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「なかさこてん」を暴く!

こんにちは! 作編曲家の中迫です!
先日、私の曲オンリーコンサート「なかさこてん」が開催されました。

なかさこてんフライヤー / デザイン:髙山彩矢子さん

当日お渡ししたプログラムノートでは書ききれなかったこと等をどんどん書きたいと思います!

なかさこてん / 集合写真

編成と奏者!

「オーボエを欠いた木管五重奏(フルート属2本・クラリネット属・ホルン・ファゴット)、弦楽四重奏(ヴァイオリン2本・ヴィオラ・チェロ)・コントラバス・ピアノ・パーカッション2人」という編成でお送りしました。各楽器をもう少し詳しく解説します。

・ヴァイオリン / Violin

中~高音域を担当する弦楽器です。弓で擦ったり叩いたり、指で弾いたりと、色々な奏法があります。弦楽器は長時間弾いてもあまり疲れないので一般的なオーケストラでは音楽の核となることが多いのですが、音量が管楽器に比べて小さいので、今回のコンサートではどちらかというと優雅な華または伴奏担当になってもらいました。
奏者は通常2人、一般的には1st、2ndと呼び、1stが高音側を、2ndが低音側を演奏します。また、1stヴァイオリン奏者は「コンサートマスター(男性)」または「コンサートミストレス(女性)」と呼び、合奏全体をまとめる役割もあります。(指揮者とは別に演奏のタイミングを合わせる動きをして他の奏者にタイミングの指示を出します。これを「(アイン)ザッツを出す」などと言います。)
奏者は宇佐見優さんと向吉彩華さん。2人で全く同じ音を出すユニゾンという楽譜が多かったのですが、息ぴったりで全く同じ音を出してくれました。

・ヴィオラ / Viola

中音域を専門に担当する少し大きいヴァイオリンです。いや、正確には小さいヴィオラのことをヴァイオリン(Viola+in=Violin、in=小さい)と呼び、昔はヴィオラが主役だったのです。弦楽四重奏ではテナー音域を担当し、ヴィオラがいないと絶妙に音楽が寂しくなります。
楽譜もト音記号やヘ音記号でなく、ヴィオラの音域をちょうど良く表せる、ハ音記号を使った「アルト譜表」というものを使います。
奏者は白井英峻さん。しっかりと内声を響かせてくれました。

・チェロ / Violoncello

低音域を担当する大きなヴィオラです。縦に構え、楽器の下から伸びている棒をホールの床に突き立て、ホールの床まで使って音を出す楽器です。バスパート(=ベース)の他、高音域でメローディーを担当することも多い楽器です。
今回の演奏会では後述のコントラバスやピアノがいるため、ヴァイオリンやヴィオラと一緒にメロディーを担当する箇所も多くありました。
奏者は小野江良太さん(YouTube)。1stヴァイオリンとチェロのことを外声と呼び、外声がまとまっていると音楽がまとまります。1stの宇佐見さんとチェロの小野江さんは夫婦なので、息ぴったりでした。

上記の4人で弦楽四重奏、通称弦カルという編成が構成されています。弦カルの4人は大変仲がよくアンサンブルも調和するため、今回の演奏会では弦カル単位で演奏する楽譜を多く書きました。

・1st フルート / Flute

(1管編成にもかかわらず)今回はフルート奏者が2人いるため、便宜上1stフルートと呼んでおきます。
いわゆる横に構える金属製の木管楽器で、高音域を担当します。この楽器は俊敏な速いフレーズも得意なので、華やかなフレーズも多く書きました。人数の大きなオーケストラではフルートの低音域はあまり聞こえないのですが、今回の小編成ではよく聞こえると思い、フルートの低音のメロディーも沢山書きました。(フルートの低音域が大好きなのです)
奏者は石田彩子さん。1曲だけピッコロも吹いて下さいました。

