連載小説 魂の織りなす旅路#43/失明⑴
【失明⑴】
見えるはずの機能を持ったこの目は、僕に何も見せてはくれない。
最初は見えにくく感じる程度で、年のせいだろうと思っていた。ところが、ほんの1、2ヶ月で目に映るものが加速度的に霞んでいく。さすがにこれはおかしいと病院へ行くことにした。
複数の病院に診てもらったが、異常は見つからなかった。どの医師も首を捻るばかりだ。それでも視力は診てもらうたびに落ちていく。
視界のぼやけがひどくなり生活に支障を感じ始めた頃、失明する可能性もあるのではないかと思うようになった。医師は失明するともしないとも言わない。僕の目がこの先どうなるのか、医師にもわからないのだ。
このまま病院に通うだけで何もせずにいたら、完全に見えなくなったときに困るのは僕だ。とうとう僕は腹をくくった。
一度腹をくくってしまうと、気が楽になるものだ。どう足掻いたところで、見えないのだから仕方がない。ちょうど年金生活が始まったばかりで、有り余る時間をどうして過ごしたものかと悩んでいたところだ。やる事ができたのだと前向きに思うことにする。
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