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ちまき存亡の危機⁉

 猪名川上流域にだけ存在する独特なちまきがあるが、その伝承が途切れようとしている。今回は、しい茸のことから少し離れるがこの地区のちまきについて触れてみたい。


 五月の端午の節句にちまきを食べる風習がある。ちまきと言えば餅をクマザサで包んでイグサで巻いた京風のものが一般的だ。流通が発達した現在、このちまきが日本全国で食べられるようになっている。しかし、もともとは日本全国にそれぞれの地域のちまき文化があった。この猪名川周辺にも、独自のちまきの文化があり、家庭で作られていた。猪名川流域のちまきは、米粉で作った餅をナラガシワの葉で下包みし、葦(ヨシ※この地方ではアシとよぶ)でさらにつつみ込み、イグサやシュロで巻いたものである。葦で包むちまきは、他にも近畿地方や四国、九州で見られるが、ナラガシワの葉と葦の二重で包むちまきはこの地区にしかないと言われている(神戸大学院名誉教授:服部保先生談)。

通常のちまき(熊笹で包んである)
北摂地方のちまき(葦で包んである)


 何とかしてこの地区で伝承されてきたちまきを食べたい!ということで、猪名川で和菓子の工房を持ち、豊中でお店を構えている照月堂の辰巳和彦(たつみかずひこ)さんを訪ねた。

「葦で包んだやつやろ。確かに前は食べてたよ。簡単やから作れるし、文化を残すとかそういうの大事やと思うから、何でも手伝うよ。ただ、材料(葦)があるかどうかやわ。葦をもってきてくれたらいつでも作るよ」

そう言って御快諾いただけたものの、肝心の葦が無い。葦は、昔は川の水辺にどこにでも生えていたそうだが、今は土手が整備されすっかり減ってしまったという。その場は、そう言って別れた。探さないと思っていたところ、夕方辰巳さんから連絡が入った。

「葦があったから、明日作って持ってくわ!」

なんと、猪名川からの帰り道で、葦をさがしてくれたのだ!


  翌日、辰巳さんは猪名川特有のちまきをもって訪ねてくださった。

「持ってきたで~。久しぶりに巻いたわ~」

いつもの素敵な笑顔で、袋に一般的なちまきと今回お願いさせてもらったちまきを作って持って来て下さった。

辰巳さんが持って来てくれた幻の北摂ちまき!

「そうそう。これこれ~!!」

リンママも子供の時に食べていたそうで、葦で包んだちまきを懐かしそうに見ていた。

「これが、葦。これがイグサ。イグサは畳の材料にするやつや。葦は、帰りに猪渕(猪名川の地名)に寄っていって葦ないかなぁって話してたら、『そこあるやん』ってなってな~」

袋には葦とイグサも一緒に入っていて、材料も見せてくれた。

ほどいてみると…
葦の中からナラガシワに包まれたちまきが!!


その場で、イグサの包みをほどいてみると、イグサと葦のみずみずしい香りがひろがる。中には、柏につつまれた団子がはいっていた。一口食べてみると、柏の気持ち良い香りが口の中に広がる。味は甘いのかと思ったが、全く甘くなく、優しい味だった。。少し意外だった様子をしていると、辰巳さんが

「味は全く甘くないんよ。塩味でね。昔砂糖は田舎では手に入らんかったから、きな粉をつけて食べとったんよ。材料も当時は家にあるもんでやってたんとちゃうかな。今は米粉と餅粉をブレンドしてるから口当たりがつるつるしてると思うけど、昔は米粉だけだったからもっとざらざらしてたと思うわ」

リンママも懐かしそうに、ちまきを見て、

「昔おしなのおばあちゃん(リンママの祖母)がしてくれたんよ。この巻き方が分からへん~っていったら『こうすんのやがな~』って(笑)」

 この地区では、この時期になるとちまきの材料として必ず指定された樹から葉をとってきて包んでいたという。今から思えばそれが、ナラガシワの葉っぱだったという。


 もともとは、端午の節句の時期に地元でとれる材料を使ってちまきを作っていた。日本海側ではクマザサが採れたのでクマザサで、西日本は葦が採れたので葦を使って巻いていたという(参考文献:かしわもちとちまきを包む植物に関する植生学的研究 服部保著)。関東はというと、柏餅を食べる文化はあったが、ちまきは一般的ではなかったよう。


 今回は、辰巳さんのお力添えにより猪名川地区で伝承されていたちまきを食べることができた。とても素朴で優しい味だった。それは流通が発達する中で、廃れてしまう文化なのかもしれないが、こうした食文化があったことや食文化にまつわることが、途切れてしまう前に伝承していきたい。また、いつか色んな方々に食べてもらえる機会を作りたい…


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