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【提言】Withコロナ時代に教員が最優先ですべきことは「ひたすら1on1」だ

はじめに
私は千葉県にある私立の中高一貫校で教員をしています。
そして、私の勤務校も含めて、今全国の学校で「映像授業」が始まり、学校現場はてんやわんやです。
また、メディアも盛んに「学習の遅れ」を批判しており、全国の生徒や保護者の皆さんもご不安なことと思います。
しかし、私はそのような言説に触れるにつけ、違和感を禁じ得ませんでした。
そこで、本稿では現場の教員目線から、その違和感について掘り下げて考察するとともに、「教員がyoutuberになる」ことや「iPadに向かってひたすら噺家のように語り続ける」ことよりも、まずは最優先で「生徒との1on1」をすべきである、と言うことを提言致します。
具体的には、本稿では「私が1on1を最優先だと考える理由」と「具体的な手法」を提言致します。
教育は「一億総評論家」であるとも指摘されますが(注1)、本稿ではそのような「批判」に終始せず、なるべく論理的に今の問題点を指摘した上で、明日から現場で実践できる実践知を、現場の教員の目線から提言させて頂きたいと思います。
先生たちの子供たちに対する愛情と熱意が、どうか少しでも良い方向に使われますように。

目次
1 前提:コロナは短期では終わらない
2 現状認識:「想定外の未来」が迫っているのではなく「遠い先に想定されていた未来が近い未来になった」だけ
3 提言:教師・親がそのために最優先ですべきことは1on1だ
4 具体策:明日からできる具体策の提案

1 【前提】コロナとの闘いは「長距離走」になる
まず、本題に入る前に前提をすり合わせておきたいと思います。
現状に対する認識が異なれば、当然ながら打つべき対策も変わってくるためです。

そして、その認識とは「コロナとの闘いは長期戦になる」と言うことです。
iPS細胞の研究者として名高い山中伸弥先生も「新型コロナウイルスへの対策は長いマラソンです。都市部で市中感染が広がり、しばらくは全力疾走に近い努力が必要です。また、その後の持久走への準備も大切です。」と述べています。(注2)

少なくとも、「いかに緊急事態宣言中の休校措置を乗り切るか」が全くずれたイシュー設定である、と言うことはお分かり頂けるのではないかと思います。
しかし、残念ながら、今の学校現場では(そして日本のメディアも)ほとんどが、そのような「絆創膏をどこに貼るか」的論争に終始しているのが残念ながら現状です。
ぜひ、本稿をお読みの皆さんとはこの認識を共有した上で、考察を進めたいと思います。

2【現状】「想定外の未来」が迫っているのではなく「遠い先に想定されていた未来が近い未来になった」だけ
次に、今起きている・あるいは目前に迫っている変化について、簡単に触れておきたいと思います。
このコロナをめぐる変化は、決して「突然想定外の未来がやってきた」のではなく、「遠い先に想定されていた、ないしは到達しようとしていた未来が早まった」ものと捉えるべきです。
例えばテレワークや時差通勤をとってみても、以前から主張されてきたものであり、それがなかなか進まなかったところ、これを契機に「やらざるを得なくなった」に過ぎません。

教育に目を転じても、「オンライン教育の実施」「ICTの活用」それに伴う「個別最適化された学びの推進」「個別学習と協働学習の棲み分け」など、以前からするべきだったことが一気に目の前に来たに過ぎません。

先日、オンライン教育で今さらに注目を高めているN高等学校の管理職の知人とお話しする機会があり、「今この変化で注目や人気も高まっていると思いますが、経営戦略に変化はあるのですか?」と聞いたところ、「戦略自体に変化はない。私たちが進めて来たことが予想より早く受け入れられているだけなので、タイムテーブルの前倒しをしているのみだ」とのお答えでした。
まさに、この言葉に全てが現れているように思います。

従って、私たちが「withコロナ時代の教育について考える」ことは、「未来の教育について予測・構想すること」と等価であり、よって本稿でも「未来の教育はどうなるか・どうあるべきか」という観点を念頭に考察したいと思います。

