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漫才台本「私は観光ガイド」

海原千里「最近は大変な海外旅行ブームですね」
海原万里「ほんとですね。農協の旅行なんか、ほとんど海外旅行らしいですよ」
せ「けど、相変わらず、日本人の観光マナーは悪いらしいですね」
ま「どう悪いの?」
せ「パリの高級ホテルの廊下を、ステテコ一丁で走り回っとるおっさんがおるらしいね」
ま「なんと下品な」
せ「ほんで、ホテルのボーイに尋ねよるねやて」
ま「何を?」
せ「どっかで、三波春夫ショーやってまへんか。いうて」
ま「……ヘルスセンターと間違えてるがな」
せ「部屋へ帰ったら帰ったで、部屋に置いてあるテレビのケチをつけるらしいね」
ま「どんなケチつけるの?」
せ「もうちょっと上等のテレビ置かんかい、NHKはいらへんやないか」
ま「……パリのテレビにNHKはいるわけないがな」
せ「そして、ホテルの窓だから、街を歩いてるパリ市民を見て言うらしいね」
ま「何を言うの?」
せ「さすが国際都市パリや、大阪と違ごてようけ外人が歩いてるわ」
ま「同じ日本人として情けないね」
せ「あんたなんか品があるから、こんなことをやったり言うたりせえへんやろね」
ま「当たり前やないの」
せ「この人、見た感じ、ものすごく品があるでしょう」
ま「私、そんなに品あるか?」
せ「あるある」(顔の当たりを指さして)「この当たりなんか、特価品という感じが凄くあるよ」
ま「特価品てなんやねんな!」
せ「日本から海外へ旅行する人も増えてますけど、海外から日本へやってくる人も増えてますよ」
ま「なんでそんなことわかるの?」
せ「実は私、今、アルバイトで外人客専門の観光ガイドをやってますねん」
ま「あんたが外人客専門の観光ガイドを?」
せ「ハイ」
ま「あんた、外国語できるの?」
せ「英語、フランス語、ドイツ語、この三か国語ができますね」
ま「へー、三か国語とも、あんたペラペラですか?」
せ「ペラペラいう程でもないけどね」
ま「ペラペラいう程でもないと言いますと?」
せ「英語がパラパラ程度でね」
ま「英語がパラパラ程度」
せ「フランス語がメロメロで、ドイツ語がガタガタ」
ま「ほとんど出来へんのやないの!」
せ「ま、そういうことですが」
ま「そんなんで観光案内が出来るんか」
せ「私の案内する外人さんというのは、向こうで日本語を勉強してきた人が多いんですわ」
ま「それなら、あんたでも案内できるわ」
せ「でも、それだけに、ちゃんとした日本語を喋らないけませんからね」
ま「あんた、ちゃんとした日本語喋れるか?」
せ「はい、私、学生時代、文法は得意でしたからね」
ま「へー、文法がね、ほな聞くけど、道を歩くという動詞はどういう風に語尾が変化していくか言うてみ」
せ「道を歩くですね……道を歩かない、歩きたい、歩く、歩くとき、歩けば、歩こう……こういう風に変化しますね」
ま「さすが文法得意なだけあるわ」
せ「簡単やこんなん」
ま「ほな、金が欲しいいう形容詞は、どう変化するか言うてみ」
せ「金が欲しいですか……金が欲しい、はよ欲しい、もっと欲しい、ようけ欲しい、貯金するねん……と、こう変化するわけですね」
ま「ほんまかいな!」
せ「私、文法得意ですから」
ま「ほな、海原万里さんは美人だという形容動詞は、どう変化するか言うてみ」
せ「あんたが美人やてか」
ま「はい、それはどう変化しますか」
せ「海原万里さんは美人だろ、美人だった、そら嘘や、おもろい顔してる、売れ残るやろ、かわいそうに、とこう変化しますね」
ま「無茶苦茶いいな!」
せ「日本語で案内するいうても、日本の県の名前なんかは、ちゃんと、英語に直して案内してますからね」
ま「ほな聞くけど、青森を英語に直したらどうなるの?」
せ「ブルー・ウッド」
ま「なるほど、青がブルーで、森がウッドですか。ほな、岩手は?」
せ「ロック・ハンド」
ま「山形は?」
せ「マウント・ポンコーツ」
ま「なんで山形が、マウント・ポンコーツやのん?」
せ「山は英語でマウントで、ガタがきたらポンコツやろ」
ま「……山梨はどう言うの?」
せ「マウント・リンゴにそっくり」
ま「なんや、リンゴにそっくりて」
せ「ナシはリンゴにそっくりでしょう」
ま「それが英語かいな!」
せ「石川やったら、ストーン・リバー」
ま「なるほど、石でストーンで、川がリバーいうわけやね」
