もしものときに命を救うかもしれないスポーツとは?
京都アニメーションの凄惨な事件を受け、私が所属する編集プロダクションでも、一部の社員のみで避難訓練を行うことになった。
火災のときに最も重要なのは、いち早く建物から脱出すること。ところが弊社の入居する3階建ての雑居ビルには、メインの階段のみで非常階段はなく、避難経路は「避難はしご」だけだと言うのだ。
消防法で6階以上のビルには、非常階段の設置が義務付けられている。一方で5階以下の建物には非常階段はなく、避難はしごや救助袋、救助ロープなどの避難器具を使って脱出することになっているそうだ。
皆さんは、「避難はしご」をご存知だろうか。公民館などの施設やマンションに設置されている外側を見たことがあっても、どんなものなのか広げて見たことがある人は少ないかもしれない。
その実態は、ステンレスでできた華奢な簡易はしごである。「大丈夫!」と言われても、強度が心配だ。
※図のように金具を手すりにかけて使用する。
※最後の1枚はオリロー様HPよりお借りしました。
3階と言えど、10mほどの高さから慣れない素人がはしごで降りるのは結構怖い。命綱などないし、火災で焦っているときに降りるのはなかなか危険である。
避難訓練で同僚がはしごを下りるのを見ていたが、まず、窓からはしごに移るところが意外と難しい。
運動音痴の人や高齢者は降りづらいだろうと思ったし、何ならタイトスカートやロングスカートも厳しいと感じた(有事の際はそうも言っていられないが)。
そして厄介なのが、避難はしごでは短時間で多くの人を避難させられないことだ。
弊社の3階には、多いときで40人ほどの人がいる。
避難はしごを使えるのは一度に一人。スムーズに一人1分で降りたとしても準備時間もあるので、消防車が到着する前に避難できるのは5~6人といったところ。残りの30人以上は待機するしかないのだ。
しかも、避難はしごを降りる順番決めるのは揉めそうである。年齢が若い方でも年寄りな方でもなく、偉くもない自分らの番は、間違いなく後の方だ。
はしごにすらたどり着けないと諦め、「そうなったら、衝撃を吸収するスニーカーでも履いて飛び降りようか」「いやぁ、足のどこの骨が折れるんだろう」「むしろ足の骨折だけで済むの」なんていう縁起でもない話を同僚としていた。
そんなとき、避難はしごをめちゃくちゃなスピードで降りる猛者が現れた。足元をよく確認する様子もなく、次から次へと下の段へ足を下していく。
重力を感じないその姿はまるで消防士か自衛隊。いや、毎日ジャングルジムで遊んでいる小学生のように軽やかな身のこなしだ。はしごの段を掴むときに金属と手が触れる「スッスッスッ」という音が子気味よく聞こえる。
周りの空気が変わった。「これだけ早く降りられるのならば、みんなが助かるかもしれない」。誰もがそんな希望を持った。
教えてくれ。なぜ、そんなに避難はしごを降りるのが上手なんだ……!
颯爽と地上に降り立つと、称賛の眼差しで見つめる周囲を見て、彼はこう言い放った。
「あ。僕、ボルダリングやってるんで」
ボ、ボルダリング……!
人生、何が功を奏すかわからない。日頃、ボルダリングに興じている人からすると、持つところ・足をかけるところがまっすぐ決まっているはしごを降りるなど、楽勝なのだ。
あなたの職場の避難経路は、いかがだろうか。
もし、「避難はしごしかない」のであれば、今すぐボルダリングを始めよう! あなただけが速く降りられるだけでは意味がないので、同僚を誘ってみんなでボルダリングに行こう!
ボルダリングは、命を救うのである。
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