるの。
男1 まあまあ、なのに?
女 まあまあ、だから。
男1 つまらなくないの…。
女 まあまあ、面白いわ。
男1 前の彼氏は…
女 面白かった。
男1 …。

  男3、後ずさりして、

男3 僕は、無理だよ。昨日の現場で、運を使ったからね。君の方が、まだ…。
男2 僕は、今朝の現場で使ったよ。僕より、君の方が、少しだけ、運が回復してるんじゃないか?
男3 …いや、そうとも言い切れないよ。じゃ、いいよ。彼に聞いてみようよ。そうすりゃ、僕たち死んでも、彼のせいだから。
男2 だろ? 僕たちは、公務員だからね。そうするのがベターだよ。

  男2と3、男1と女を振り返る。

女 その前の彼氏は、もっと面白かった。その前は、もっともっとね。

  男2と3、ベンチのそばに、そっと寄ってく
 る。

男1 …どうして急に、僕から、まあまあにしたの
 さ?
女 最初に、君とあった時に、ふっと、変わったの
 ね。あたしの中の何かが。
男1 まあまあの男がいいってかい?
女 うん。思い出したのよ。あ、うちのお父さんて、まあまあだったって。
男1 …お父さん…かい?

  男2、男3をつつく。

男3 (僕かい?)
男2 (時間がないんだよ)
男3 (でも、話こんでるよ)

  二人、仕方なく、待つ。

女 お母さんも。よく考えたら、あたし、まあまあの家庭に育った、まあまあの人間だったんだって。君のとこは?

  男2、ベンチの後ろに回って、爆弾の時計を確
 かめ、戻ってくる。

男2 (時間がないよ)
男3 (もうちょっと)

  男1と女は、男2と3のことは、もはや眼中に
 ない。

男1 …うちだって、そんなようなもんだけど。
女 そうでしょ? そんな気がしたの。あたし達、まあまあの暮らしなら、よく知ってるわ。だから、間違わないと思わない?
男1 …そりゃ、そうかもしれないけど。
女 いつもいつも、楽しいことに囲まれてなくてい 
い。いつもの道を、いつも歩くように、生きていければそれでいい。そう思ったのよ。君を見て。そしたらね、あたし、何だか、スッとラクになったわ。
男1 …サヨちゃん。
男2 (どいて。僕が、聞くよ)
  
  男2、男1の肩を指で叩き、

男2 次、どっちにします?
男1 (女の顔を見つめながら)赤。
男2 赤だ。
男3 赤、赤。

  男2と3、ベンチの後ろに回り込む。

女 どんなに平凡で、ちっぽけな暮らしにも、小さな嬉しいこと、悲しいことなんかが、夜空のお星さまみたいに万遍なくちりばめられてるんじゃないかしら。そういう、まあまあの人生って、まあまあ、よくない?

   後ろで、パチンと音がする。

男1 …言われてみると、そうかもしれないね。でも…サヨちゃん、僕と結婚する気だったのかい?

  男2と3、立ち上がり、握手すると、また、ベ
 ンチの後ろにしゃがみ込む。

女 君は、どう? したくない?

  また、パチンと音がする。
  カチカチが止む。

男1 したいよ。君と結婚できるなら、とても、したい。

  男3、立ち上がり、

男3 (男1に)あなた、ツイてますよ。

  女、自分の肩を男1の肩に寄せる。

女 よかった。
男1 そっか…考えてみると、まあまあって、まあまあ、よさそうだね。
女 うん。だと、思う。

  男2、爆弾を取り外し、男3と上手側へ。

男2 よかった、よかった。
男3 大した運の持ち主だね、あの二人。
男2 ああ。でも、気楽なもんだね。自分達がすんでの所で、この世からいなくなってたなんて、夢にも思ってないよ。見てごらん、あの二人の顔を…。

  男2と3、男1と女を振り返る。

女 …ねえ。
男1 なに?
女 アメ、無くなっちゃった。(口を開ける)
男1 も一個、食べる?
女 ちょうだい。
男1 じゃあ…(ポケットからアメ取り出し)僕と、結婚してください。
女 つつしんで…(受け取り)よろしくお願いしま 
 す。(アメ、口に放り込み)

  男1と女、見合って笑いあう。
  男2と3、地べたに置いてあった、獅子舞の面
 と風呂敷を拾い、

男2 帰ろうか。署まで。
男3 うん。

  獅子舞、ベンチの二人を祝福するように、舞い
 踊る。

男2と3 メリークリスマス!
男1 メリークリスマス!
女 メリークリスマス!

  獅子舞、手を振り、上手に去っていく。

男1 獅子舞が、メリークリスマスだって。
女 そうね。獅子舞だったら、ハッピーニューイヤー
 なのにね。
男1 でも、クリスマスが過ぎたら、あっという間
 に、お正月だから。
女 初詣、どこ行こっか…?
男1 うん。どこ行こっか…。

  男1と女、目を閉じて…。
  二人のシルエットが、くっついて。
  ゆっくり暗転。
                           
                     
                    (終)

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