せ「そうそう」
ま「ほな香川は」
せ「ブーンブーン・リバー」
ま「なんやのそれ?」
せ「カはブーンブーン飛ぶやろ、そやさかい、香川はブーンブーンリバーや」
ま「そんなんばっかりやがな!」
せ「大阪は、ビッグ・スロープですね」
ま「ほな、兵庫は?」
せ「マッチ一本火事のもと」
ま「なんやそれ?」
せ「兵庫(標語)やないの」
ま「もうええわ!」
せ「日本の観光地を案内してて、一番外人さんが喜ぶのはやっぱり、フジヤマですね」
ま「へー、外人さんも、やっぱり、藤山寛美さんの芝居見て喜びますか」
せ「違うがな!フジヤマいうたら、フジサンのことやないか」
ま「あっ、フジヤマいうたら、フジサンのことですか」
せ「そうや」
ま「ほな、オカヤマいうたら、オカーサンの事やな」
せ「なんでやねんな!……それはそうと、実は私、この前、外人さんに結婚を申し込まれましてね」
ま「えっ、結婚を!?」
せ「あんた、結婚の話いうたら、目の色変わるね」
ま「で、あんた、どう返事したの?」
せ「まだ若いからいうて、断りました」
ま「あんた、まだ十七歳やもんね」
せ「私やないねや」
ま「というと?」
せ「申し込んだ相手が七つやったんや」
ま「七つの子に結婚申し込まれたんかいな」
せ「私、びっくりしたんですけど、外人さんの中には、まだ日本の男性が、頭チョンマゲに結うて、刀差してると思てる人もおりましたね」
ま「そんなん、江戸時代のことやないの」
せ「そのことが、その国の現在使われてる教科書に載ってるちゅうのやからね」
ま「ひどいもんですね」
せ「違う国の教科書には、日本の若者と題して、長髪でヒゲがぼうぼうの男性の絵が載ってるちゅうのやからね」
ま「それは、今の日本そのままですね」
せ「ところが、その長髪のヒゲがぼうぼうの男性いうのは、皮のフンドシ一つで、石斧持って、鹿追いかけてるんやで」
ま「そら石器時代の日本人やないの!」
せ「そういう誤解を解いてもらうためにも、私は、外人さんの観光案内をつとめてるんですよ」
ま「私も、その観光案内できへんやろか」
せ「無理やろね、だいたいあんたは、フグチリには強いくせに、日本地理には弱いでしょう」
ま「なんやその例え方は!」
せ「地理に弱い者は、観光案内はできへんのん」
ま「私、なんにも地理に暗いことないよ」
せ「ほな、私が地理の問題出すから、答えなさいよ」
ま「よっしゃ」
せ「あの有名な箱根の山は何県にありますか」
ま「神奈川県」
せ「残念、箱根の山は天下のケンです」
ま「そんなんありか!」
せ「あの有名な淀川は、どこからどこまで流れていますか」
ま「はい、京都から大阪までです」
せ「残念、上流から下流までです」
ま「みな、ごまかしやないの!」
せ「あの有名な富士山の高さは何メートルありますか」
ま「はい、三七七六メートルです」
せ「残念でした。違います」
ま「どうして違うのよ」
せ「この前、私が富士山に登った時、十センチ削り取りました」
ま「残念でした。その後で私が登った時、十センチ継ぎ足しました」
せ「そんなんありか!」
ま「私、観光ガイドになれるやろ」
せ「なれるでしょうね、だいたい、外国人というのはおおらかですから、ちょっとぐらい失敗しても怒りませんからね」
ま「失敗しても怒らへんのん?」
せ「それに、外国人は人の欠点を悪く言うたり、絶対しませんからね、その人の欠点を誉めますからね」
ま「欠点を誉めてくれるのん?」
せ「あんたなんか、顔ものすごく誉めてもらえるよ」
ま「どういう意味やそれ!」
せ「とにかく、外人いうのは、うまいこと欠点をカバーしてくれますからね」
ま「すると、例えば色の黒い人には、どういうて欠点を誉めてくれるの?」
せ「色の黒いのケッコウネ、汚れ目立たナイヨ」
ま「なるほど、口の大きい人は?」
せ「口の大きいのケッコウネ、ゴミ吸うのに、掃除機イラナイヨ」
ま「……ほな、目の小さい人は?」
せ「目の小さいのケッコウネ、目悪くしても、目薬、半分でスムヨ」
ま「いじましいな!鼻の低い人は?」
せ「あなた、そんなに鼻低くないね、周りの肉が高いダケネ」
ま「同じことやないの!」
せ「うまいこと言いますわ」
ま「最後に、よう肥えた人にはどう言うの?」
せ「よう肥えたんケッコウネ、自動扉、人より早く開くよ」
ま「もうええわ!」

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