ポートピア連続殺人事件
こみや「ひーやめてくれ!いうから。じけんのあったよる、じつはこっそりぬけだして」
皆さんは1985年11月にドラゴンクエストでお馴染み『エニックス』から発売された『ポートピア連続殺人事件』をご存知だろうか?
『ポートピア連続殺人事件』とは、パッケージに描かれたキャラクターと実際のプレイ画面のキャラクターのギャップの激しさが印象的なファミコンゲームである。
冒頭のセリフは小学生の私が一番いけ好かないと感じていた、『こみや』を『たたく』ことで屈服させた名シーンだ。※臨場感あふれるセリフは間違えてはいけないのでググりました。
二つ上の兄がどこかのバザーだが、薄暗いおもちゃ屋だかで入手してきた中古ゲームソフトがこの『ポートピア連続殺人事件』だった。
確かすでに『スーパーマリオ3』で、隠れキノピオの家を荒らしていた頃だというのに、急に兄が持って帰ってきたアナログ感満載の『ポートピア連続殺人事件』には正直消しゴム程の興味しか持てなかった。
しかしそんなある日、あまりに暇で暇すぎた土曜日の午後にひとり、ついにファミコンに『ポートピア連続殺人事件』をガチャリと差し込んだ事で物語は始まる。
ざっくりとしたゲーム内容は、神戸のとある金融会社の社長である『やまかわ』が何者かの手によって殺害。数々の手がかりをもとに刑事である主人公(プレイヤー)が、部下である『ヤス』と共に事件を追う。というもの。
ヤスは小学生の私を「ボス」と呼んでくれた。とてもとても気分が良かったのを覚えている。
ぽぽぽぽぽぽ。
ぴ。ぽぽぽぽぽぽぽ、ぽぽぽぽぽぽぽぽ。
これはヤスが喋り出した音だ。正確に言うと人物のセリフに合わせて音が鳴るのだ。喋るのが男性だと音が低めの「ぽ」、女性の場合は高めの「ぽ」になったと思う。
「ぴ」は「ぽぽぽぽ」のアクセント的な役割であった気がするが、もしかしたら「ぴ」は私が作り上げた幻かもしれない。
話を戻すとプレイして数分で「ぽぽぽぽ」以外の音が無い事に気が付いた。BGMが無い不気味さというのをこの時初めて体感した。『さんまの名探偵』だって軽快なリズムを刻んでいたというのに。なんていうことだろう。
そしてコマンドの粗さがまたすごい。冒頭の『たたく』なんて昭和レトロな選択肢である。ちなみに『たたく』を選択すると、「どこをたたきますか?」という無機質なメッセージと共に、金槌のイラストが表示されるのがまた味わい深い。
その他のコマンドも、『よべ』『なにかみせろ』『ひとにきけ』など全て命令口調。ヤス、ごめんと思いながらプレイしていた。
とにかく怪しい人物を片っ端から呼び出しては、なにか見せたり、聞いたりしていたが、小学生の頭では何をしたら良いのかわからずにすぐにキレて『たたく』を選択していた。
時にはその愚行をヤスに止められることもあった。
そしてプレイして数時間後に、被害者の『やまかわ』の屋敷に突入して迷路に閉じ込められた。確か『やまかわ』の屋敷には隠れ地下室のようなものがあって、そこにワクワクしながら軽い気持ちで入ったのだと思う。
歩みを進めてすぐだった。初めて「ぽぽぽぽ」以外の音がした。それは何とも形容しがたい音で(言うなら「ぶしゃん。」のような)背後の壁が閉まって後戻りができなくなる、という恐怖の仕様だった。
何度も繰り返すが当時私は小学生。西陽が差し込む兄の部屋で知らない家の迷路に閉じ込められてしまった事実に私は取り乱した。
どうしよう、どうしよう。
そう思いながらめちゃくちゃにコントローラの矢印を上下左右に押しまくる。私は実生活では迷子になったことは今日まで一度も無い。迷子になったのはこの『やまかわ』の屋敷の迷路だけだ。
戻りたくても戻れない。進むしかない。
やがて慄きながら歩みを進めると、壁に文字が書かれていた。
「これいじょうすすむな、ひきかえせ」
ひらがなだけで恐怖のどん底に落とされた。あまりの恐ろしさに叫び声もあがらずコントローラーを投げ飛ばして階段を全力で駆け下りた。
冷蔵庫から麦茶を取り出してコップ2杯くらいを一気に飲んだと思う。心臓がドクドク言っていた。
それから私は二度と『ポートピア連続殺人事件』をプレイすることは無かった。兄も買ったものの、たいして興味が無かったのかプレイをしなかったようだ。
いや、もしかしたら、
「これいじょうすすむな、ひきかえせ」
を見て兄もリタイヤしたのかもしれないが。
今思うことはひとつ。
ヤス、あそこに置いて行ってごめん。今まで付いてきてくれてありがとう。でも私には刑事は無理でした。
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