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11-コミュニケーションのデザイン(環境編-準備ver)

会場のレイアウトや机の配置などに前回は言及したが、”ワークショップ当日のコミュニケーションを促進させる環境づくり”は、打ち合わせやプログラムの決定、告知、直前準備、本番、クライアントとのふりかえりといったプロセスから気を配れて初めて適切な環境のデザインを達成できるものと考えている。

「コミュニケーションの環境のデザイン」という言葉において、かなり拡大解釈をしているが、こういったコーディネートの範疇もワークショップデザインに含まれていることは強調しておきたい。

(ただ、このプロセスやコーディネートを”コミュニケーションの環境のデザイン”という中に位置付けるのがふさわしいかはまだ悩み中。もっと上位概念に位置付けられる気もしている中、筆を進めている)

・実は打合せで8割見える

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打ち合わせで聞くことは「参加者の見立て」「目的の確認」「評価方法」「条件の確認」「会場の下見」である。

「参加者の見立て」では、依頼が企業研修や学校、地域の場合、参加者が決まっている(もしくはかなり想定できる)ことが多いため、普段の様子や障害の有無などを確認する。不特定多数が対象の講座であれば、過去の傾向や告知方法でリーチする層を想定し共有を図る。

「目的の確認」は基本的にはワークショップ当日の達成したいゴールイメージの設定なのだが、そこへの想いを引き出すためにも、依頼に至る経緯や現状の課題感の認識へのヒアリングは欠かせない。その上でどうなったら道筋が見えそうか、今後どうしていきたいかを聞き出した上で、ゴールイメージが設定できる。

その後、当日のワーク終了後の「評価方法」に言及する。「期待する効果や変化のイメージ」を伺い、アンケートのようなものが必要なのか、マイルストーンのような成果物ができればいいのか。それは依頼者が考えるのか、こちらで考案した方がいいのか。

以上の部分を聞けば、参加者の関係性やゴールイメージやビジョン、最初の一歩目などがだいたい把握できる。ここに至れれば、手がけるワークショップの系統はどれがいいだろうか、どんな雰囲気がふさわしいか作れればいいかが見えてくる。その上で実際にどんなハネ方ができるか、余白か可能性の部分も含めて予算や時間を含めた「条件の確認」を行う。自分に支払われる金額以外に使える予算項目を伺い、プログラムの幅がどれくらいまで拡げて考えられるかの見立てを行う。

そして最後に(もしくは最初に)「会場の下見」を行う。雰囲気、机、椅子が動かせるかどうか、空間の大きさ、備品のチェック、使用制限の確認などだ。先述した項目を総合的に把握した、実践の見立ての延長線上に前回コラムのような「会場の環境デザイン」の視点が発揮される。

・本番までは参加者のテンションと動的判断ポイントを探る

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打ち合わせ後は、プログラムの提案から決定に至るわけだが、私は個人的にコンセプト文は丁寧に書くタイプである。もともとはコンセプト文はほとんど用意せず、1、2行の達成目標を3つ設定することしかやっていなかったのだが、芸術大学での創造学習プログラムで多彩なアプローチが求められたときに、コンセプト(狙い)を丁寧に書けていないと、プログラムの細部がぼやけたり、動的判断の基準が曖昧になると感じたため、それ以後、できる限り熟考してコンセプト文を記述するようにしている。

例)企業向け研修。クライアントの要望に応えるテキストだけでなく、なぜそれが社会的に必要なのか、という普遍性や社会性にも応えられるような記述を個人的には目指している。(ここまで求められていないのは承知の上で書いている)

<プログラム名>:
質問の時間  〜クライアントも気づいていない本当のニーズの見つけ方〜
<カテゴリー区分>: 私と他者系

<ねらい(コンセプト)> 
テーマは「質問の力」 。
多様な人が関わるプロジェクトやクライアントとの対話が求められる人のためのHOW􏰁O入門編。 私たちは「明らかに違う」と認識している他者に対しては寛容性を発揮するが「同じようにできる」と認識している他者には驚くほど不寛容である。今日はその「同じとだと思っていたけど違う」と言う僅かな誤差に敏感になる。コツは数あれど、まずは「質問」を通して衝突を避けることや、他者理解を促進する。質問は他者と自分との誤差を気づかせてくれ、誤差にカタチを与え、他者軸で誤差を考えさせ、他者に“歩み寄る態度”となり、相手にも気づきを与えてくれる。本ワークショップは、他者は同じようで意外と違うことをまずは楽しみ、その後、僅かに違う他者の価値観にシンクロできるところを目指す。そのプロセスにおいて、オープンクエスチョン、クローズドクエスチョン、予測と誤差、言い換え、など様々な術をメタ認知していきたい。

<達成目標>:
1、オープンクエスチョン、クローズドクエスチョンを意識して使えるようになる。
2、待つことができるようになる。その可能性を理解できるようになる。
3、質問を重ねることで、相手の思考にシンクロし、言い換えることができるようになる。

