第16話『王の日記』

 ある国の王子が、自分よりもずっと昔の時代に生きていた王の日記を、王宮の倉庫に納められていた古い机の隠し棚から偶然発見しました。
 それは非常に精巧なパズルが鍵になっていたのですが、王子が苦心の末にその鍵を開いたところ、中から悪魔が飛び出してきて王子を一瞥し、散々悪態をついた挙句、大げさな音をたてて、どこかに姿を消してしまいました。
 日記によれば、何かのきっかけで悪魔が王にとりつき、国民の命と王の命をつなげたということ。王の命の百日分が国民誰かの命で、王が誰かを殺すと決めれば王の命が百日延び、王の命を百日削れば民の誰かの寿命がいつまでか延びるらしいこと。
 ただ、この命の連結の秘密を誰かに漏らせば、全ての国民は一瞬で死に絶えてしまうということらしいのです。
 この日記を記した王によれば、この悪魔のことは、ついには誰にも話さなかった様で、悪魔から様々な誘いをかけられたものの、ついに命の連結を使うことは無かった様です。そして、おそらく間も無く自分は病で死ぬだろうということが書いてありました。
 悪魔がわざわざ見せに来た、多くの助けたかった命。自分があと二年生きれば完遂を見届けられそうな開拓事業についての気がかりなことについても書いてあります。
 日記の中で、王は予測していました。悪魔が生命を連結した王自身と民が全て死に絶えても、この生命連結について誰かが知る可能性が残っていれば、悪魔はそこに縛られて身動きが取れなくなるのではないかと。
 無意味になった契約で悪魔を束縛しておけるという考え自体が、悪魔の最後の誘惑によるものではないかと懸念しながらも、これを書かずには居られないということ。
 王子が見た悪魔は、昔の王が予想した通り、自らの取り決めに従ってそこに束縛されていた悪魔だったのでしょう。
 生命が連結されていた王や民が皆死んでしまっても、王と民の生命連結が誰かに知られる瞬間、この日記に記された秘密が誰かに知られる可能性に縛られ続けていた様です。

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