3【提言】オンライン授業より、まずは最優先で「1on1の実施」を
では、このような状況の中で私たち教育関係者は何をすべきでしょうか?
おそらく今、教育の関わるアクターはほぼ全てと言っていいほど、途方もなく大きな不安を抱えているはずです。
教員、生徒、保護者など、全てです。
実際、私が本稿を執筆しようと思ったきっかけは、私が運営に関わらせて頂いているある団体の打ち合わせの中で、ご自身がママさんでもある運営メンバーの方から「今子供に何をすべきか?」というご質問を頂いたことでした。
そのご家庭でも、「youtubeはじめ、様々なアプリを使ってスマホで学べる」ことも、学校の宿題プリントが束のように出ていることもご承知の上で、お子さんが学びに全く身が入らず、むしろスマホ漬けになっていることをご心配されていました。
そこで私がお伝えしたのが、「ぜひ子供と1on1をしてあげてください。私も今、毎日ひたすらzoomで1on1をしています」ということでした。

ここでいう「1on1」とは「生徒の成長のために行う一対一の面談」のことで、コーチングの一種です。
Yahoo!が全社をあげて取り組んだことから話題になったことは記憶に新しいかと思います。
そのYahoo!では、1on1を「経験学習を促進するため」及び「才能と情熱を解き放つため」の「1対1で行う面談」と定義しています。(注3)
「経験学習の促進」とは、「経験を振り返り、抽象化する手助けをすることで、知識・経験の転用を促進すること」であり、「才能と情熱を解き放つため」というのは「自己と向き合う手助けを対話的に行い、成長への意欲を高める」ことを意味しています。
これこそまさに、今学校現場で行うべきことではないでしょうか?

多くの生徒たちは今、「学びの動機付け」を失い、無為な時間を過ごしています。
すでに指摘されているように、一部の子たちは、まさに「学校から解放」され、自分のやりたいことを積極的に進めています。しかし、そのような生徒はほんの一握りです。
圧倒的多数の「普通の」生徒たちは、今までだってすでに学びの意欲を高くは持っていませんでしたが、ある意味学校現場での先生たちの醸し出す「緊張感」や、学校での学習というある程度の「強制力」、仲間が学んでいるから自然と自分もやるという「同調性」、そしてこの先生はおもしろいからうけようかくらいの「関係性」などから、最低限の学びは行われていました。
しかし、これらの動機付けを失った今、いくら我々教員が「劣化版youtuber」のように映像授業を流し続けたところで、学びには繋がりません。
実際、私の教え子でも「夜中の3時までオンラインゲームをして昼頃起きる」「スマホを見ていた時間を確認したら1日に11時間を超えていた」などの事例が多発しています。
まずすべきは、「彼らと1対1で向き合い、自立/自律した生活を送るサポートをする」ことです。

先に述べたとおり、「未来の教育」について予測・構想してみると、「ICTを活用し、個別化した効率の良い学び」が加速していくと言われています。
それに伴い、教員の役割も変化し、「授業者」から「コーチ・ファシリテーター」になっていくことは容易に想像できます。

また、学びが個別化するということは、生徒たちにとってはより「自立/自律して学ぶ力」が求められます。
これは文科省的に言えば「学びに向かう主体性」であり、教育学的にいうところの「自己調整力」が求められるということですが、つい数ヶ月前まで「集団・一斉授業」をうけてきた日本の子供たちが、ある日突然「withコロナの時代なので個別で学びましょう。映像は流します。」と言われても、適応できるはずがありません。
今までよりも「ひとりになる時間」が長くなり、「個人としての学び」が求められる以上、それに見合った個別対応のサポートが必要になるのは当然です。

よって、私たちはまさに「学びのコーチ」として、子供たちが「学びたいと思う火をつけ」、「そのプランニングや方向づけ」を一緒に行い、「伴走」し、「学びを振り返る」ことを手伝うことが急務です。

これが、私が教員は一刻も早く、そして時間の許せる限り最大限に「1on1をすべきだ」と考える理由です。

4 具体的な事例と提案
では、最後に私が実施している具体例についてシェアさせていただくとともに、教育に関わるアクターごとに、ぜひやって頂きたいことを具体的に提案します。