<プログラム>
(省略)

プログラム決定後、本番までの期間は参加者の情報が得られるのであれば、その都度、プログラムの微調整やファシリテートの雰囲気、動的判断ポイントなどの想定にあてる。クライアントの要望に応じてプログラムは構成するのだが、時折、クライアントの要望や見立てが、自分とはズレていたり、本番のイメージができないことがある。こういう時は、多分にクライアントの見立てが違う時が多い。そのため、参加者の状況や志望動機など聞いておくことができれば、修正に当てられたり、一応、複数のパターンも想定できる。最悪、全て予定の内容と当日で全部変えることもあるのだが、どうしても自分のイメージがしっかりできない時はあらかじめ「〜な雰囲気を最初に感じたら、内容を〜するかもしれない」「〜な反応もでるかもしれないので、その時は全部かえても大丈夫か?どこまでなら変えていいか。落とし所の範囲はどれくらいまで許容できるか」と動的判断ポイントを言っておくことでクライアントもハラハラはしつつも、ある程度の覚悟を持って当日に挑んでくれるし、当日の動的判断を行う際も「どうも雰囲気が違うから、よく観ておいて」とも言える。そういったある種、受け身に有する準備の時期がここである。


・当日も8割+@(10割にしない)で安心・安全な場づくり

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打ち合わせでの見立て、本番までの期間でのプログラムの決定と動的判断ポイントを見つけるための情報収拾を経ていると、かなり立体的に状況のイメージが形づくられるので、それに合わせた会場のデザインをセッティングしていく。建物の入り口からその会場(部屋)に至るまでの導線、荷物置き場、お茶やお菓子をおいた休憩スポット、緊張感をほぐすための音楽、あらかじめ掲示された”今日の目的や流れ”などなど。いずれも念入りにしておくことが正解とは限らない。何も特別なしつらえをしてないようにするのもあれば、”いかにも”な作り込みをする時もある。打ち合わせから本番までの経緯から想定したイメージをカタチにするだけだ。開場時、特に気をつけているのは、最初の数名が来た時である。その時の雰囲気に想定と実際の誤差を確認し、修正に充てる。といってもできることは限りなく少ないため、ファシリテーターとしての振る舞いの部分で補う、といったところだろうか。結局はこれで完璧、という状況に至ったことは今まで一度もない。いつも「もしかして」といった状態を残したまま進行していく(順調に流れができてきたら中盤は、そのような心配はほとんどないが)。なので、ここで気を配るのは、参加者の不安感を軽減させることや、参加者が抱える違和感を察知し気後れすることなく発言できるよう場を整えることである。不安感が強めに出ていると思えば、今日の目的や流れを丁寧に伝えることや、落とし所(ゴールイメージ)まで伝えることもある。違和感が出ているのであれば、何度かその人とコミュニケーションをとり、相手が全体に発言する前にファシリテーターが違和感を全体に伝えて、構成を変えることもいとわないことも伝えて、全員が考えを言いやすいようにする。参加者の不安や違和感を丁寧に受け止める進行を行うことで、参加者とファシリテーターの信頼感や一体感が生まれることになる。だからこその準備段階でクライアントとどこまで振れ幅がOKかどうかの確認が重要になる。

随分と包括的に語ってきたが、一貫してあるのは”ワークショップ当日のコミュニケーションを促進させる環境づくり”のための準備や振る舞いである。

もちろん、そういった幅のある進行を動的判断も含めて行うので、必ずクライアントと、実際どうだったか、到達しなければならなかった部分はあったか、といった確認は行う。ここで自分の手応え感とクライアントの手応え感に距離がある時もあるので、考えを述べ合うことでチューニングを繰り返す。

・まとめ

以上が、ワークショップ当日のコミュニケーションを促進させる環境のデザインとしての、準備から終わりまでのプロセスである。当日の環境をいかに整えるか、という視点はファシリテーションのパフォーマンスに直結する。いくらファシリテーターの技量があれどもプロセスへの配慮が至らない場合は、かなりの苦労を経ることになる。自身が手がけるのであれば、クライアントに伝えるべき部分、確認すべき部分として自覚化しておく必要がある。もしコーディネーターやクライアント側であるのであれば、こういった準備を心がけておくといいだろう。

FA09-コミュデザイン

いつもと(ちょっと)違うコミュニケーションを誘発するために「関係・環境・構造・方法」をどう見定めるかとし、起点となる関係のデザイン、当日のコミュニケーションを促進させる環境のデザイン、と続けてきたが、次回は実際にプログラムデザインを行うにあたって、ワークショップ当日をどれだけ豊かにバリエーションを持ったふくらみのあるコミュニケーションするか、といった構造面での話をしていきたい。より実践的に実際にプログラムを考えるにあたって、どういう流れを作るか、という視点について語っていきたい。

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