・2nd フルート、ピッコロ、アルトフルート/ Flute & Piccolo & Alto Flute

通常このポジションにはオーボエという楽器が来るのですが、今回は2本目のフルートが登場します。決してオーボエが嫌いな訳ではありません。私は普段フルートを中心とした管楽器を研究するサークルに所属しており、その研究結果をこのコンサートで発揮したいという思いがあったからです。
(専門的な話:1管でも3度ハモりが欲しい時があるじゃないですか。その時にフルート/オーボエやフルート/クラリネットでもいいんですが、やっぱり同属楽器同士で欲しいよね、という理由も大きいです。あと、オーボエのスペクトラム的に私の今回の音楽には合わないと判断してフルートにしました)
奏者は岡田澪さん。今回はフルートの他にピッコロとアルトフルートも担当して頂きました。
ピッコロは、(細かいことは置いておいて)高い音が出る小さなフルートです。その小ささからは想像が出来ないほどの爆音が鳴る楽器なので、使うときは慎重にならなければいけません。華やかな場面で使いました。
(専門的な話:Tierce en taille的なサウンドが欲しい時にも大活躍しました。今回は「うねうねしたワルツ」「入道雲」「渋滞」の3曲で使っています)
アルトフルートは少し大きなフルートで、フルートよりも少しだけ低くふくよかな音がします。ソロで使ったり、1stフルートとクラリネットの間を埋める役割で登場したり、通常のコンサートよりも大活躍しています。

・クラリネット、バスクラリネット / Clarinet & Bass Clarinet

縦に構える黒い木で出来た木管楽器です。音域が大変広く、割と何でも出来てしまうため、今回の演奏会ではとても活躍しています。吹奏楽やオーケストラでお馴染みのBb管、吹奏楽では通常使われないA管の他に、より低音を出すことが出来るバスクラリネットの3つを、奏者の前田優紀さん(YouTube)に演奏して頂きました。
専門的な話:前田さんはエーラー式の奏者なのでバスクラももちろんエーラーでした。エーラーのバスクラはなかなかにレアなのでちょっと面白かったです。エーラー式は右手小指のキーが2つしかありません。バスクラはロング管指定です。

・ホルン、ナチュラルホルン / Horn & Natural Horn

近藤圭さんというホルン研究家がおりまして、今回その方にホルンとナチュラルホルンをお願いしました。普段は天才思想家botという名前でホルンに関する研究(?)を発表しています。(YouTube)
ホルンは、カタツムリの様な形をしたラッパです。
昔のホルンは管を丸めただけの構造で、口を使って出す音を決め、右手をラッパ(ベルと言います)の中につっこんで音程を微調整していました。このタイプのホルンを現代ではナチュラルホルンと言います。ドレミがすべて出せず、独特の音色の不均一さがあります。今回は3つ長さのナチュラルホルン(G管、D管、C basso管)を使いました。
その後19世紀初頭、産業革命により管の長さを変幻自在に変えられる装置が発明されドレミの音がすべて出せるようになったホルンが今我々が良く目にするホルンです。残りの曲はこの現代のホルンを指定しました。

・ファゴット、バソン / German Bassoon & French Bassoon

ファゴットは赤っぽくて長い木管楽器で、低音から高音まで何でも担当します。バソンというのはファゴットのフランスでの呼び名ですが、ここではフランス式バソンのことを指します。
歴史的にファゴットは大きく2種類あり、音色や運指が異なります。今回の演奏会では、ドイツ式ファゴットとフランス式バソンの2種類を曲によって持ち替えるという指示を出しました。この2つを持ち替える演奏会はほとんど例がなく、そんな芸当が可能な奏者は世界を探してもあまりいません。こんな無理難題を引き受けて下さったのは、ドゥルチアンやバロックファゴットなども演奏する長谷川太郎さん。(YouTube) (というよりドゥルチアンやバロックファゴットの方が専門らしいです)

・コントラバス / Contrabass

一見大きなヴァイオリンに見えるコントラバスですが、ヴァイオリン属ではなくヴィオール属であるという見解が一般的です。つまり、楽器の形がヴァイオリンやチェロとちょっと異なり、一般的には弓の持ち方も違います。(専門的な話:フレンチボウの19世紀に発明された比較的新しい奏法です)
この楽器は今回の編成にいる低音楽器(チェロとファゴット)のちょうどオクターブ下を演奏する、重要なサポート楽器です。この楽器があるのとないのでは、いわゆる重低音感がだいぶ違います。
また、単体でバスを担当し、チェロやファゴットをメロディーに回すことも、今回の編成では十分可能です。
今回最低音がHの5弦のコントラバスを演奏して下さったのは、近藤聖也さん。

・ピアノ / Piano

みんなもご存じピアノです。本来オーケストラにはいない楽器ですが、今回は小さな編成ですので、サポートとして色々な曲で大変働いています。このコンサートの楽器の音域はすべてピアノの中に収まるので、如何にピアノの音域が広いかが分かりますね。
演奏は小林恒幸さん。

