第26話『冥界への障害』

 何もしないからといって、災いを避けられるわけではありませんが、何かをしていて、全くこれっぽっちも間違ったことをしないというのも、とても難しいものです。
 予期しないことが起これば、人は正しさを保ち続けられず、その結果として、災いを招いてしまうということがあります。
 また、様々な掟や法を守るために実行したことに、実は世界の理を怪しくすることが含まれる場合もあるのです。
 バビロニアでは、役人の心得として、考えたことを即座に口に出さないという習慣が徹底されていました。
 これは、ただの決まり事というよりは、災いを避けるために積極的に守られていた、生きるための知恵のようなものだった様です。
 役人は人から恨まれ、呪われやすいため、役人がやすらかな本当の冥界で暮らすためには、幾つもの梯子を通らねばならず、その梯子の数は役目の中で呪われた数や、正しくない行いをした時の数と同じという風に考えられていました。
 多くの役人は、民衆から恨みを買い、呪われることを避けるためにも、より口を慎み、慎重だったと伝えられています。
 しかし、正しい行いで知られ、尊敬を集めていたとある税吏も、死後には冥界にすらたどり着けず、多くの手足を持つ形の定まらない醜い姿の死霊となって荒野をさまよい、やがて人から忘れられて消えてしまったという言い伝えも残っています。

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