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もう一つの視点011‐笑いの神様‐

「俺と芸人になって天下とろうぜ」。高校の卒業式でマツダが誘ってきた。
マツダは俺のイジリで笑いをとっている内に、自信をつけたのかもしれない。まあ、大学に行きながら養成所に通えばいいし、無理なら早目に見切りをつけて普通に就職すれば良い。なんなら、自己PRに活かせるし、サークルに入るのと変わらないだろう。
そう思っていると、俺を説得するためにマツダはさらにこう言ってきた。
「俺が引っ張ってやるから!」

同級生のヨシムラは自分自身はたいして面白くもないくせに、イジリという名のイジメで俺を笑いものにしてきた。俺は自分の人生をかけてアイツに復讐する。
そう誓ってもうすぐ20年が経つ。俺たちは劇場の最下層で売れない芸人をやっている。ヨシムラは早々に芸人の世界にどっぷりとハマり、大学も中退し、今は借金も抱えている。借りた先が悪かったのか、最近は拉致される恐怖におびえている。笑いの神様っているんだな。
ヨシムラに言った「俺が引っ張ってやるから!」という俺の願いをかなえてくれたんだから。
しっかり足を引っ張って、アイツの人生を台無しにしてやれたと思うと笑いが止まらなくなる。

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