まず、私が実際に行った・行っている事例です。
今私は毎日、教え子の高校生や大学生、関わっている大学チームのメンバーたちと、ひたすら1on1をしています。
学生たちと話していて強く感じるのは、どんなに堕落した生活を送ってしまっている子供たちでも、「不安や危機感は強く抱いている」ということです。
ただ、今までは決められた時間に学校に行き、決められた席に座れば授業が始まり、先生が黒板に書いたことを写していれば「学べた」ものが、すべてなくなり、「今日から自由な場所で、自由な時間を過ごせる」となった途端、どうして良いかわからなくなってしまっているのです。
実際、ある生徒は面談した時点で昼夜逆転し、毎日10時間以上スマホをいじっている状態でしたが、数時間にわたり、何度も1on1で向き合ううちに、彼の興味関心や自分のキャリアについて深く向き合い、考えるようになり、最終的に「自分のレア度を磨いて『なりの人生』を脱却したい。そのためにアジアの海外大学に進学したい」というようになりました。
そこで参考書や映像教材を勧め、学習計画を一緒に立てたところ、昼夜逆転も直り、毎日自分の目標に向けて、熱量高く勉強するようになりました。
このように、生徒は「放って置かれたらピンチ」ですが、彼らの熱量さえ上げてあげることができれば、むしろ学校という「決まった時間」が少ない分、むしろ自分の学びたいことを、学びたいペースで学べる「チャンス」になるのです。
この分かれ道にあるのが、1on1だと私は思います。

そこで、教育行政の皆さんや学校の管理職の先生方にお願いします。
ぜひ、1on1を推奨してください。
教員がオンラインの教材開発に追われていて時間が取れないなら、既にネット上にある、そしてはるかに質の高い既存のリソースを活用するよう促してください。
教員の働き方改革も求められる中、「あれもこれも」が無理なのは分かります。
だからこそ、取捨選択と優先順位づけをするのは、皆さんにしかできません。
そしてその際、本当に「教員がyoutuberになること」が最優先なのか、ぜひ真摯にご検討ください。

また、現場の先生方や保護者のみなさんにお願いします。
ぜひ、今こそ子供たちとじっくり、一対一向き合い、彼らのエネルギーがどこに向いているか、見定めてあげてください。
そして、そのエネルギーの向け方と育て方を教え、導いてあげてください。

もちろん、保護者の皆さんもお仕事や家事などお忙しいことでしょう。
現場の先生方も未曾有の危機のなか、ご多忙なのは分かります。
そんな時は「ついで1on1」や「ちょっと1on1」でいいのでぜひやってみてください。

私の場合、教科担当の授業は必ず15分前にオンライン会議室を開け、また終了後もなるべくオンライン会議室を開いたままにして、雑談したり、一人一人と話すようにしています。
すると、やはりその時間に「今の時間の過ごし方がわからない」とか「何か始めたい」という相談が生まれ始め、実際そこから外部のオンラインイベントを紹介して参加した生徒もいました。

このように、まとまった「1on1のための時間」を作れなくても、いくらでも方法はあります。
そして、これはオフラインの授業環境下では、指導力のある先生方がずっと行ってきた「早めに教室に入る」「放課後も教室に残って生徒たちと話す」のと同じことです。
これが、オンラインになったとたん減っているように感じますが、むしろ今こそこのような「隙間時間」を大切にし、個と向き合うべきです。

私も一教員として、教育関係者として、教育に関わるほとんどのみなさんが真剣に子供たちのことを考え、情熱を持っていることを知っています。
しかし、だからこそ、そのエネルギーが「未来を見据えた」方向に使われることを切に願って止みません。

これを機に、教育現場でICTを活用した1on1が広まり、子供たちにとってwithコロナの時代が単に「暇を持て余す」時期から「自分の学びを深める」時期へと進んでいきますように。

参考文献
・(注1)西内啓『統計学が最強の学問である』
・(注2)山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信
・(注3)本間 浩輔『ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーション』

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