第24話『なにかの音、なにかの気配』

 成人の儀式として、あてのない旅に出ることを習わしにしていた人々の言い伝えによれば、何も定まらないまま道を進んでいると突然何かの音が聞こえたり、気配を感じたりすることがあるそうです。
 それが確かなのか幻かに関わらず、無視しておかなければ、その音や気配の影響で本来は定まっていない筈の、今後の、様々なものが定まっていくと言われています。
 そもそも、なかなか気づかないふりも難しいものです。
 これらの音や気配は、何かが変化する瞬間の種子の様なものが、世の中に漏れ出ている様子だと信じられていて、見なければ、気にかけなければ、変化による影響を受けることは少ないと信じられています。
 人はどうしても何かを見て何かを考えて何かを感じてしまうため、本来は自分自身の運命と全く関係のない何かの影響を受けて、どうにかなってしまうのでした。
 ただ、北欧の方では、この音を頼りにしていけば、かえって良いことがあると信じている人々もいます。
 多くの旅人がこの音を求めて船で漕ぎ出し、ついには戻らなくても、彼らが行き着いた先は良い場所であると信じられているのです。
 彼らが目指した場所が、結局のところ何処なのか、厳密にはわかっていませんが、それでもその音を気にかけることで何かの運命が刻々と定まっていき、目的の場所に辿り着くころには、全てがしっかりと決定されていると考えられています。
 定まっていることであれば、それはなんであれ良い事だということでしょうか。

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