スライド25

03-答えも道のりも不確定なところから

・「みんなちがって、みんないい」のジレンマ

「頭のいい人が答えを考えてくれる、それを教えてもらう」「その答えをいかに早く多く覚えるか」といった時代は過ぎ去り、仕事も社会も学歴も「これがお手本」といったモデル(正解)が曖昧になった時代では、自由の反面、不安も高まり、嗜好の同質性が高いコミュニティに人が集まるのはある意味仕方のないことだ。そして、自分の知らない情報には、ぐるナビやAmazonのレビュー数や点数といった「数」が一定の信頼になるのも当然であろう。

一方、正解が曖昧になったということは価値観の多様化が認められている時代でもある。ゆえに同質性を求める反面、私たちは「自分とは違う人を認めたい(違う自分も認めて欲しい)」「そんな違う人とも繋がりたい」という欲求も持っており、「コミュニティデザイン」「ダイバーシティ」「多文化共生」「社会包摂」といった言葉にも事欠かない。そういった他者理解、異文化理解が必要とされる中でワークショップが育まれていることは肝に銘じておきたい。(事実、ワークショップは第二次世界大戦以後のアメリカにおける人種差別をなくす社会教育を起源としている。中野民夫『ワークショップ』14頁参照)

ただ、ここで勘違いしてはいけないのが「みんなちがって、みんないい」という価値観で現実の判断を止めることだ。もちろん、自己選択自己決定が原則であり、「正解は自分の中にある」でいいのだが、「一人一人違っていい」時と「一人一人違うと困る」時は間違いなくあって、その間をいったりきたりしながら、もしくはそのグラデーションの中でどこをポイントに決断していくのが、ファシリテーターの悩みどころであり存在価値でもあり、違う考えをもつ全員の納得解を紡ぐプロセスを作り出すのがワークショップデザイナーの腕の見せ所でもある。

スライド16

ただし、気をつけておかねばならないのが、「一人一人違っていい」と「一人一人違うと困る」を成立させようと思った時、結論がものすごく角が取れて、口当たりの良い言葉だけで終わることだ。ただ、このあたりは、状況によって違うため、どれがいいのかはわからない。ただ、経験上、プロセスに参加していない人・コミュニティ・社会に説得力や影響力を持とうと思ったら、必ずこの問題と悩みには直面するし、直面し続け、触り続ける態度こそ、ワークショップデザイナーやファシリテーターのあるべき姿だ。(グループセラピーや自己や他者の受容が目的の場など、社会の避難場所として機能することを目指すのであれば、例外だと思う)

・何を目指す?どう目指す?

「唯一の答えはない」「一人一人違ってもいい」といえども、仕事・コミュニティ活動・日常生活において、多様な人とミッションをクリアしていかねばならないことは避けられない。中にはのっぴきならないゴールと期限が決められていることもあるだろう。そのジレンマの中、関わる仲間やメンバーと歩んでいくには、何に気をつけないといけないか。

私はプロジェクトやワークショップを山登りに例えることが多いので、今回も山登りにたとえながら説明していくが、そもそも「唯一の正解はない」といえども、実はぼんやりと目指す方向性や頂きぐらいは見えていることが多い。

スライド17

プロセスやプログラムの構成、場のデザインを携わるワークショップデザイナーは、いったんそのゴールを仮設定しておいた上で、出発に挑む前から準備は始まる。目的を伝え、事前準備事項や連絡を行い、山登りに同伴するファシリテーターを探し(自分でやる場合もあるだろう)、道中のプロセスもいく通りかは想定しておきながら、どこまで外れても大丈夫かどうかの選択肢も考えておく(クライアントがいれば、判断の幅を確認しておく)。

スライド18

その上でメンバー個々の状態で動的判断を下さねばならないから、想定するプロセスの動的判断ポイントをあらかじめ、把握していた方がいいし、そのチェックポイントのみならず、途中休憩や細かく振り返るポイントも決めていくことが求められる。

プロセスの同伴者であるファシリテーターは、ワークショップデザイナーが意図していることを十分理解した上で、その時々、メンバーや参加者からどのような反応が出るかを見極めつつ、道中の細かなゴール設定や、休憩判断、動的判断などしていくことが求められる。

その中で様々な反応、意見が出てくるのは当然であり、その意見整理も行いながら、参加者同士の無駄な対立や衝突を避けながら、全員がそれぞれのレベルで納得できる自己選択自己決定を促すことが伴走者であるファシリテーターの仕事である。

スライド19

・ワークショップ、ファシリテーションが機能することで何がうまれる?

そのように誰かが決めたルートではなく、自分たちで決めたルートで登っていくと、徐々に集団の性格や振る舞いが共有されていくとともに、当初では想定していなかったものに遭遇することが多くなっていき、いよいよミッションで目指すものがぼんやりとしたゴールから「自分たちの目指すもの、大切にしたいもの」がカタチづくられてくる。

スライド21

ファシリテーターはそこをいち早く察知し、メンバーに自覚化させる為にも、問いを投げかけたり、選択できる未来のカタチを伝えることが求められる。さらにいえば、そこに気持ちを持っていくためにも、道中のメンバーそれぞれの感じたことを全体で共有しておくことが大切だ。

スライド22

こうやってメンバー間のゴールが達成され、次のステップにいく時にも同様に関わることもあるが、ワークショップデザイナーやファシリテーターがどう関わっていたのかもメンバー内でも理解されるようになってこれば、ワークショップデザイナーやファシリテーターがいなくてもワークショップ的な場とプロセスは形成されていくし、互いに共鳴しあい自然とファシリテーションが機能し合う関係が出来上がる。

ざっと簡単ではあるが、多様な価値観、意見を持つ人たちとともにゴールを目指していくにあたり、ワークショップ(デザイナー)は何を担うべきか、ファシリテーション(ファシリターター)は何を担っているか、そしてどのように歩んでいくか、を説明した。

ワークショップが機能していれば、関わる人たちがエンパワメントしていく場とプロセスはうまれるし、ファシリテーションが発揮され、自分と他者の同じと違いを認めつつ「次」に進むことがたやすくなる。

そして何よりいいコミュニティ、いいプロジェクト、いい組織には自覚無自覚あれどワークショップ的な場があり、ファシリテーションは活きている、ということは共通していることは強くいっておきたい。

答えのない(答えが多様な)時代だからこそ、プロジェクトや組織、コミュニティのプロセスにワークショップは多くの選択肢を想定し、歩み、動的判断を仰ぐポイント作りをしていることを説明した。そこまで構成されたプロセスにおいて、ファシリテーターは参加者の反応や意見を見て、問いや気づきを投げかけ、集団の振る舞いとして定着させていき、そして「次」に向かうための決断を場に促すことで、メンバーやコミュニティが自立的かつ共鳴しあう関係になっていくかを述べた。

それでは次回以後は、そんなワークショップやファシリテーションはどのようにしていくか、ということをそれぞれ分けながら説明してくことを試みたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?