・パーカッション / Percussions

打楽器です。今回使った楽器は以下の通り。

ティンパニ4台:音程のあるトルコ由来の低音の太鼓
マリンバ(A-C):ふくよかな音が鳴る音のアフリカ由来の木琴
グロッケン:甲高い音の出る鉄琴
スネア:小太鼓
タンバリン:音ゲーのヒット音はだいたいこれ
合わせシンバル:2枚の金属板を打ち合わせるトルコ由来の楽器
吊りシンバル:シンバルをぶら下げて毛糸の付いた棒で叩くとなんかすごい
フィンガーシンバル:ペルシャのベリーダンスで使う小さな金属板
スプリングドラム:太鼓にバネを付けた面白い楽器
アピート:サンバで使われる笛
ウッドブロック:木魚の様な音が出る木の塊
シェイカー:中に粒がたくさん入っているシャカシャカ言うやつ
トライアングル:チーンって音がするやつ
ボンゴ:ラテン系音楽で使われる大小2つセットの小さな太鼓

これらの楽器を担当したのは麻生弥絵さんと北島友心さん(と少し私)でした。
(専門的な話:マリンバはふんだんに4本マレットが出てきます。ありがとうございました)

・指揮者

本番では指揮棒を振っている所しか見えませんが、リハーサルなどでは楽譜を読みこんで奏者に演奏指示を出したり、音量やテンポを決定したり、色々と忙しい仕事です。
テンポが変わる所や、演奏を始める所が分かりにくい所は指揮者が奏者に指示を出します。奏者は奏者で指揮を見ないといけない所にはメガネのマークを書きます。

ホルンのパート譜に書いてあったメガネマーク

村本寛太郎先生、たのしい指揮をありがとうございました!(ポディウム音楽事務所ホームページ


楽曲解説!

専門用語も多くありますが許して!
原曲のYouTubeも貼れるものは貼っておきます!

01. さいたまコンチェルト

私が今住んでいるさいたまのスタジオに遊びに来てくれたことがある奏者のために書いた曲です。原曲の7人用を13人用に拡張した結果、ソロ回しが全員に行き渡らないバグが起こりました。弦の内声はリピエーノ、ピアノは通奏低音だと思っておきましょう。ホルンはDナチュラル。

ホルンソロはナチュラル用に書いてある

ブランデンブルク協奏曲2番のパロディです。

02. うねうねしたワルツ

バスフルート、バソン、オフィクレイドというとち狂った3重奏の曲をまともな編成に書き直しました。(バソンはバソンで吹いてもらいました)

半音階でうねうねした音型が続くワルツです

03. 怪しげなセスキ

端的に言うと、メロディーがカノンになっています。

オスティナートバスの上でフルート2本がカノンを奏する
弦の内声2人のビスビリャンド的書法にも注目
同じ楽器が2本あるとこのような同音反復が出来る

04. プリミティブなアルマンド

平行移動する伴奏の上でバソン・チェロ・ホルンがちょっとずつずれていくメロディーを奏でます。ホルンはC basso。

05. 走馬灯インテルメッツォ

中間部分で「うねうねしたワルツ」と「プリミティブなアルマンド」の中間部分が出てきます。

コンサートでは原曲からメロディーそのものを変えています。

06. さらばのサラバンド

陰旋法を使ったリコーダーと通奏低音のための曲が原曲です。

16のグリッサンドが上手く行って良かった
グロッケンの弓弾きはかなり効果的だったと思う

07. まちまちなマーチ

これも頭の悪い曲です。1/4で取れば何拍子だろうが行進できる、かつ中音楽器のみのアンサンブル、というのがコンセプトです。

08. オシャンティーなガヴォット

譜読みが面倒くさい

元々は適当な楽器3本のための曲だったのですが、明らかにピアノ向きだと思い、コンサートではピアノで始めました。

09. ありよりのアリア

ショーム・フルート・バスフルート版、リコーダー・ヴァイオリン・チェロ版、ポップス版などがありますが、今回は全部の良いところを凝縮したアレンジにしました。

10. ほどよく急ぐジグ

新曲でした。イングランド風のジグ(アイリッシュじゃない方)です。トリオは文字通りフルート・クラリネット・バソンの3重奏になります。

難しいバソンソロがあります

11. 柑橘系の飴で舌がビリつく

優雅にアレンジしたら絶対面白いでしょこの曲。

12. オムライス食べたい

ファゴットとメロディーだけっていうのも乙なものです。

13. プラネタリー・ディテクション

エレクトロスイングをエレクトロじゃなくする作業をしました。
リハーサルでどうしてもテンポ感というかノリが出せず、当日になって急遽私がスネアブラシで入ることになるという変更のあった曲です。

