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法務スタッフ向け 秘密保持契約の基本

法務スタッフ向け 秘密保持契約の基本

アスクルやアマゾンで備品を発注する、とかでもない限り、基本的に企業が誰かと取引をする場合、いきなり発注したり、発注書や契約書を締結することはありません。

多くの場合、その前段階で、自社が発注する側であれば自社が実現したいことを、自社が発注される側であれば相手が実現したいことに合わせて調整できることを、双方の社長や、営業、システムエンジニアを通してやり取りをします。

発注段階で締結する業務契約や基本契約には当然秘密保持条項が含まれますので、それとは別に秘密保持契約(通称NDA)を締結する意味はあるか?、という疑問を持たれる方もいると思います。

1 そもそも秘密保持契約とは?

秘密保持契約とは、文字通り秘密を保持する(漏らさない)ための契約です。NDAとも呼ばれますが、「Non-disclosure agreement」、直訳すると漏らすことを許さない契約(口を閉じる(close)ことを破る(dis)ことを許さない(Non)契約(agreement))です。

2 秘密保持契約はなぜ必要?
自社の情報資産を守るためです。

産業スパイやクラッキングのように、不正に情報を盗む行為は法律で禁止されています。
また個人情報や特許や著作権、商標のように権利として成立しているものも、法律上保護されます。
他方、そのどれにもあたらないもの(発明前のアイディアや事業計画(出店計画や価格設定)、売上情報等)は、法律上保護されておらず、基本的に、知った情報は公開するも、競業他社に売り払うも、自分の事業に使うも自由です。

このようなリスクを低減するためにも、企業秘密が関わる業務委託に関しては、多少手間がかかっても秘密保持契約を結ぶことが大切です。

特に、下記3点が大事です。
・適切な時期に結ぶこと
・秘密情報がなにであるかを把握すること
・秘密保持契約があるからといって余計な情報を開示しないこと


3 秘密保持契約の締結時期

いつまでに契約をまけばいいか。

よく見かけるのが、担当者同士の打ち合わせも全ておわり、さあ取引をしましょう、という段階で基本契約書や業務委託契約書と一緒に秘密保持契約書をまくパターン。

なんで基本契約書や業務委託契約書に秘密保持条項があるのに、別途秘密保持契約をまくの?という疑問をもつこともあるのではないでしょうか?

契約期間や事業の射程の点から、重複してまくこと自体は意味があります。
ただ問題なのは、この時点で秘密保持契約をまくことは「遅い」ということです。

秘密保持契約の目的は「自社の情報資産を守るため」です。
つまり、情報資産を相手に開示してからでは、万が一相手が情報取得が目的で近づいてきた場合、秘密保持契約をまかずに、情報資産だけもってとんずらする場合があります。

なので「相手に悪用されて困る情報を相手に渡す」時点では秘密保持契約を締結しておくのが安全です。

4 秘密保持契約書の作成

秘密保持契約の書式自体は、ネット上でも探せますし、記載の細かさに違いはあれど、基本的にテンプレート化しています。

大体が下記の構成になります。
・秘密情報の定義
・秘密保持義務の内容
・契約期間
・秘密保持義務に違反した場合の賠償義務の範囲
・裁判管轄

特に、注意する点は2点あります。

①秘密保持義務を負うのは片方だけか両方か

 相手からドラフトをもらった場合は特に確認が必要です。
 秘密保持義務の記載(たいてい第1条か第2条)で、「甲及び乙は、相手型から開示を受けた~」となるか「甲は、乙から開示を受けた~」(「乙は、甲から開示を受けた~」の場合もある。)となるかです。
 前者は双方向(両者が守秘義務を負う)に対し、後者は甲又は乙だけが一方的に守秘義務を負います。大手の企業にベンチャーや小さい企業が取引を申し込むとこの形態になる場合があります。
 
 後者の場合、当然相手は秘密保持義務を負いません。とはいえ、これは必ずしも不公平というわけではありません。取引の種類によっては、片側からしか情報を開示しないケースがあります。その場合、双方向で秘密保持を負う意味がなく、むしろ相手から秘密情報を受け取る予定がないのに無用に秘密保持義務を負うことがリスクになります。

②いつの時点で開示したなんの情報から秘密保持義務の対象にするか

 これも第1条か第2条で「開示を受けた一切の情報」とする場合と「書面で開示を受けた情報のうち「秘密」や「confidential」と記載されたもの」と範囲を限定する場合があります。
 当然後者の場合、口頭で開示した情報や書面であっても「秘密」の記載がないものは、秘密情報として保護されません(口頭に関しては、開示を14日以内に書面で通知した場合は含める、といった補足が入る場合が多いです。)。

 後者の方が秘密情報の範囲が明確なので、お互いにトラブルになりにくいです。ただし、適切な運用が必要です。

 また既に情報を開示したあとに、秘密保持契約をまく場合(基本契約を一緒にまく場合はたいてこちら。)もあります。法律や契約書の原則は過去にさかのぼりません。この場合は、秘密保持契約書の締結日を最初の打ち合わせ日より前にする、契約期間の起算日を契約締結日ではなく最初の打ち合わせ日にする、秘密情報の定義に契約締結前に開示した情報を含む、とするなどの修正が必要です。

まとめ

秘密保持契約をまく際のポイント
①遅くても自社の大事な情報を話す前に締結する。理想は最初の打ち合わせの前。
②相手のドラフトを受け取った際は、「相手も秘密保持義務を負うか」「秘密情報の限定があるか(書面で「秘密」と記載したものに限る等)」を確認する。

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