第32話『天秤の鍛冶』
なんとなくわかっていることが、本当に自然なことなのかは、実は疑ってかかる必要があります。
女神が金属製の精巧な天秤を持ち始めるには、天秤の鍛冶をする一族の登場を待たねばなりません。
金属の天秤が作られる様になるまでは、女神の天秤は知恵の外側にあったので、天秤が作られる様になってからは、それ以前のことはすっかり忘れ去られてしまい、誰の記憶にも残っていません。
あらゆるものの軽重を見定めることが世界に定着したのは、本当は世界ができてから随分後のことです。
だからといって、これ自体が何かの良し悪しを左右するものではありません。
ただ、天秤ができてからは、女神自身も天秤以前に戻れなくなってしまった様に、元には戻れない変化というのはあります。あまり使われる言葉ではありませんが、天秤の鍛冶は、大失敗をすると取り返しがつかなくなることがあるので、いろいろなことが分かってからでないと、動いてはならないという教訓のもとになっています。
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