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別れられない女と現状維持が大事な男

私の中で、恋人とそれ以外の人との別れは大きく意味合いが異なる。それだけ恋愛に重きをおいていて、なんなら重い女でメンヘラよりなのだと思う。

でも、よく考えてみてほしい。

友だちや親しい人なら、学校や会社が別になっても、遠くに引っ越しても、連絡を取り合って約束すればまた会える。頻度が減るだけで、無しになることはないのだ。

でも、恋人だけはちがう。一度別れを選んでしまうと、なかなか二人だけでは会えない。どちらかに新しいパートナーができればなおさらのことだ。

交際期間のなかで別れを意識することは数しれずあっても、「いや、でもあんな楽しかったこともあった」「こんないいこともあった」と思い出しては留まる。

別れを選ぶことで、楽しかった思い出たちが再現できないものになってしまうのが嫌だからだ。

そんなこんなで、恋人との別れを踏み出せない。過去を振り返れば、いまの夫とは7年、大学時代には3年半同じ人と付き合ってたこともある。

いわゆる付き合い出すと長いタイプではあるのだが、人間的に落ち着いているなどでは全くなく、ただ単に執着しやすいタイプなのだと思う。

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そんな私にも、いまの夫と一度別れたことがある。

それは付き合って3年が過ぎた頃のこと。当時、夫に気を遣いすぎるがあまり自分を出せていなかった。

なんでもかんでも夫に合わせていたら、奴が完全に調子に乗って、こちらを大事にしてくれなくなり…まぁよい関係ではなくなったのだ。

そんな愚痴をネタにしつつ酒の場で周りの友だちや同僚に話していた。すると、周りから「そんな奴、別れちゃいなよ!」的なことを頻繁に言われ、こんな自分でも別れる気になってきた。

夫の悪いところだけをネタにして話しているのだから、周りがそういう風に言うのも無理はない。ものごとの見方は切り取り方次第で、いかようにでもなる。

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話は変わって、夫は「〇〇は嫌だ」「〇〇はしたくない」をモチベーションに生きている人間である。「受験に落ちたくない→勉強がんばる」「太りたくない→運動がんばる」といった具合だ。

「東大に行きたい→勉強がんばる」思考の人と比べると、保守というかネガティブな感じがする。「それで人生楽しいのか?」とお節介で聞いたこともあるが、「これまでそういうスタンスで生きてきたから、それが普通」なのだそう。

そんなんだから、別れを切り出したときも「(彼女がいる)いまの生活を崩したくない」という一心で追いかけてきた。

別れ話は家や店でしたら長くなると思い、1月の寒空の下、新宿高島屋前のベンチで切り出すことにした。店からしたらいい迷惑だ。

それでも1時間ほど話して、「いったん距離を置こう」というその場しのぎの言葉でひとまず終わらせた。

話ができてすっきりしたような、これでいいのかよくわからない気持ちだった。買い物でもして気を紛らそうと、新宿高島屋から新宿三丁目方面に向かい、ビックロに入った。

すると背後から急に声をかけられ、振り返るとそこには夫がいた。そして、ヌッと首を伸ばして「他の男と会うのか?」と言うのだ。

いま思い出しただけでも気持ち悪くて笑える。比喩とかではなく、文字通り本当に追いかけてきたのだ。その後は、さすがにつけられているなか買い物どころじゃないとそそくさと帰宅したのだった。

だいぶ端折るが、その後なんやかんやあって2ヶ月でよりを戻して同棲して結婚した。

ちなみに先が見えない同棲が長引き、業を煮やした私が「別れるか?結婚するか?」を迫ったこともあった。

その時ももちろん「結婚したい!」とかではなく「いまの同棲生活を崩したくない→結婚」という思考回路だったそうな。

夫はこれまで付き合った彼女に自分から別れを切り出したことはなく、夫も結果として典型的な別れられない人間だと知ったのは後の話。

以上が別れられない女と現状維持が大事な男の話である。

いま思えばなんともしょうもない話であるが、当時はいまの幸せと将来の自分の幸せを考え、必死だったなあと懐かしく思う。

文:香山由奈
編集:アカ ヨシロウ

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