クラシック編成でもジャズみたいに書けばそういうサウンドになるんだな~って思いました。弦はfでも良かったかも。

14. ねむぺこのうた

そのままです。

15. 持久走deテスト

楽譜を書いたときは崩壊の可能性を懸念していたのですが、全くそんなことありませんでした。
原曲のベースは5弦ベースを使っており、今回のコンサートも5弦コントラバス(最低H)だったため、原曲の決めポイントの最低Hのロングトーンがそのまま再現出来て大変良いサウンドがしていました。

5弦コントラバスの最低音付近は想像よりも良く鳴る

18. 灰かぶりの女王

原曲は上の動画ですが、今回のコンサートではピアノ版の方をベースにしました。サビのホルンの裏打ち兼オブリガードは完全にピアノ版です。
この曲のラストもコントラバスのHを効果的に使っています。ファゴットの最低H等と重ねることで、オルガンペダルの32'ストップを再現しています。かなり良好でした。

ユニゾンでHまで下がる

17. 入道雲

YouTubeの生放送でウケ狙いで書いた曲が予想外に人気だったのでコンサートでも取り上げました。13人でどこまで吹奏楽らしいサウンドが得られるかという勝負でしたが、いかがでしたでしょうか?(私は吹奏楽は疎いのでよく分からない)
ピアノ版では入れられなかったオブリガードなどが追加されています。

18. Ciptaan

新曲です。ミニマルです。飽きるかと思って4分ちょっとでまとめたら、もっと聞きたかったと言われました。意外と皆こういうの好きなのね、と思いました。
なお楽譜はこういう感じになっており、奏者の忍耐力が試されます。

ミニマルあるある~

19. 京都のアメリカ人

だいぶ昔に後輩のチェロ弾きのために書いた曲でした。
ガーシュインとかその辺りの作品と陰旋法をミックスした曲です。

20. 目覚まし時計

スヌーズで目覚ましが鳴り続ける朝に弱い人の曲です。
なんとなくクラリネットとホルンとファゴット奏者に申し訳ない気持ちがありますね……(代替案は用意してあったけど皆そのまま吹いてくれました)

息継ぎのない下2人と、難しいクラリネット

21. ばーちゃんのよこ

原曲は6声、今回の編成は5声x2、さあ困ったぞ、となった曲です。音量の大きそうなホルンに1つ回して、バスに3つ、残りの6パートに3声を2つずつ割り当てて事なきを得ました。
ティンパニには布をかけています。西洋の昔の習慣で、お葬式ではティンパニに黒い布をかけていたことに由来します。

ベタ書きがよく鳴る曲

22-28. リコーダー交通組曲

原曲がリコーダー用なのでどう書いてもちゃんとした音になるの、ちょっと面白いなって思いました。個人的お気に入り曲は並木道です。灯台のホルンはG管ナチュラルです。

29. 梅雨のミュゼット

冒頭に数小節追加した以外は割とそのままです。
フランスや旧ソビエト圏のワルツが好きなので、コンサートではそういう感じのサウンドを目指しました。トリオは宮廷ミュゼット風です。

38の頭ような偶成和音が大変好き

30. マカロンのうた

弦楽器の優雅さと管の元気さの対比が上手く行ったと思いました。

まとめとFAQ

解説は以上になります!質問などありましたらコメントで頂ければお答え致します!
現状TwitterやYouTube等で頂いたご意見

・弦をもうちょっと聞きたかった

私も聞きたかった。楽譜が書き上がったら予想よりも少なくてビックリしました。オーケストラのように弦を土台にするという発想で書かなかったので少なくなったんだと思います。ポップスのストリングスの方が近いかも?

・オーケストラは音量はどうやってバランスを取るんですか?

ざっくりと解説します。まず楽譜の段階である程度バランスが取れるようになっています。その後リハーサルで音を出した時に奏者が他のパートを聴き音量を整え、その上で指揮者がチェックをして各奏者に指示を出していきます。最後に、客席で誰かが聞いて最終チェックをして完成です。人力ミキシングですね!

・映像化・音源化希望

おそらく両方出来ると思いますので今しばらくお待ち下さい!


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