第58話『臆病な男の決断』

 男はとても臆病な性格で、本来の旅の目的があったと伝えられていますが、それは何だったか詳しくはわかっていません。
 ただ、旅の途中で、寿命が尽きてもなお死ぬことができなくて、現世にとどまっている龍に見込まれて、その伴をするために旅の行く先を変えたといいます。
 男は、最初は龍を恐れてやむをえず同行していましたが、龍が現世を離れられない理由を知るにつれて、自ら進んで旅路を急いだということです。
 龍の後悔は果てしなく、旅をしたからといって、その果に本当にあの世にいけるのかわからないほどのものでしたが、旅が終わるころにはすっかり様々な心残りを解消していた様です。
 旅を終えた時、男は躊躇なく龍にとどめを刺し、龍は感謝しながら現世から離れていったということですが、龍が約束した宝物を、男は何一つ持ち去らなかったということです。

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