連載小説 魂の織りなす旅路#7/洞窟⑴
【洞窟⑴】
陽が傾いてきたせいか、あんなにも痛かった陽射しは弱まり、急激に寒くなってきた。薄い布を一枚纏っているだけの僕は、ブルッと身震いする。
「寒いかや? そらそうやねぇ。寒いに決まっとるやねぇ。でもほれ、あすこの山。あの崖下に着いたらあったかいやね。」
歩き始めたときは小さな点でしかなかった岩が、今は巨大な山として目の前に聳えていた。緑に覆われた山頂は平らかに広がり、ここから見える山の側面はどれも垂直な絶壁だ。山が立つ平地は乾いた赤土で、これまでと変わらぬ不毛の地そのものに見える。
山壁にたどり着いたとき、ひとりの少女が2本のおさげ髪を左右に振りながら近づいてきた。
「ほうほう。お出迎えやね。ありがたい、ありがたい。」
孫といってもよいほどの幼い少女に、男は丁寧に頭を下げる。少女はにっこり微笑むと、山壁沿いを歩き始めた。男と僕はそのあとに続く。
壁で風が遮られているのだろうか。気づくと体の震えは止まっていた。歩くほどに、体の芯からぽかぽかと温かくなってくる。
しばらく山壁沿いに歩いていると、大きな杉の木がすっぽり収まりそうなほど、天井の高い洞窟が現れた。洞窟の中央には川が流れている。少女はその川に沿って、後ろを振り向くこともなく、ひたすらにぐんぐんと洞窟の奥の方へと進んでいく。
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