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「パパ、ブチ頑張ったけぇ!」長沼圭一魂の6半荘

これはモノを書く時のテクニックというかコツの話になるんだけど、何かのことを褒める時にはその反対側をディスると、より引き立つことがある。強い光は濃い影を落とすということだし、影が暗ければ暗いほど光が際立つということだ。

20期後期入会の長沼圭一の活躍を書くにあたり、何か濃い影はないかなと思ったら20期前期入会の中島由矩ボクがいた。彼は、1年以上もの間(スリアロ出ようかなぁ…。どうしようかなぁ…。でもまだ実力が伴ってないからなぁ…。)などと地方都市でモジモジしてたら、地方都市出身で東京在住の後輩に颯爽と追い抜かれてしまった。

いやその後輩も、若者ならまあ多少はしょうがないかなって気持ちになるんだけど、長沼圭一は2021年10月現在で37歳の(つまり2022年6月21日現在は38歳になってる可能性がある)現役バリバリのアラフォーおじさんで、44歳のボク中島由矩とはキャラ被りの関係にある。麻雀プロに詳しくない方々は、インパルスの堤下敦(44歳)が田中圭(37歳)について書いてると思ってもらえたら。いや、この時点で結構な差g/

今回の大会はスリアロCS6月で、日本プロ麻雀協会をはじめ、最高位戦、RMU、麻将連合の4団体から総勢32名の選手が集い、この日1日で優勝者が決まる。fuzzカップ初戦を快勝した田口淳之介がエントリーしていることも話題になった。

対局映像が残ってないので何とも言えないんだけど、長沼は4回戦でなんらかの大爆発を起こし、3回戦までの合計36.6ptを156.6ptに伸ばして準決勝進出を決めている。

風のウワサでは役満・国士無双が出たとか出なかったとか…。そして、もしそれが本当だとしたら、放銃者は下のツイートの人かもしれないとだけ記しておこう。スリアログラチャン経験者から大きなポイントをもぎ取って、長沼は準決勝に殴り込みをかけた。

準決勝では△17.5ptとやや振るわなかったものの、4回戦までの貯金が生きた形で、長沼は自身初の決勝卓、すなわち放送卓へとやってきた。

スリアロCSはポイントが持ち越しなので、準決勝までの間にほぼ優勝者が決まってしまっていたり、決勝戦では4人中2人にしか現実的な条件がない、ということも珍しくない。今回、決勝進出者のポイント差が、1位の豊口杏平(協会)から4位の井上祐希(最高位戦)まで31.7ptしかないのは異例と言っていいかもしれない。分かりやすくまとめると、決勝卓でトップになった者がスリアロCS6月のチャンピオンということになる。

ここで長沼について簡単にまとめておこう。ボクはこういう時だいたいリモトーークを参考にしてる。まだ出てない協会員の方は出演を希望してみては。ボクは出たことないけど。

長沼は山口県出身の37歳で、高校卒業をきっかけに上京。以降東京で暮らし、今では山口生活よりも東京生活の方が長くなった。既婚者で、10歳の女の子と6歳の男の子のパパである。麻雀は大学で覚えたので、雀歴は19年というところだ。

雀王戦はE3リーグに所属していて、ちょうど第4節で同卓したところだった。「ドラまたぎに放銃すると高くつく」と教えてもらったので、ボクはお礼として8000点を支払った記憶がある。その時トップ目だったので激痛だった。なんで5sじゃなくて5pを選んじゃったんだろう。

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すっかり前置きが長くなったけど、ここから決勝卓の様子を見ていこう。

長沼の人生初の放送卓は、8000の放銃から始まる。2つ仕掛けた協会先輩豊口に対し、東で放銃して、中・東・ホンイツが決まった。ちなみに豊口は北家なので、北だったとしても同じ8000になる。微差ながら準決勝を終えてトップに立っている豊口としては、絶対に負けられない戦いがいい形で開幕した。

この話に年齢を絡めると書いてる自分自身も暗い気持ちになるけど、いきなり8000のビハインドを負った長沼に、変な気負いや特別変わった振る舞いが見られなかったのは、やはり「年の功」ということになるだろう。

東2局1本場では、ともすれば門前で立直と行きたくなる手牌をグッと堪えて、

1000は1300のポンテンに。258sの三面張で確実に点棒を積み上げていく。この判断には、親の秋山ともひさ(RMU)が6巡目にドラの9pを切っていることも関係しているか。親からの立直を受ける前にさばいておきたい局面だった。長沼が家族に見せたい麻雀というのは、派手な殴り合いなどではなく、知的な読み合いということなのだろう。

長沼は、迎えた東3局の親番でも好配牌を丁寧にまとめ、立直・平和・ツモ・裏ドラ1の2600オールを加点。戦線に復帰する。

しかし、

◆勝ちたい気持ち
◆今日の麻雀の調子
◆麻雀の腕

すべての面において、ほぼ差がない状態の4者が卓を囲んでいるわけで、このままスンナリ逆転優勝への道がひらけたわけではない。東3局1本場では、井上(36m)・秋山(36p)から相次いで2軒立直を受けると、打1pで一発こそ逃れたものの、最終的には立直宣言牌の打3mで無念の放銃。裏ドラが乗らなくて立直・タンヤオ・平和3900は4200ですんだのが、不幸中の幸いではあった。

点棒は1万点台で着順は3着目にいた長沼浮上のきっかけは、南2局1本場のことだった。ソーズ多めの配牌をもらった長沼には、この手を8000に仕上げるアイディアがあった。まずダブ南を重ねて1つ目のミッションをクリアすると、

そのダブ南のポンから発進。

すぐに9sにも声をかける。長沼が1回発声する度に1つピンズが河に放たれ、手牌の中のソーズの濃度が高まっていく。ドラが2pなのだが、6p→2p→8pの順で切っていくのは長沼オリジナルの手順だ。2pは井上にポンされるものの、長沼は井上に先んじてまずは1s単騎の聴牌を果たす。

聴牌から南を加カンすると、嶺上にいたのは1枚切れの東だった。実は元々の待ち牌である1sは山に3枚いたのだが、長沼は七対子の要領で東単騎に待ち変え。

ドラポンの井上から討ち取って、ダブ南・ホンイツの8000は8300をゲットした。このように、ダブ東ホンイツの12000とか、ダブ南ホンイツの8000は、ドラがなくても打点を作りやすいので、麻雀愛好家のみなさんは今日から試してもらえたら。

東場でも、東2局に東ポンテンの2000は2300から東3局親番で2600オールというのがあったけど、南場でも同様の流れになった。続く南3局長沼最後の親番で、

聴牌時には2枚とも山にいたドラの6sをすべて他家に吸収されながらも、最後の最後に2sツモで2000オールの加点。

しかも、この時長沼自身は知る由もないのだが、井上が役満・国士無双の一向聴まで迫っており、もし長沼の2pチーからの仕掛けがなかったら成就していた可能性が高かった。チーがなければ井上に入っていたはずの9pが秋山に流れて、ツモ切られてしまったのだ。また井上の河も、2巡目に1p、3巡目に發と切られており、対局者たちは後で放送を見返して肝を冷やしていたのではなかろうか。

もし長沼の2pチーがなければ、その後は北をめぐるロシアンルーレットになっていただろう。

南4局オーラスを迎え、長沼の腹は決まっていた。

東家・豊口35400
南家・井上△4000
西家・秋山37700
北家・長沼30900

一般的に、北家はあまり副露すべきでないとされている。理由は、北家が副露すると、その分必然的に親の手番が多くなり、親の手が早く大きくなりやすいためだ。しかし、その北家がトップ目と6800差の3着目だった場合はどうだろうか。

マンズ多めの配牌をもらった長沼に迷いはなかった。9mをポンしてピンズを整理し、次いで字牌も河に流していくと、

自身が9mをポンしていて薄い69mの6mを引き入れてついに優勝への聴牌。待ちは苦しい辺3mだが、山には2枚眠っている。まだ22時前の出来事だ。2人のお子さんはこの瞬間を視聴していただろうか。

実はこの時トップ目の秋山にも優勝聴牌が入っていて、待ちは58sだった。元々トップ目の秋山は、この手を倒せば優勝なのは当然として、流局した場合親の豊口がノーテンでも優勝できる、4者の中では1番優位な立場にあった。

一方、親の豊口も全身全霊をかけて優勝に向かっていた。ノーテン流局濃厚な16巡目に7sをポンできて形式聴牌。ドラドラなので、海底や河底なら5800の和了りで次局をトップ目として迎えられるし、仮に全員聴牌であったとしても、トップ目と2300差の2着目として南4局がもう1度やれるなら本望だろう。

長沼応援団には、山に2枚眠っている3mが行ってほしくない場所が1つだけあった。井上のところだ。

上の画像を見ても分かる通り、井上は長沼の和了り牌である3mを1枚、秋山の和了り牌である58sを4枚も抱えている。麻雀だけでなくテーブルゲーム全般において、井上の立場から3mや58sを放銃することは悪とされている。いや、悪とされているで語弊があるなら、善しとされていない、でどうだろう。とにかく井上は耐えた。箱下に沈んでも、最後の砦は守った。

この3mは、鳴きがなければ長沼のツモだったんだけどなぁ…というのは長沼ファンの贅沢かもしれない。最後は秋山がつかんだ。我々はこの3mが長沼の和了り牌だと分かっているが、そうとは知らない秋山の立場で考えてみよう。

この3mを切らない場合、秋山はノーテンだ。親の井上が今の7sポンで聴牌していれば、瞬間トップ目が交代することになる。次局は追う立場として、今局以上に積極的に動いて行かなければならないだろう。

この3mを切ってロンの声がかからなかった場合、秋山は聴牌だ。親の井上が聴牌だったとしてもトップ目のまま次局に入れるし、親の井上がノーテンだった場合は自身の優勝が確定する。

秋山は悩んだ。長沼自身の河に5m6mと並び、親の豊口が7mを押した今、3mの濃度は高くなっている。しかし単純両面である36mのことは心配しなくていいとしても、嵌3mや辺3mはどうだろうか。2mをポンした長沼が、4枚目の2mも持って待ち構えてるなんてことがあるのだろうか。ましてや3m単騎など…。

かくして秋山は3mを河に放り、長沼の優勝が決まった。

放銃した秋山はガックリとうなだれた。1日中戦い続けた麻雀プロの、いや麻雀プロたち32人の、絞り出すような最後の1打だった。断末魔と言ってもいいかもしれない。井上は全てを確認して静かに手牌を伏せ、豊口は眼鏡に手をやった。泥だらけの高校球児の姿は全国民の胸を打つだろうが、この光景で感動できるのは麻雀ファンだけの宝物だ。

この観戦記の最後は、優勝者本人のコメントで締めよう。

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長沼さん、スリアロCS6月度優勝おめでとうございます!

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